味の素ビルドアップフィルム®(ABF)

ミクロのフィルムで絶縁を
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「層間絶縁材料 “味の素ビルドアップフィルム®”」

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ABF〈 目 次 〉

高機能CPUのスタンダードになったABF

味の素グループの技術がパソコンに採用されていることはあまり知られていません。その心臓部である高性能半導体(CPU)の絶縁材にはABFという層間絶縁材が使われており、現在では全世界の主要なパソコンのほぼ100%のシェアに達しています。1990年代、パソコンはMS-DOSからWindowsの時代へと移行し、CPUは高集積化されてきました。たとえば初期のCPUでは、その端子はわずか40本だったものが、やがて千本以上にもなりました。それに伴いCPUを接続する方法も、リードフレームと呼ばれる金属の端子を使うものに代わって、配線が複雑に積層された回路基板に実装する方法が採用されるようになりました。そしてこのような特殊な回路基板を製造するために、新たな絶縁材料のニーズが高まっていったのです。

従来の液体絶縁材料をフィルムへ 基礎となったのはアミノ酸の技術

味の素グループでは、1970年代にアミノ酸に関するノウハウを応用した絶縁性をもつエポキシ樹脂に注目し、基礎研究を続けてきました。そして1990年代、その技術をパソコン用半導体基板の絶縁材料に応用することを選択しました。さらに、後発メーカーとして他社とは異なることに挑戦するべく、それまではインク形式であった絶縁材料のフィルム化という困難な課題の研究開発に着手したのです。インクからフィルム状の絶縁材料とすることは、高性能CPUのさまざまな課題を克服するためだけでなく、なによりも世界が必要とする技術でもありました。

有機物と無機物をミクロのフィルムに一体化

味の素グループが取り組んだのは、絶縁素材の性能を決定する樹脂組成物の研究開発でした。この組成物は電子材料としての様々な機能と容易にフィルム化できる加工性を備えていなくてはなりません。そのために有機物のエポキシ樹脂や硬化材、無機フィラーという微粒子を独自のノウハウで組み合わせた処方を開発しました。またお互いに混ざりにくい有機物と無機物を均一に分散させて、絶縁性と優れた加工性を持たせるこということも技術的なハードルでした。やがて研究開発チームは、これらをクリアした熱硬化性のフィルム開発に成功しました。耐久性や熱膨張性、加工性など、高い機能をもつABFは、1999年に大手半導体メーカーに採用されて以来、絶え間ない回路の高集積化に対応して進化を続け、現在もメインとなる高性能CPUに採用され続けています。

ナノサイズからミリサイズへ ビルドアップによる精緻な回路

現在のCPUは高度に小型集積化が進んだ結果、内部の電子回路はナノメートルのサイズになっています。電子機器の中ではこれをミリメートル単位の他の電子部品に接続しなくてはなりません。そのために微細な電子回路を何層にも積み上げたビルドアップ基板と呼ばれる部材がCPUの土台として使われています。ABFはレーザ加工と表面への直接銅メッキによって、マイクロメートル単位の電子回路を形成できます。つまりABFとは、CPUのナノサイズの膨大な端子からプリント基板へのミリサイズの端子へと電子の流れを導く電子回路を生成するために無くてはならない役割を果たしているのです。

フィルムに込められた加工技術 
最適化情報をセットしたシステム

ABFは、高性能CPUのダイナミックな進化やアップデートに応えるために、さまざまな特性をもつワニスの研究開発を進めるだけでなく、ユーザーが要求する製品の条件や加工技術に合わせて、検証実験を繰り返しています。CPUの発熱に適応する耐熱性、回路形成のカギとなるメッキ工程の最適化やレーザによる穴あけの加工性など、材料としての供給だけではなく、回路基板を製造するために最適な加工方法に関する情報などと合わせて、システムとしてお客様に提供することで、CPUの進化や多様化に応えることが可能となっています。

モバイルへ、クルマへ、家庭へ
ABFは社会の基盤となっていく

現在、半導体技術はパソコンの普及とともに発達し、いまや社会のあらゆる場面でICTのインフラをささえる基盤となっています。たとえばスマートフォンの高機能化は、メインとなる半導体にさらなる微細化、高性能化を求めています。また、クルマにおいても電子制御技術の進化や安全機能やコミュニケーション機能など、ますます半導体の多機能化が求められ、家庭においてもさまざまな機器で高性能半導体が必要となってくる日が近づいています。味の素グループはABFの開発にあたり、高性能半導体に特化した開発を進め、いずれすべての半導体が小型化・高集積化していくという未来を描きました。いまではABFは人々の生活に欠かせないものとなり、その進化は、より良い社会の発展に貢献できると考えています。

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