「食の安全」についてうかがいました

食の専門家の皆様に、「食の安全」に関するお話をうかがいました。

ホントに知っていますか?食品添加物のこと

「体に悪いもの」というイメージを持つ人も多い食品添加物。しかしそれらは本当に危険なものなのでしょうか?食品添加物の安全性や、食品添加物が果たしている役割について、東京大学名誉教授の唐木英明氏にお伺いします。

第1章 なぜ食品添加物を嫌がるの?

ホントに知っていますか?食品添加物のこと

食品添加物というと、とても嫌がる人がいます。では、そもそも食品添加物とはどんなものなのでしょう。食品衛生法では、「『食品添加物』とは食品の製造過程で、または食品の加工や保存の目的で食品に添加、混和などの方法によって使用するもの」と定義されています。以前の法律では、合成添加物だけが食品添加物に指定されていたのですが、現在では「天然」、「合成」の区別なく食品添加物として認められています。たとえば、昔から着色のために使われてきたシソの葉やクチナシなどは、現在はエキスにして食品添加物の着色料として使用されています。

日本では、加工したり、保存したり、味をつけたりするときに使う調味料、保存料、着色料などをまとめて食品添加物と呼んでいます。もちろん、安全性とその有効性を科学的に評価し、厚生労働大臣が認めたものだけが食品添加物として使用できるように決められています。

ホントに知っていますか?食品添加物のこと

食品添加物とは

食品衛生法では、食品の製造過程で、または食品の加工や保存の目的で食品に添加、混和などの方法によって使用するものと定義されています。

食品添加物の分類(2016年9月26日現在)

食品添加物の分類

食品添加物の分類

400種類以上の天然添加物が食品添加物として認められています。

食品添加物の指定および使用基準改正に関する基本的な考えかた(厚生労働省)
(1)安全性が要請された使用方法において実証又は確認されること
(2)食品添加物の使用が、次のいずれかに該当することが実証又は確認されること

1. 食品の栄養価を保持させるもの

2. 特定の食事を必要とする消費者のための食品の製造に必要な原料又は成分を供給するもの

3. 食品の品質を保持し若しくは安定性を向上するもの又は味覚、視覚等の感覚刺激特性を改善するもの

4. 食品の製造、加工、調理、処理、包装、運搬又は貯蔵過程で補助的役割を果たすもの

一般の方たちが食品添加物を怖がる理由

一般の方たちが食品添加物を怖がる理由

食品添加物は、安全とその有効性が認められたものが法律で使用を許可されています。ところが不思議なことに、食品添加物が嫌われてしまっているのです。その理由は、高度成長期につぎつぎと起こった公害などの影響が大きいのではないでしょうか。水俣病をはじめ、四日市ぜんそくなど、多くの人々に健康被害を与えてしまった公害のイメージが、化学物質に対する不信感を広げてしまい、食品添加物に対しても誤解したイメージを持ってしまったのではないでしょうか。

日本における食品安全の現状

日本における食品安全の現状 SP画像

日本における食品安全の現状

大昔から食品の最大の危険は、食中毒でした。厚生労働省の統計を調べてみると、終戦後の1955年頃、日本は食中毒で亡くなってしまう人が数百人もいました。安全な食品をおなかいっぱい食べること、それが戦後の日本人の夢でした。そんな中で、食中毒の減少に非常に大きな役割を果たしたのが、冷蔵庫と保存料です。

私たちの子供の頃は、生鮮食品がほとんどで、加工食品というと塩漬けや干物、缶詰ぐらいしかありませんでした。しかし、この保存料の登場で、食品の腐敗や変質を長期間にわたって防ぐことができるようになったのです。保存料をはじめとする食品添加物や、保存技術の向上により、レトルト食品や冷凍食品などのさまざまな加工食品が誕生し、簡単に安全な食品を手に入れることができるようになりました。

食品の腐敗や食中毒などを防ぐために、そして産地や地域に関係なく便利で豊かな食生活を享受するために、食品添加物が大きな役割を果たしているのです。では、もし食品添加物がなかったら私たちの食生活はどうなるのでしょうか。このお話は、第2章でご紹介しましょう。

取材内容は2009年5月時点のものです。

 関連リンク:気になる「食」のキーワード「食品添加物」

第2章 もし食品添加物がなかったら?

食生活を豊かにする食品添加物

食品添加物には、さまざまな役割があります。たとえば、女性や子供たちが大好きなゼリーやプリンなどのデザートにも、おいしさを演出するために食品添加物が欠かせません。香りをつける香料やぷるんとした食感をつくるゲル化剤、滑らかな舌触りをつくる安定剤など、色、香り、食感を加える大切な役割を食品添加物が果たしています。

さらに、食品を長持ちさせる働きも、私たちの生活をより便利に、より豊かにするには欠かせない食品添加物の役割のひとつです。肉や魚などの生鮮食品は日持ちがしません。このため、保存料や殺菌剤などの食品添加物によって食品を長持ちさせ、おいしくムダなく食べることができます。たとえば、練り製品の原材料となる魚は、水揚げされたその場で食品添加物を加えて、すり身に加工します。すり身は冷凍保存することで、遠方にある工場まで運ばれ、かまぼこやちくわ、はんぺんなどにさらに加工することができます。肉の場合は、ハムやソーセージに加工されるときに、おいしい色を保ち、腐らないようにするために食品添加物が働いています。

では、食品添加物がなかったら私たちの生活はどうなるでしょうか。家庭やレストランなどと違って、加工食品の場合、日持ちや製造適性、コストなど多くの要素を実現しなければなりません。このため、食品添加物を上手に使用しないと、ハムやソーセージ、すり身などは、すぐに腐ってしまい食中毒の危険性が高まります。ゼリーやプリンも独特の食感もなく舌触りもざらっとしてしまい、パンやクッキーはふくらまずにパサパサ、かまぼこなどの練り製品はグチャッとして歯ごたえが低いものになります。食の安全が保てなくなってしまうだけでなく、毎日の食生活が味けなくなってしまいます。

私たちの暮らしのなかで活躍する食品添加物

■ 食品を製造または加工時に必要なもの

製造時の泡立ちをおさえたり、pHを調整したり、型離れをしやすくするために使用
→消泡剤、pH調整剤、離型剤

■ 食品の形を作ったり、独特の食感を持たせるために必要なもの

豆腐、中華めん、マーガリン、プリンなど、食品の形成や独特の食感を持たせるために使用
→豆腐用凝固剤、膨張剤、かんすい、乳化剤、ゲル化剤、安定剤

■ 色でおいしさを演出するために必要なもの

色はおいしさを演出するひとつの手段。着色したり、脱色したりするために使用
→着色料、発色剤、漂白剤

■ 味と香りを良くするために必要なもの

食品に甘味や酸味あるいは香りなどを加えるために使用
→甘味料・・・・・食品に甘味を加える
 酸味料・・・・・食品に酸味を加える
 苦味料・・・・・食品に独特の苦味を加える
 調味料・・・・・食品にうま味を加える
 香 料・・・・・食品に香りを加える

■ 食品の栄養成分を補うために必要なもの

調理や加工をするときに、原材料が持っている栄養分がなくなったり、減ったりするのを補てんするために使用
→ビタミン、カルシウム

■ 食品の品質を保つために必要なもの

食品の腐敗や油脂成分の酸化を防ぐために使用
→保 存 料・・・・・食品中の微生物やカビの繁殖を防ぐ
 酸化防止剤・・・・・油などの酸化による変質を防ぐ
 防カビ剤・・・・・・主に柑きつ類に使用。果物でのカビの発生を防ぐ
 日持ち向上剤・・・・食品の品質を保つ
 殺 菌 剤・・・・・加工食品の製造に先立って原料に付着している微生物を殺菌・除去

無添加はホントに安全?

最近、無添加という表示の食品をよく見かけますが、無添加表示には行政で定められたルールがないことをご存知でしょうか。「保存料不使用」と表示しながら、それ以外の食品添加物で代替している場合があることを知らない消費者も多いのではないでしょうか。「無添加」や「保存料不使用」と書かれているだけで「体にいい食品」と誤解している方も少なくないと思います。食品添加物が入った食品より無添加食品の方が安全という考えに、科学的な根拠は何もありません。私たち消費者が「食品添加物=不安なもの」と決め付けてしまったり、「無添加=安全なもの」と信じてしまうことが、紛らわしい表示をつける企業の行動を助長しているのだと思います。こうした表示を自主規制するために、みそ業界では業界全体で無添加表示を不当表示のひとつに取り上げ、表1のようにルールを決めています。消費者のみなさんも感情的になったり、思い込みで商品を選ぶのではなく、本当に安全かどうか、科学に基づいた賢い判断をして商品を選ぶ必要があります。また、新聞やテレビなどマスコミの情報に惑わされ、必要以上に怖がってしまうのも考えものです。商品を選ぶみなさんが情報の信ぴょう性を見分け、本当の安全を見極める力を養っていくことがとても大切なことだと思います。ところで、食品添加物は戦後から出回ってきたもの、と思っている方も多いと思いますが、実は伝統的に使われているものや地域の食生活にずっと根付いている食品添加物もたくさんあります。次回は、昔から使われている食品添加物についてご紹介します。

表1 みその表示に関する公正競争規約

(不当表示の禁止)
第7条 事業者は、みその取引に関し、次の各号に掲げる表示をしてはならない。

(1) 第2条第1項から第5項までに規定する定義に合致しない内容の商品について、それぞれ、当該定義に合致するものであるかのように誤認されるおそれがある表示
(2) 成分又は原材料について、事実と相違するか、実際のものより著しく優良であるかのように誤認されるおそれがある表示
(3) 第4条に規定する特定事項の表示基準又は第5条に規定する特定用語の使用基準に合致しない表示
(4) 合理的な根拠がないにもかかわらず、第4条に規定する事項又は第5条に規定する用語に類似する表示を行うことにより、当該商品が著しく優良であるかのように誤認されるおそれがある表示
(5) 「天然」、「自然」等の表示(第5条第2号に掲げる「天然醸造」に係るものを除く。)
(6) 大豆、穀類(米、大麦、はだか麦等)、食塩、種麹菌及び発酵菌以外の原材料又はキャリーオーバー若しくは加工助剤を使用したものについて、「無添加」の表示
(7) 食品衛生法施行規則(昭和23年厚生省令第23号)別表第1に掲げる添加物を使用したものについて、「純」、「純正」その他純粋であることを示す表示
(8) 合理的な根拠がないにもかかわらず、みそに病気の予防等についての効能又は効果があるかのように誤認されるおそれがある表示
(9) みその容器又は包装において品評会等で受賞した旨の表示
(10) 官公庁、神社、仏閣、著名な団体又は著名な個人が購入又は推奨しているかのように誤認されるおそれがある表示
(11) 前各号に掲げるもののほか、商品の内容又は取引条件について、実際のもの又は自己と競争関係にある他の事業者に係るものより著しく優良又は有利であると一般消費者に誤認されるおそれがある表示
(12) 他の事業者の商品を中傷し、又はひぼうするような表示

出典:(社)全国公正取引協議会連合会 公正競争規約(食品)農産物加工食品 みそ より

食品に対する不安(食品安全委員会による2014年度調査)

食の安全性の観点から感じている不安の程度(食品安全モニター400人)

食品に対する不安 SP画像

食品に対する不安

食品に対する不安

取材内容は2009年5月時点のものです。

第3章 食品添加物は、人間の知恵から生まれた

千年前から使われてきた食品添加物

大昔から人間は、食品を長持ちさせるために知恵をしぼってきました。野生の木の実や魚などを食べていた狩猟採集時代、遠方に狩りに行くときなどは、肉を天日で干したり煙でいぶして加工していました。また、海の近くでは塩漬けするという方法も、昔から使われてきた人間の知恵です。こうした食生活の工夫の中から生まれてきたのが、食品添加物です。

日本人の食卓に欠かせない豆腐。この豆腐を固める凝固剤として使われている「にがり」も昔から利用されてきた食品添加物のひとつです。豆腐は中国から日本に伝えられてから1000年以上経っていると言われていますが、にがりは豆腐をつくるときにどうしても欠かせないものとして、現在も同じように使われています。中華麺を作るときに使われる「かんすい」も中華麺には欠かすことのできない添加物です。中華麺独特のコシ、色、風味はかんすいあってのものです。こんにゃくをつくるときの「消石灰(しょうせっかい)」も、その食品をつくるために欠かせない添加物です。

日本では飛鳥時代には、小豆、くちなしなどの色素が食品に彩りを添えるために使われてきました。ヨーロッパやインドでも、サフランやターメリックなどが食品に香りをつけたり、彩りを添えてきました。

大昔から使われている食品添加物

大昔から使われている食品添加物

輸入食品が主役の時代に

日本では昔から、豆腐をはじめ海外の食文化を取り入れてきました。そして、世界貿易時代の現在、さまざまな輸入食品が私たちの食卓にたくさん上るようになってきました。そこで問題となるのが、輸入食品の安全性です。食品に限らず、いろいろな製品が世界各国で輸出入されて動き回っています。世界レベルで安全基準を統一するために、WHO(世界保健機関)とFAO(国連食糧農業機関)が共同で設立した、食品の国際規格を決めるコーデックス委員会の協力組織として、食品添加物の分野ではJECFA(合同食品添加物専門家会議)という審査機関を設けています。この機関では、各国の専門家が集まって、毎年1回以上会議を開催しています。各国で行われた研究データをもとに、食品添加物の規格の評価や安全性のチェックを行っています。日本のほか、各国ではこの機関で合意された基準を参考に各国で独自の評価を行って基準を決めています。では、日本の安全基準はどのようになっているのでしょうか。次回は、安全基準の考え方について詳しくお話ししたいと思います。

WHO(世界保健機関)とは

健康問題を取り扱う専門機関として国連内に設けられています。
世界のすべての人々が最高の健康水準に到達することを目的とする国際的な組織です。

FAO(国連食糧農業機関)とは

世界的な規模での食糧や農産物の生産を通じて、世界の人々の暮らしが豊かになることを目的とする組織です。

コーデックス委員会とは

WHOとFAQが協力して作った機関です。国際的な食品規格を決めて、これを実施します。

JECFA(合同食品添加物専門家会議)とは

コーデックス委員会の協力組織で、食品添加物の安全性をチェックする機関。
この委員会に、各国の専門家が集まって、食品添加物の規格や安全性の試験結果の評価を毎年1回以上行っています。

取材内容は2009年5月時点のものです。

第4章 過ぎれば何でも毒になる

食品添加物の安全は量で決まる

食品の安全を守るためには、食品添加物の量が重要になってきます。例のひとつとして、私たちが毎日、調味料として使っている塩をみていきましょう。極端なたとえですが、一度に200グラム以上の塩を摂取すると死んでしまいます。また、みなさんもよくご存じのように、毎日、10~20グラムの塩を食べ続ければ脳溢血(のういっけつ)や心臓病のリスクが増えてしまいます。すると塩は毒か? というと、そうではありません。一日に7グラム以下であれば、一生のあいだ毎日食べ続けてもなんの害もありません。どんな食品でもたくさんとれば毒ですが、量が少なければ何の悪影響もない。その摂取する量で安全か、どうかが決まります。

では、安全な量は、どのように決めているのでしょうか。食の安全の世界では、まず「無毒性量」というものを決めます。添加物を使う量をどんどん少なくしていくと、何の毒性もないところに行きつきます。ラットやマウスなどを使った何種類かの実験を通して、何の害もない安全な量を決めます。これが無毒性量です。そして、この無毒性量の1/100の量を「一日摂取許容量(ADI)」として、人間が一日に安全に使える量として定めています。これは一生、毎日食べ続けても健康に影響のない量で、食品添加物のほか、残留農薬の基準値にもなっています。

ソルビン酸の例

平成15年度マーケットバスケット方式による摂取量調査。厚生労働省行政情報より。

ソルビン酸の例

ソルビン酸の例

ソルビン酸で計算してみると

ソルビン酸で計算してみると

ソルビン酸で計算してみると

「体によい」と言われると大量にとりたくなる心理

先にご紹介した通り、食品添加物は摂取する量で安全か、どうかが決まります。日本の法律で決められた安全基準は、人間が一日に安全に使える量を無毒性量の1/100と定めていますので、普通の食事をしていれば何の心配もありません。ところが、新聞やテレビで「健康によい」と紹介するとその食品ばかりとってしまう人がいます。
最近、ある大規模な調査でこんなことが分かってきました。毎日、ビタミンをとる人よりとっていない人の方が、がんになりにくいというのです。グラフをご覧ください。レチノール摂取量と肝がんの発生リスクには関連はみられませんでしたが、α-カロテン・β-カロテンでは摂取量の最も多いグループの肝がんリスクが減少する傾向にありました。一方、ビタミンCでは、高摂取グループで肝がんリスクが高い傾向にありました。また、米国疾病対策センター(CDC)の研究グループは、30歳以上の被験者100万人以上を対象に7年間に渡って調査した結果として、総合ビタミン剤と抗酸化ビタミンといわれるA、またはCかEの1種類を組み合せて摂取すると心疾患、卒中による死亡率は、ビタミン剤を全く摂取しない人に比べ減少するが、喫煙者(男性)の場合、ビタミンを摂取した男性は、ビタミンを摂取していない男性よりもがんによる死亡率が高いことが判明したと報告しています。抗酸化ビタミンに喫煙という要因が重なると、有害な作用を及ぼす可能性があるというわけです。ビタミンCやEは活性酸素を減らすから、体によいはずだ、がんも少なくなるはずだと思われてきたのですが、結果は逆だったのです。
では、なぜそのようなことになるのでしょうか。これも食品添加物に対する誤解と同じです。専門用語では「用量作用関係」といいますが、ここでもその摂取する量で、安全かどうかが別れるのです。「悪い」と言われると全部拒否したくなる。「よい」と言われるとたくさんとりたくなる。それが消費者の心理ですが、どんなによいものでもたくさんとり過ぎると毒になってしまいます。では、私たち消費者が食の安全を守るためには、どんなことに気を付ければいいのでしょうか。次回は、食品添加物や食品との上手なつきあいかたについてご紹介します。

ビタミン摂取と肺がんリスク

ビタミン摂取と肺がんリスク SP画像

ビタミン摂取と肺がんリスク

取材内容は2009年5月時点のものです。

第5章 安心は信頼から生まれる

野菜や果物にも天然の化学物質が含まれている

あまり知られていませんが、多くの野菜や果物にも天然の化学物質が含まれています。よくご存じのようにホウレンソウには数百ミリグラム単位で亜硝酸が含まれています。他にも表1のように、キャベツやセロリ、ももなど、毎日みなさんがとっている野菜や果物には、実は多くの天然の化学物質や発がん性物質が含まれています。

野菜や果物が多くの化学物質を持つ理由は、植物自身の必要性によるものです。微生物から身を守り、昆虫や動物の食害を防ぐため、そして自身の成長のために多種多様な化学物質を野菜や果物自身が合成し、貯えています。 人間(ホモ・サピエンス)は十数万年前に誕生して以来、こうした天然の化学物質を食べ続けてきました。現代の食生活でも、野菜や果物から一日に1.5グラム~2.0グラムの天然の化学物質をとっています。ですから、人間には化学物質を代謝するための強力な機能が数十万年の人間の進化の間に備わっているのです。薬も短時間で代謝されて体内から消えてしまうので、一日3回も飲む必要があるのです。野菜や果物にしても、加工食品にしても、同じものをずっと食べ続けたり、過剰に摂取したりせずに、バランスのよい食事を心がけていれば、微量の化学物質をとっても何の心配もありません。

表1 食品に含まれる発がん性天然農薬成分
食品 発がん性物質
キャベツ シニグリン(アリルイソチオシアン酸塩)、ネオクロロゲン酸
セロリ 5-/8-メトキシソラレン、カフェ酸
バジル エストラゴール、酢酸ベンジル、カフェ酸
黒コショウ Dリモネン、サフロール
もも クロロゲン酸、ネオクロロゲン酸

出典:Foods & Food Ingredients J. Jpn., Vol. 214, No.3, 2009

もっとおおらかに食の安全を見る

日本は、世界的にみてもかなり厳しい安全基準を定めています。新聞やテレビでは、基準違反のニュースが次々と報道されていますが、基準は第4章でもご紹介したように、大幅な安全域をみているので、これの10倍、20倍を超えてもすぐに健康に害が出るケースはありません。もちろん違反は許されるべきことではありませんが、 「日本の食品は安全かどうか?」という基準で考えると、とても安全なのです。群馬県では違反が健康被害を及ぼすかどうかを調査・発表していますが、一例を除いて、そのほかはすべてクラス3(健康に何の問題もない)という結果が出ています。こうした結果をみていくと、食品を提供する企業も、行政も、安全を守るために、日々、努力を続けている、ということなのです。
安心の最後の決め手は「信頼」だと私は思っています。企業や行政は、消費者の信頼を取り戻す、地道な努力を続けること。そして、みなさんも新聞やテレビなどで伝えられる情報を鵜呑みにして過敏に反応するのではなく、もっと冷静に正しい情報は何かを見極める必要があるのではないかと思います。そのためには、もう一度、安全基準のしくみを正しく理解して、もっとおおらかに、毎日の食生活を楽しんでほしいと思います。

クラス分類を実施した事例

発表年月日 情報の区分 情報の概要 クラス分類
平成26年10月10日 農産物等安全検査 食品衛生法の残留基準値を超える農薬成分が検出された クラス3
平成26年1月24日 収去検査(他自治体) 食品衛生法の残留基準値を超える農薬成分が検出された クラス3
平成25年9月13日 買上げ検査(他自治体) 県内及びインターネットで販売されていた健康食品から医薬品成分が検出された(薬事法違反) クラス3
平成24年9月20日 買上げ検査(他自治体) 食品衛生法の残留基準値を超える農薬成分が検出された クラス3
平成23年12月28日 健康食品の試買検査 県内で販売されていた健康食品から医薬品成分が検出された(薬事法違反) クラス1
平成22年12月12日 買上げ検査(他自治体) 食品衛生法の残留基準値を超える農薬成分が検出された クラス3
平成22年3月16日 健康食品の試買検査 県内及びインターネットで販売されていた健康食品から医薬品成分が検出された(薬事法違反) クラス1及びクラス2
※クラス分類

クラス1・・・

当該情報に係る食品等の摂取又は使用等が、重篤な健康被害又は死亡の原因となり得る場合

クラス2・・・

当該情報に係る食品等の摂取又は使用等が、一時的な健康被害若しくは医学的に治癒可能な健康被害の原因となる可能性があるか、又は重篤な健康被害のおそれはまず考えられない場合

クラス3・・・

当該情報に係る食品等の摂取又は使用等が、健康被害の原因となるとはまず考えられない場合

群馬県食品安全センター

取材内容は2009年5月時点のものです。

おうかがいした専門家

唐木 英明(からき ひであき)氏

唐木 英明(からき ひであき)氏
東京大学名誉教授

東京大学農学部獣医学科卒。 同大学助教授、教授を経て2003年より名誉教授。
日本農学アカデミー副会長、第21期日本学術会議副会長、日本トキシコロジー学会元理事長、日本予防医学リスクマネージメント学会感染症・食品安全部会部会長、日本農学賞、読売農学賞受賞、World’s Most Cited Author。