interview
ベストを食せ!
味の素㈱社員が、アスリートたちの栄養サポートを行う「ビクトリープロジェクト®」。この「ビクトリートーク」は、プロジェクトメンバーと、彼らが担当する選手によるトークセッションです。毎回、選手それぞれのカラダづくりやトレーニング、食事や栄養のアドバイスなど、普段の生活にも応用できそうな内容を盛りだくさんでお届けします。今年2021年より、柔道の阿部一二三選手・阿部詩選手へのサポートが始まりました。ともに東京2020オリンピックでの活躍が期待される両選手に、さまざまな質問をぶつけていきたいと思います。去る3月5日~7日に開催された国際大会に出場した阿部詩選手(以下、詩選手)。詩選手と「ビクトリープロジェクト®」の初めての取り組みとなったこの大会には、いったいどんな発見があったのか。トークはそこから始まりました。
Talk about...
サポートしていただいてから臨んだ初めての試合。アミノ酸の補食を含め、いつ、何を、どれだけ食べたのか、飲んだのか。試合の期間中は毎日細かく記録しました。
慣れない作業でストレスだったのでは?
いえ、ウェブ会議なども含め事前に十分ミーティングを重ねてきたので、迷うことなく食事をとり、記録することができました。
柔道の国際大会は通常1日5試合を戦います。その決勝で最も元気な状態で試合に臨めるようにしたかった。実際、試合のときのコンディションはいかがでしたか?
しっかりと栄養をとって試合に挑むことができたと思います。練習で得た強さの自信に加えて、「今回はそれ以上のことをやっているんだ」という自信がありました。
試合期間ではない普段の生活や、トレーニングのときの意識もだいぶ変わったのではないでしょうか。
そうですね。以前からしっかり食べて練習しないといけないというのはわかっていたんですけど……実は私自身食べることが得意ではないというか、もともと食べることに興味を持たないタイプだったんです。
それを聞いたとき、「トップアスリートたちはこんなふうに食事に取り組んでいる」という例をいろいろお話しましたね。お母様からお聞きしましたが、朝ごはんをしっかり食べるようになったとか。
日常生活の細かい部分まで変えていかないと、オリンピックの金メダルには届かないのかなって。もし私がいま柔道をやっていなかったら……朝は抜いて、昼少し食べて、夜少し食べてという生活だったと思います。でも柔道で東京2020オリンピックの金メダルを目標にする以上は、食べることも練習だと思って。
それ(食べること)をよりポジティブに感じてもらいたかったんです。だから食べることも含めて、すべての行動が「強くなれるチャンスですよ」と伝えました。
あまり食べたくないときも、家族や周りの人が「え? 今チャンスじゃない?」みたいなことを言ってくれます(笑)。だから頑張って食べるようにしています。
ただ、食べることが義務になるとつらい。三回の食事に加えて補食(アミノ酸やサプリメントなど)もありますから、義務と感じたとたんにイヤになってしまう。少しでも楽しく向き合えるようにサポートしていきたいと思っています。
Talk about...
先ほど「もし柔道をやっていなかったら」なんて言っていましたが、そもそも柔道に出会ったのはいつだったんですか?
5歳のときです。兄が先に柔道を始めていて道場に通っていました。その兄の練習について行ったときに「楽しそう!」と思って。
5歳の女の子が柔道の練習を見て「楽しそう」と思ったのが面白いというか、さすがというか。怖いとは思わなかったんですか。
それはなかったのですが、実は、父には一度(柔道を始めることを)止められたんです。
そうだったんですか。
「女の子なんだからやめときなさい。(投げられたりして)痛いよ~」って。でも、小さかったからなのか「何が痛いんやろ?」と不思議に思っていましたね。とにかく最初の出会いで「柔道をやりたい!」と強く感じました。
お父様に実際お会いした感じでいうと、「どんどんやりなさい」とすすめるタイプかと思っていました。
それが全然。「ピアノにしておきなさい」とも言われたことを覚えています(笑)。
そして柔道に取り組み始めて、どんどん強くなっていったんですよね。東京2020オリンピックを意識し始めたのはいつ頃でしたか?
中学生のときです。東京2020オリンピックの開催が決まる瞬間をテレビで見ていて。「あ、この大会に出たいな」と思いました。日本でやるならぜひ出たいと。
2013年ですね。13歳のときに東京2020オリンピックに出たいと思って、19歳でその思いを実現したということですか……ものすごい実行力。
自分でも驚いている部分は、あります(笑)。
Talk about...
計量のあるスポーツで戦う選手は、減量が課題のひとつになることが多いもの。でも詩選手はその作業がほとんどありません。これは驚きでした。
私は52㎏級ですが、多くの選手は56、7㎏から減量していくと思います。私の場合は練習が終わってだいたい53㎏とか。普通に食事をしてそのくらいですね。
それでも計量直前は少しの調整が必要。今回のウズベキスタンの大会で、計量後のコンディションはいかがでしたか?
いつも海外の試合では自分でいろいろ用意していくのですが、今回は食事も用意していただいて、すごく助かりました。
計量直後に会場で「アミノバイタル®️プロ」と「アミノバイタル®️GOLD」、それに昆布だし。あとはホテルの部屋に帰って落ち着いてから、五目ご飯などの食事を。
会場での栄養補給はすんなりできたのですが、部屋での食事は結構お腹いっぱいになってしまいました(笑)。
次回の試合では食事のタイミングを変えるなどして、少し調整したほうがいいかもしれません。練習時にアミノ酸を計画的にとるようになって、何か変わったと感じることはありますか?
自分なりに、ちょっと試してみたことがあるんです。練習時にアミノ酸を飲んだときと飲まなかったときでは、どう違うのかなと。
なるほど、実験ですね。
これは実感ですが、精神面で違いました。アミノ酸をしっかり摂取したときは、練習の最後まで気持ちが続いて、冷静に気持ちをコントロールできたように思います。
上手にエネルギーを補給しても、激しい運動が続けば少しずつ体力は失われていきます。練習でいえば終盤、試合でいえば決勝。だんだんキツくなってくる。そんなときでも、最後まで気持ちが続くのは大きいですね。
柔道には体力も精神力も必要です。でも私の柔道は、試合のときは本能で動いている感じ。身体が勝手に反応しているというか。逆に考えて動いたときは、内容が良くなかったりするんです。だから試合のときは頭で考えずに、身体が動くままに任せます。
だったら余計に、気持ちが切れたら大変ですね。
そうなんです。いちばんは気持ち。相手の動きひとつひとつに、一瞬で反応しないといけないので。
Talk about...
ご自身の柔道を分析すると、どういう言葉で表現できると思いますか。
前に出る柔道、一本を取る柔道です。これが私の強みだと思います。
逆に、もっと強くしていきたい部分はありますか?
3月の試合に出てみて感じたのは……すごく研究されているなと。
なるほど。自分の得意技がなかなか出せなかったり。
ですから組み手のレパートリーなど、自分の技に入るまでの幅を広げることが大事だと思いました。それ(得意技)だけ狙って入ろうとすると難しい。技をかけるまでの変化。少しだけでいいんです。その「少しの変化」を考えて練習しています。
そんな意識で練習していると聞くと、優れたスポーツ選手であると同時に武道の達人なのだと改めて感じます。そして自分の状態を説明する言葉の選び方は、私が始めて出会った18、9歳の頃の羽生結弦選手に近い。競技は違っても、トップアスリートというのはどこか似ているところがあります。
いえ、自分ではまだまだトップ選手だとは思っていません。
兄の一二三選手とともにご兄妹で活躍されていることもすごいと思いますが……。柔道を始めたきっかけでもある兄の一二三さんは、妹である詩さんにとってどういう選手ですか。
兄は、私が最も尊敬している柔道選手です。柔道に一直線で本当に素晴らしい選手だと思っています。
お兄さんは昔から強かったんですか?
小さい頃はそこまで強くなかったです。
実はトップアスリートと言われている選手で、昔から強かった人ってあまりいないんですよね。
最後にぜひ、東京2020オリンピックでの目標を聞かせてください。
優勝することです。
偶然ですが決勝は一二三選手と同日のスケジュール。お二人で「一緒に優勝しよう」と話したことはありますか。
私も兄も、今は東京2020オリンピックでの優勝しか見えていません。だから逆に「一緒に優勝しよう」なんてことは言わないんです。優勝することが目標というのは、お互いにわかっているので。
コロナ禍が落ち着いたら、東京2020オリンピックまでに開催される大会にもぜひ帯同したい。一二三選手とともに、「ビクトリープロジェクト®️」として全力でサポートしていきたいと思います。
Profile
2000年、兵庫県神戸市生まれ。中学校3年生の時に全国中学校柔道大会で初優勝。2016年に夙川学院高校に進学し、1年生の時には4月の全日本カデで優勝。12月には初のシニアの国際大会に出場すると、史上最年少の16歳141日で決勝進出。3月の全国高校選手権個人戦では優勝し、団体戦では全試合に勝利してチームを優勝に導き最優秀選手に選出された。高校2年生時はインターハイ個人戦ではオール一本勝ちで優勝。その後の世界ジュニア、11月の講道館杯では初優勝を飾った。高校3年生のときには世界選手権代表に初選出され、5試合オール一本勝ちで初優勝。2019年8月に東京で開催された世界選手権でも優勝し2連覇を達成した。2020年1月にJOCのシンボルアスリートに選出。現在、日本体育大学スポーツ文化学部武道教育学科に在籍。
3月にウズベキスタンで開催された国際大会では、見事優勝を飾りました。