第4回
[ 2023.3.16 ]
1限目:
うま味による『おいしい減塩』の社会実装に向けて~
『U20 Project』より
ジョーさん。さん
日直:ジョーさん。さん

過去3回に渡って行われてきた味の素社からの「部活動レクチャー」もいよいよ最終回。これまで減塩のこと、そしてZ世代の皆さんのインサイトについて学んできましたが、今回のテーマは「グローバルな減塩」でした!

題して「『うま味でおいしい減塩』を最先端のグローバル事例から学ぶ」。

今回の講義は二本立て。
味の素社が取り組んでいる世界の減塩に関する科学的な研究成果のお話と、米国を中心に広がり始めた「Umami」人気と「うま味で減塩」のトレンド。
日本の減塩とは全くイメージが違う、発見がいっぱいの内容に、驚くばかりでした!

今回はフードライターの浅野陽子さんのお力もお借りして、その様子を2回にわけてレポートします!

講師:畝山寿之(うねやま・ひさゆき)さん/グローバルコーポレート本部 グローバルコミュニケーション部 エグゼクティブ・スペシャリスト 医学博士・薬剤師
<このセッションのポイント>
・「うま味とおいしい減塩」についての世界最先端の研究「U20」とは?
・お国柄も反映?世界の減塩政策と、イギリスの「こっそり減塩」の現在
・チャットGPT超え!「うま味でおいしい減塩」で人生100年時代を突破する

「うま味とおいしい減塩」についての世界最先端の研究「U20」とは?

味の素社で30年以上医薬品やうま味と栄養の基礎研究を続け、近年ではその広報活動にも携わっている畝山さん。この日は「うま味による減塩の促進」を目指し世界各国のデータを元に進められている研究「U20(ユー・トウェンティ)」について、わかりやすくレクチャーしてくれました。

「U20」のユーはうま味の「U」、20は「G20※」のこと。「U20」とは、東京大学が中心となって、様々な研究者と連携して、おいしさにこだわった減塩にフォーカスし、G 20に所属する国々を対象とした、「国家レベルで『うま味で減塩』のパワーを探る研究」です。この研究に味の素社もかかわっています。なぜ「20カ国」なのかというと、世界各国の保健行政はG20各国の保健大臣(日本の場合は厚生労働大臣)の集まる会合で決定されるためです。

特に「U20」では、最近わかってきた「うま味でおいしい減塩ができる」という科学的ファクトに基づき、これらの国々の食卓でどうやって実現していくかを研究しています。

※G7(フランス、米国、英国、ドイツ、日本、イタリア、カナダ、EU)に加え、アルゼンチン、オーストラリア、ブラジル、中国、インド、インドネシア、メキシコ、韓国、ロシア、サウジアラビア、南アフリカ、トルコの首脳が参加する枠組

しかし、そんな地球規模の壮大な研究を、どうやって進めているのでしょうか?
まず、減塩のための根拠となっているデータは米・ワシントン大学内の研究所、IHME(保険指標評価研究所)のものだとか。ここでは世界192カ国の「疾患と食事リスクの関係」を1990年から現在(最新データは2019年)まで、約40年に渡ってデータ化しています(各国全世代・男女10万人を対象)。
IHMEによれば日本で最も疾患率が高い病気は昔も今も「脳梗塞」。これに対して、世界では1位が「新生児疾患」ですが、40年前はもう少し低いランクにあった「虚血性疾患」と「脳梗塞」が2位と3位に上がっています。そしてこれらの病気を呼び起こす食事リスクは、日本も世界も40年間変わらず「ナトリウム高含有食」。つまり、「塩分の摂りすぎによる心疾患を中心にした病気リスク」をなんとかしないとまずい、という課題はデータからも明確に浮かび上がっているのです。

お国柄も反映?世界の減塩政策と、イギリスの「こっそり減塩」の現在

「U20」で対象となっている国々では、すでに国を挙げて減塩対策に取り組んでいます。減塩や低塩の加工食品(スープやお菓子、ソース・調味料など)を積極的に販売し、フランスでは「スープ」カテゴリで減塩商品が全体の22%、アメリカでは12%。イギリスでは「朝食用シリアル」カテゴリで13%を占めています。それに対して、減塩や低塩の加工食品数が少ないのが日本や中国、タイ、インドネシアなどのアジア諸国です(2021年データ)。アジアでは醤油や味噌など伝統調味料に多く塩分が含まれる食文化ゆえ、でしょうか?

ちなみにイギリスでは“世界一有名な減塩政策”として2001年から「こっそり減塩」を行い、成果を出しています。イギリス人の食生活に欠かせないパンから、消費者に気づかれないように「こっそり」長い期間をかけて段階的に塩分を下げていったのです。10年間で20%の減塩に成功、その結果、国民の1日あたりの塩分摂取量は9.5g→8.1gに、脳梗塞・虚血性心疾患による死亡率や高血圧率も下がりました。

しかし、この減塩政策は一定の成果を得たことで、今度は砂糖を減らす政策へと移行。その結果、数年後にリバウンドが起きてしまいました。コロナ禍も挟んだ2018〜2020年にはイギリスの大手飲食店チェーンのメニューを無作為で分析するとカロリーと糖分は低下しましたが、味わいのもの足りなさを補うためか、塩分は3年間で上昇傾向にあり、脂肪分(飽和脂肪酸)の比率も上がっていることがわかったのです。

さらに近年、「地球に優しい食事」として世界的に注目されるヴィーガン(卵や乳製品を含む動物性食品を摂らない完全菜食主義)のレストランも、メニューを調べると塩分過剰になっている、とイギリスの伝統ある大手新聞『The Guardian』が発表し、騒然となりました。

チャットGPT超え!「うま味でおいしい減塩」で人生100年時代を突破する

繰り返しになりますが、こうした世界的な塩分過多と健康の問題を解決するため、進められている最新の研究が「U20」です。
「うま味でおいしい減塩ができる」ことを味の素社が世界で初めて発表したのが1984年。以降、2010年の米国科学アカデミーの政策文章や、米国栄養士会のエビデンス調査報告など、今では最初の発見をはるかに超える「うま味で減塩」に関するエビデンスが蓄積されています。現在では「うま味による減塩は世界が目指す健康のためのソリューションの一つの有力なツールである」と世界が認めつつあります。

IHMEがデータを取るさらに前から、40年以上に渡って「うま味と減塩」の研究を続けてきた味の素社。先進国をはじめ、東西様々な地域を含むG20の主要加盟国は、うま味を取り入れることで、各国の減塩が可能かどうかの推察をスタートしたところです。
そして最新の結果では、日本が22%、アメリカは13%、イギリスは18%のさらなる減塩が可能であろうという推定結果が得られています。

まだ飢えや粗食による栄養不足に悩まされ、「人生50年」と言われていた1908年に、いかに『おいしく栄養』を摂れるか、という想いから「うま味」は発見され、味の素社はこのうま味の発見とともに歩んできました。
その歩みも来年には115年目を迎える現在は、寿命は50年伸びて「人生100年」の飽食の時代へ。食べ物があふれている贅沢な時代に、今度は「うま味」を活用して、『おいしく健康』的に栄養を摂れるか、という新たな課題に取り組んでいます。
ドイツの哲学者・ヘーゲルが唱えた通り、人間の欲望やニーズは時代が変わっても根本は変わりません。「おいしく健康に生きたい」という永遠の願いに、次の100年も再び挑もうとしているのです。
ちなみに今回の研究を人工知能の「チャットGPT」に読ませたら、塩分摂取と健康の関係について詳しいレポートは書けるものの、「うま味」という言葉は最後まで出てこなかったそう。まだまだロボットが人間の力、特に“味覚”を越える日は遠い?!

参加した部員たちの声

大変興味深いお話ばかりで、日直の僕(ジョーさん。)も大変ワクワクしました。部員たちからのコメントもご紹介しますね。

つくりおき食堂まりえさん

「イギリスのパンの減塩政策(リバウンドは起きてしまったが)は、画期的でとても面白いと思った。日々の主食から摂る塩分は、結構な蓄積(量)になる。それをこっそり減らすのは、とても良いアイデア。日本人も見習いたいと思った。日本で減塩を進めるなら、加工食品など食品中の塩分を減らすより、意識を変える方が浸透しやすいと思う。イギリスがパンなら、日本では『味噌汁』?うま味を活用して少しずつ減塩したら、受け入れられそう。我が家では味噌の量を減らして、うま味調味料『味の素®』を使った味噌汁が好評で、家族は皆おいしいと言ってくれるし、そういう声がまた嬉しいんですよね。」

ぶんちゃんさん

「様々な食のスタイルが生まれているので、食の志向に合わせたうま味の活用からの減塩を考えていきたいと思いました。例えば、ベジタリアンメニューの塩分摂取量が多くなるのは課題の一つ。ヴィーガン食は動物性タンパク質がなく、イノシン酸が含まれていない。必然的にうま味の相乗効果が起きないから、(おいしさを求めると)塩分が多くなるのだろうと思う。それを補うために「味の素®」を使ってグルタミン酸を増やすのは解決策になると思いました。また、「味の素®」も「ハイミー®」も、成分に含まれているイノシン酸はキャッサバなどの植物を原材料とする発酵法によるもの。こうしたことも知ってもらえれば、ヴィーガン食志向の人たちに安心して活用してもらえるのではないかと思いました。」

僕(ジョーさん。)は、「我々が目指すのは、減塩は単純に塩の量を減らすのではなく、食材との組み合わせで塩分が少なくてもおいしく感じられるやり方。だから、誰でもすぐにやれるようになる。そこを目指したい」と改めて思いました。

また、イギリスのパンによる減塩の『こっそり』施策は、人々がそのパンをおいしく食べていた、ということがミソ。やっぱりおいしさが重要なんだと納得しました。

ちょっと長くなりましたね!(ごめんなさい)

次回は、味の素社が米国で始めた、「Umami Project」についてです。めちゃめちゃ面白いので乞うご期待ですよ!

【執筆者プロフィール】
浅野陽子
青山学院大学国際政治経済学部卒、ダイヤモンド社グループ勤務後に独立、フードライターに。食限定の取材歴20年。オーガニックから遺伝子組み換え食品、飲食店、漁港、ワイナリーなど国内外の様々な食の現場を取材。近著に『フードライターになろう!』(青弓社)。