[ 2023.10.1 ]
Part 2:日米のローソルト料理を楽しみながら
「おいしさデザイン」についてディスカッション
つくりおき食堂まりえさん
日直:つくりおき食堂まりえさん

うま味による「おいしさデザイン」をテーマに日米の“おいしい減塩”を学び合うイベント。第1回目のレポートでは、味の素株式会社食品研究所エグゼクティブスペシャリストの川﨑寛也さんによる「おいしさデザイン」のお話についてお届けしました。

今回は味の素ヘルス・アンド・ニュートリション・ノースアメリカ社のコーポレートシェフと一緒に、どのようにローソルトレシピで「おいしさをデザイン」しているのか、それぞれのレシピ提案とディスカッションを通して学びを深めた様子をご紹介します。日本のLOW SALT CLUB~うま味DE減塩部(以下LOW SALT CLUB)のメンバーが作るローソルトメニューに対して、シェフたちがどんな反応をするのか、楽しみと緊張の入り混じった時間がスタートしました!

<このセッションのポイント>
・ローソルトレシピの試食タイム! 「おいしさデザイン」のポイント紹介も
・日米での「おいしさデザイン」についてディスカッション!

ローソルトレシピの試食タイム! 「おいしさデザイン」のポイント紹介も

この日のために米国で活躍するコーポレートシェフと私たち日本の料理家がおいしさをデザインしたローソルトレシピの数々を、さっそく試食していきました!それぞれのレシピの「おいしさデザイン」のポイントも共有し合いました!!

○ビリアタコス(クリスさん、アーロンさん)

▲(左)クリストファー・ケッキさん/味の素ヘルス・アンド・ニュートリション・ノースアメリカ社 コーポレート・エグゼクティブ・シェフ、アーロン・アンドリュースさん/同社アソシエイト・コーポレート・シェフ

味の素グループのコーポレートシェフとして、「うま味」の重要性をアメリカのシェフや生活者に伝えているクリストファー・ケッキさん(以下、クリスさん)とアーロン・アンドリュースさん(以下、アーロンさん)が、この日のために考案されていたメニューの中から調理実演したのは、「ビリアタコス」。

クリスさん:
このビリアタコスは濃厚なスープにディップして食べる伝統的なメキシコ料理で、今、ハワイやニューヨーク、カリフォルニアを中心としたアメリカで人気があるんです。本来、伝統的なメキシコ料理では、うま味をそこまで活用しません。一方、今回のレシピでは「味の素®」を入れてうま味を加え、より深みのある味わいに仕上げました!うま味成分を増すことによって、伝統的なレシピが新たな味わいへと進化しましたね。

メキシコ料理に欠かせない食材といえばチリ(唐辛子)です。メキシコには100種類ものチリがあるんですよ!

チリの種類は主に2種類。ソースやサルサなどに使われる「生のチリ」と、スープや煮込みの出汁、サルサなどに使われる「乾燥したチリ」があります。

今回使ったのは、乾燥タイプの2種類。辛みが少ない「ドライ・チレ・アンチョ」と、辛みが強くてフルーティな後味がある「ドライチレ(チレワヒージョ)」。違う種類のチリを組み合わせることで、重層的な味わいになります。

ソースには「うま味」と相性が良い、メキシコのチリペッパー「グアヒージョ」を使用。長時間じっくり煮込むことで、うま味が溶け合い、新たな味わいが生まれました。全体的に辛味や酸味、塩味、うま味のバランスがとれた、複雑な味わいに仕上がっています!

▲ビリアタコスが完成。味の素社の川﨑さんによると、チリにはうま味成分のグルタミン酸もたくさん入っているそうです!

〇【冷やしてもモチモチ】 豆腐で作れる!冷やしみたらし団子(あーぴんさん)

ここからはLOW SALT CLUB部員のレシピ紹介です。まず、あーぴんさんから。

▲あーぴんさん/LOW SALT CLUB

あーぴんさん:
団子の生地とたれに「味の素®」を使ってみました。みたらし団子のたれは甘い砂糖と、それに反する醤油の塩分で構成されています。普段、たれには醤油を大さじ2杯弱入れますが、今回は「味の素®」を加えることで半量の大さじ1に。醤油を減らして減塩しても、うま味が引き立ち、物足りなさを感じません。後味にうま味が広がる、おいしいたれに仕上がりました!

▲豆腐で作れる!冷やしみたらし団子

料理には食感も大切ですよね。生地には白玉粉に加え、絹ごし豆腐を使いました。それにより、冷蔵庫で冷やしても固くならない、モチモチ、しっとり、歯切れ良いお団子に。気になる豆腐臭さは、「味の素®」を加えることで抑えられます。食感の良いお団子にとろりとしたたれがからみ、喉ごしの良さも感じることができるレシピです!

〇万能すぎる!生姜うま味たれ(小春さん)

続いて小春さん一押しのうま味たれのご紹介です!

▲小春(こはる)さん/LOW SALT CLUB

小春さん:
シンガポールで有名なレストランの看板メニュー「ジンジャーチキン」のソースを再現してみました!減塩のために、これまで加えていたオイスターソースや鶏ガラスープの素を省くことに。その代わり、「味の素®」を加えてうま味を補いつつ、味のバランスを整えています。

▲万能すぎる!生姜うま味たれ

加えて、生姜やにんにく、ごま油など香りの良い食材と組み合わせることで、シンプルでどんな料理にも合うローソルトな万能だれに仕上げました。これは何回も試作を繰り返して、家族の反応が最も良かったレシピなんです!

〇最高の長芋フライ(だれウマさん)

だれウマさんはシンプルでありながらうま味や甘味が引き立つ長芋のレシピ!

▲だれウマさん/LOW SALT CLUB

だれウマさん:
淡白な味わいの長芋は、生のままではうま味を感じづらくなります。そこで今回は、フライにすることで水分を抜いて、長芋本来の風味やうま味を凝縮させました!塩の代わりに「味の素®」をプラスすることで減塩しつつ、うま味を引き立て、長芋本来の甘みも引き出しています。

▲最高の長芋フライ

じゃがいもの代わりに長芋を使用したので、炭水化物や糖質をより低く抑えることができました。さらに、長芋を皮ごと使ってフライにしたので、フードロスにも貢献できるレシピに。むしろ、皮を剥かないことで、パリッと香ばしく仕上がります!

〇エビとアボカドのワカモレ風(つくりおき食堂まりえ)

▲つくりおき食堂まりえ(私です)/LOW SALT CLUB部長

まりえ:
ポイントは、森のバターと呼ばれるアボカドのうま味(グルタミン酸)と、海の幸であるエビのうま味(イノシン酸)の相乗効果。そこに「味の素®」を加えることで、アボカドのうま味や味わいをさらに引き立てつつ、おいしい減塩を実現できました!

▲エビとアボカドのワカモレ風

ねっとりしたアボカドと、ぷりぷりのエビの食感のコントラストも楽しめるレシピです!!

日米での「おいしさのデザイン」についてディスカッション!

試食のあとは、「おいしさデザイン」について意見交換を行うディスカッションタイムに!

風味やうま味を重ね、複雑な後味をいかに作るのかを工夫した米国のシェフの料理と、シンプルでありながらうま味を感じられるLOW SALT CLUB部員の料理は、異なるアプローチを取りながら「うま味のあるおいしさ」で共通。刺激的で熱いディスカッションが繰り広げられました!

▲司会を務めた、味の素株式会社グローバルコミュニケーション部サイエンスグループ 武内茂之(たけうち・しげゆき)さん

まず武内さんから、クリスさん、アーロンさんが考案した「うま味ごまキャラメルソース」についてコメントが。

武内さん:
このキャラメルソースを口に含むと、最初にキャラメルの香ばしい風味を感じたあと、後味としてごま油のおいしさを感じることができます。まさに、川﨑さんが講演で説明されていた「TDS(Temporal Dominance of Sensations)※」の考え方がよく活かされたレシピだなと感じました。

※TDSについてはPart 1で解説しています。

クリスさん:
私たちはレシピを考えるとき、「後味をどれだけ長く感じることができるか?」を意識しています。うま味があれば、後味を長く感じるんです。加えて、「その後味はシンプルか、複雑か」も意識していますね。シンプルな味のままだと食べ疲れしてしまう一方、複雑な味だともっと食べたくなります!

川﨑さん:
クリスさんの言うとおり、西洋料理では「リエゾン(つなぐこと)」を意識しています。後味の残るワインを飲みながら次の料理を待ち、最後のデザートまで後味と香りをつないでいくわけです。だから、西洋料理は後味が長いほうが良いのです。

日本料理は、そうではありません。とくに料亭料理の場合、後味と香りは残さないことが理想です。だから、味を切る効果のある日本酒が合うとされているわけです。

私はビリアタコスのおいしさの秘密が知りたくて、川﨑さんにこんな質問をしてみました!

まりえ:
ソースに浸したトルティーヤをフライパンで焼いたビリアタコス、とてもおいしかったです!ソースを加熱したことでメイラード反応が起こり、その香ばしい香りが溶け込んだソースにトルティーヤを浸して焼いたから、これほどおいしくなったのでしょうか?

川﨑さん:
そうです。大体の香り成分は脂溶性で、水ではなく油に溶けます。一方、メイラード反応で生まれた香り成分は、水に溶けるものも多いのです。液体が染み込んだトルティーヤを焼くことで香ばしい香りが凝縮され、よりおいしくなったのでしょう。

クリスさん:
普段、トルティーヤにソースをつけるだけで、さらに焼くことはしません。この作り方は珍しいんですよ。ソースを染み込ませてから焼いたトルティーヤに、さらにソースに付けて食べることがポイントです。

川﨑さん:
そうすることで「ヘテロ(不均一)感」を感じるんですよね。均一な味は飽きてしまいますが、ヘテロ感があると、違う味わいや食感、香りを次々と感じて、もっと食べたくなります。このビリアタコスのようにソースにディップしながら食べることで、ソースが付いていない中身とのヘテロを感じることができる。噛むと複雑な味が口いっぱいに広がるので、もっと食べたくなるわけです!

続いて、門田さんから、シンプルな料理における「おいしさデザイン」とはどういうものかという議題が提示されました。

門田さん:
だれウマさんやまりえさんのレシピのように、「味の素®」を使えば食材のうま味をとことん引き出すことができますよね。うま味を引き出して素材をおいしくする。そうすると塩分を多く含む調味料をたくさん使う必要がなくなるので、減塩にもつながります。

そういった「うま味を活かして、おいしさをつくる」というシンプルな考え方で、LOW SALT CLUB部員はレシピを開発しています。シェフのお二人は、その考え方をどう受け止めていますか?

クリスさん:
うま味を活かしたシンプルな料理も良いと思います。実際、皆さんの料理は、とってもおいしかったので。
「味の素®」を使うことで減塩を叶えつつ、うま味があるので味の物足りなさを全く感じませんでしたね。

アーロンさん:
使用する食材そのものに味わいがあれば、うま味を活かしたシンプルな料理でもおいしく感じますよね! 最近、そのことを実感したのは、築地市場で「ポン酢醤油をかけた生牡蠣」を食べたとき。牡蠣に強いうま味があるので、調味料を一つしか使わなくてもおいしくて、後味を長く楽しむことができました。

川﨑さん:
自然の中で採れる食材自体がシンプルな構造ではないので、一見するとシンプルに見える料理も、人によっては「複雑な味だ」と感じることがあるんです。たとえば、きゅうりには種や皮があって、いろいろな味や食感を楽しむことができますよね。そういった食材本来の複雑なおいしさを引き出すのも、料理人の務めです。

ただ、本来のおいしさを引き出すには、食材の持つ悪い面を消して、良い面を引き立てる必要があります。
「味の素®」のうま味成分は、嫌な香りなどの悪い部分をマイルドにして、うま味を引き出すことができる、といわれているんです!だしのうま味が素材の特徴を引き立てたり、やわらげたりするのと同じですね。

まだまだ話題が尽きない中、あっという間にディスカッションタイムの終了時間に。
ディスカッションの最後には、司会の味の素社・門田さんから閉会の挨拶がありました。

▲味の素株式会社グローバルコミュニケーション部サイエンスグループ 門田浩子(かどた・ひろこ)さん

「うま味をおいしさの要素の一つとして捉え、使いつくし、おいしさをデザインすること。それが減塩をはじめとする栄養改善や社会課題の解決にもつながるのかなと改めて感じました。

今日の体験を活かして今後も国境を越えて連携し、グローバルに人々のウェルビーイングに貢献していきたいと考えています。ぜひ、一緒にがんばっていきましょう!」

参加したLOW SALT CLUB部員たちの声

今回のディスカッションに参加するにあたり、私もおいしさのデザインに対するアプローチが西洋と日本で異なることは想像していました。でも、実際にお話しを聞いてみると、想像以上!複雑なうま味を感じさせる後味の作り方や、逆にストレートでシンプルな味わいにも「おいしさデザイン」が活きていることがわかり、本当に驚きと発見が盛りだくさんでした。

「うま味を活かしたおいしい減塩」という社会課題解決に向けた共通の目標に対して、さまざまなレシピ開発の手法があるというのも興味深く、まだまだチャレンジできることはたくさんあると勇気をもらえました!!

部員の皆さんもシェフとの試食やディスカッションを通して、たくさんの刺激を受けたようです!コメントをご紹介しますね。

あーぴんさん:
シェフのレシピを見て、スパイスの使い方が上手だなと思いました!ローソルトレシピを考えるとき、私たちは紫蘇やレモンなど香りの良い食材を加えることで減塩につなげることがよくあります。今回、スパイスも減塩にかなり活用できることがよくわかりました。これからは、スパイスを使ったローソルトレシピも研究してみたいと思います。
小春さん:
川﨑さんの講義でご説明のあったTDS*を意識しながら、キャラメルソースを試食してみました。すると、ごま油が入ったキャラメルソースの後味をより意識できて、「だからおいしく感じるんだ!」と納得できました。
どのレシピも減塩を感じさせないおいしさでした。今回印象的だったのは、シェフは、スパイスをたくさん入れて、味を複雑にしていたこと。そうすると、後味が長く続くように感じました。普段、私は調味料をなるべく省くようにしています。でも、これからはスパイスを効かせて、後味が長く続くようなレシピも考えてみたいですね。

*TDS(=Temporal Dominance of Sensations)についてはPart 1でご紹介しています!

同じ「おいしいローソルト」を目指す部員だけあり、独自の視点がありながら共通する部分もあってさすが!私(まりえ)自身は、食材の香りとうま味を引き立たせ、さらにスパイスを加えることで味や香りを複雑に組み合わせることができ、塩の量を減らしても薄味感がなくおいしく仕上がることに感銘を受けました!

それに、香気成分の多くが脂溶性で油に溶け、メイラード反応で生まれた香り成分は水に溶けるというお話は、これからレシピ開発する上で重要なカギだと感じます。

ソースをつけて焼き、香ばしく仕上げ、さらにソースにディップして食べることでヘテロ(違う)感を出すというのも、目から鱗でした。均一な味は飽きてしまうけど、ヘテロ感を演出することで飽きずにおいしく食べられる。そんなテクニックを今後ぜひ取り入れていきたいです!

【参考文献・サイト】
The Science of Taste メープルシロップを使うとなぜ料理がおいしくなるのか?
関西食文化研究会 イベントタイトル:「メイラード反応とは何か?」