「食の安全」についてうかがいました

食の専門家の皆様に、「食の安全」に関するお話をうかがいました。

食物アレルギーの仕組みって?発症したらどうする?

小児から大人まで幅広い世代でみられる「食物アレルギー」。その患者数は年々増加しています。発症した際の適切な対処や症状の危険度を知っていただき、食物アレルギーをより身近に感じていただくために、昭和大学医学部 小児科の講師を務める今井孝成氏にお話を伺います。

第1章 しくみと原因物質

食物アレルギーとそのしくみ

食物アレルギーは、小児から大人まで幅広い世代でみられるアレルギー疾患です。原因は食べ物ですから、日々発症の可能性と向き合わねばなりません。この機会に患者の方だけではなく、すべての方に食物アレルギーを身近に感じていただき、正しい理解と配慮が得られれば幸いです。
食物アレルギーとは、特定の食物を摂取することにより免疫システムが過敏に働き、体に不利益な症状が現れることです。牛乳で下痢をするといった乳糖不耐症や、食中毒などは含みません。
原因物質は、食物に含まれるたんぱく質です。食物を摂取し腸管から成分が吸収される際に、体が特定のたんぱく質を異物だと認識すると、血中のIgE抗体(免疫グロブリンE)と呼ばれるたんぱく質が反応してアレルギー症状が出ます。卵アレルギーの方は卵のたんぱく質に反応するIgE抗体を、牛乳アレルギーであれば牛乳のたんぱく質に反応するIgE抗体を持っています。卵アレルギーの方が牛乳で発症しないのは、その方のIgE抗体は卵にのみ反応するためです。

たんぱく質の構造が鍵

アレルギーの原因食物として、日本では主に卵、乳成分、小麦があげられ、これらで3分の2を占めます。特に卵が多く、全体の約40%です。
たんぱく質にはアレルギーを起こしやすい構造と、そうでない構造があります。また、たんぱく質の多い食物が原因になりやすいわけではありません。キウイフルーツはたんぱく質が少量にもかかわらず、原因食物として全体で9番目前後と上位です。これはキウイフルーツに、アレルギーを起こしやすい構造のたんぱく質が含まれているからだと考えられます。肉類はたんぱく質の塊ですが、肉アレルギーの方はほとんどいません。これは、牛や豚、鶏などの筋肉の構造と人間の筋肉の構造が似ているため、免疫学的な寛容度が働いて、異物として認識される可能性が低いのではないかと考えられています。

全年齢における原因食物の割合

全年齢における原因食物の割合

全年齢における原因食物の割合

加熱すれば原因食物でも食べられる?

加熱すれば原因食物でも食べられる?

食物アレルギーに関して、「原因食物でも加熱すれば大丈夫」と誤解をしている方が多くいらっしゃいます。食物成分は、吸収器官の小腸へたどり着くまでに、唾液や胃液、腸液などで細かく分解されます。それでも腸管に吸収された際に異物として認識されるわけですから、原因たんぱく質は、強酸性およびアルカリ性の消化酵素に強く、非常に壊れにくい構造といえます。これにより、加熱したくらいではその構造は容易には壊れないことが分かります。卵アレルギーの方で生や半熟卵は食べられなくても、加熱卵は食べられるという症例は多いです。この方がたが加熱卵で発症しないのは、卵のたんぱく質が加熱にもろい構造をしており、加熱によって壊れたからです。こうしたことは鶏卵など一部の食品にのみある特徴であり、多くの食物にとって、加熱は低アレルゲン化の有効な方法ではないことをご理解いただきたいと思います。
次回は、食物アレルギーの症状とその危険度についてお話します。

取材内容は2011年7月時点のものです。

第2章 症状の種類とその危険度

症状の種類について

食物アレルギーにはいくつかのタイプがあります。その中で、一般的に問題視される、食物摂取後2時間以内に現れる即時型食物アレルギーの症状についてお話します。
食物アレルギーは、多様な症状が出ます。発熱、頭痛もありますし、こんこんと眠るようなケースもあります。その中で、疫学的に多いのが皮膚症状です。じんましんや、それに伴う痒み(かゆみ)は、全体の80~90%の患者の方が発症しています。
二番目に多いのが呼吸器症状です。呼吸困難、咳や喘鳴(ぜんめい:呼吸に際し、ゼイゼイ、ヒューヒューと雑音を発する状態)などです。呼吸器症状は全体の発症の20~30%を占めます。
次に多いのが、粘膜症状です。粘膜症状は、外表的症状と気道粘膜症状を合わせたもので20~30%ぐらいになります。主に外表的な粘膜に症状(まぶたや唇などの粘膜の腫れ)が多く出ます。通常一番多い皮膚症状や外表的な粘膜症状は、程度がひどくなっても命を落とすことはありません。しかしながら、気道の粘膜症状は、気道の軟骨に囲まれ外側に腫れることができず内側に腫れるので、最悪の場合には窒息という状況になります。 次が消化器症状で、腹痛、嘔吐、下痢などです。これは10%ぐらいです。
最後がショック症状で、7~10%になります。ショックとは最重症で、医学的には生死をさまよう状態をさしますから、この状態に7~10%が陥るということは、食物アレルギーは非常に重篤になりやすい病態といえます。

全年齢における症状別の割合

全年齢における症状別の割合

全年齢における症状別の割合

今井孝成、海老澤元宏:平成14年・17年度厚生労働科学研究報告書より

食物アレルギーの症状

皮膚粘膜症状 皮膚症状:
掻痒感(そうようかん:かゆい状態)、じんましん、血管運動性浮腫(ふしゅ:はれ)、発赤(ほっせき:皮膚が赤くなる状態)、湿疹
眼症状:結膜充血・浮腫(ふしゅ:はれ)、掻痒感(そうようかん:かゆい状態)、流涙、眼瞼浮腫(がんけんふしゅ:まぶたのむくみ)
口腔咽喉頭症状(のどの症状):口腔・口唇・舌の違和感・腫脹(しゅちょう:炎症などで体の一部が腫れ上がる状態)、喉頭絞扼感(こうとうこうやくかん:圧迫された感覚)、喉頭浮腫(こうとうふしゅ:はれ)、嗄声(させい:声がれ)、喉の痒み(かゆみ)・イガイガ感
呼吸器症状 上気道症状:
くしゃみ、鼻汁、鼻閉(びへい:鼻づまり)
下気道症状:
呼吸困難、咳嗽(がいそう:せき)、喘鳴(ぜんめい:呼吸に際し、ゼイゼイ、ヒューヒューと雑音を発する状態)
消化器症状 腹痛、悪心(おしん:吐き気)、嘔吐、下痢、血便
全身性症状 アナフィラキシー:多臓器の症状
アナフィラキシーショック:
頻脈(ひんみゃく:心拍数の急な増加)、虚脱状態(ぐったりする状態)・意識障害・血圧低下

厚生労働科学研究班による「食物アレルギーの診療の手引き2008」より

生命をおびやかすアナフィラキシーショック

食物アレルギーで特に注意が必要なのは、アナフィラキシーショックという急性アレルギー反応です。
アナフィラキシーとは、アレルギーが原因で複数の臓器症状が急速に全身に出る状態です。アナフィラキシーショックは、アナフィラキシーの中でも、血圧の低下に伴い活動性の低下、意識障害、ときには心肺停止という状況に陥った状態をさします。アメリカでは、年間100~150人の方が食物が原因のアナフィラキシーショックで亡くなられ、日本でも定期的に死亡例の報告があります。
アナフィラキシーショックには、アドレナリンという薬が唯一効果的です。この薬は、発症30分以内に投与されることが理想的とされています。しかし通常30分以内に医療機関に到着することは、現場の判断の遅れや救急体制の問題で困難です。このため、現場でアドレナリンを投与できるように開発された、アドレナリン自己注射薬があります。安全キャップをはずし、太ももに押し付けると針が出てきて薬が注入されます。自己注射薬なので基本的には患者ご本人が打つものですが、保護者の方も打つことができます。ご本人が自己注射できないときを考慮し、平成20年には学校・幼稚園で、平成23年からは保育所で、教職員の方がご本人の代わりに打てるようになり、救命率を高める取り組みが広がっています。
次回は、患者数の増加と耐性の獲得についてお話します。

 アナフィラキシーショックに関する分かりやすい解説
アナフィラキシー対策フォーラムホームページ(ターギス株式会社)

取材内容は2011年7月時点のものです。

第3章 患者数は増えている?

赤ちゃんの10人にひとりが発症

日本の食物アレルギーの有病率は、全年齢を通しておよそ1~2%ぐらいだと推定されています。小児(15歳以下)、特に乳児(1歳以下)に多く、おおよそ10人にひとりが発症しています。
食物アレルギーはこの15年間で研究が進み、データが整備されはじめた発展段階にあり、確固たる数値が少ないのが現状です。実際に私が診療している中では、年々患者数が増えている印象があります。患者数が増えているのは、一概には言えませんが、食生活が変化し、アレルギーを起こしやすい食物をよく食べるようになったことが原因のひとつと考えられています。

赤ちゃんの10人にひとりが発症

たとえば、発症頻度の高いキウイフルーツは、以前の日本では食べられていませんでした。1980年代後半から普及しはじめ、その消費量が増えたために、患者数が急激に増加したと考えられます。また、いくら の食物アレルギーが1、2歳の小児に多いのは、最近、保護者の方が子どもにいくら を食べさせるようになったからです。元来小児はアレルギーを発症する割合が高いうえに、いくら はアレルギーの発症頻度が高い食物です。少しでも発症を防ぐために、小児に与える食物を考慮し選別することはとても重要です。

食物アレルギーは治る可能性が高い

このまま食物アレルギーの有病率は高くなり、患者数は増え続けるのでしょうか。
6歳から成人期に食物アレルギーを新規に発症すると治りにくいとされています。それに対して、乳幼児(6歳以下)期に発症した場合には、食物アレルギーに対する耐性を獲得する(食べられるようになること)可能性が高く、比較的治りやすいのです。
治りにくい花粉アレルギーなどの場合、体は花粉の吸収を調整する因子を持っていません。一方で、腸管には消化機能と腸管免疫という機能があり、異物を消化し吸収を調整する能力を備えています。成長の過程で消化や腸管免疫機能が発達すると、食物成分を選別できるようになり、アレルギーの原因食物を食べられるようになると考えられます。主な原因食物である卵、乳成分、小麦は乳児の発症が非常に多いにもかかわらず、6歳までにおよそ9割の方が食べられるようになります。発症された場合、治る可能性をより高めていただくために、速やかに専門医に相談し適切な指導を受けてほしいと思います。
次回は、発症した場合の治療方法についてお話します。

取材内容は2011年7月時点のものです。

第4章 もし発症してしまったら?

自己判断は避ける

食物アレルギーを発症したかも知れないと思ったら、まず速やかに病院に行ってください。何かを食べてじんましんが出たからといって、食物アレルギーだとは断言できません。このため、食物を自己判断で除去することは不要な除去を増やすだけですので、絶対に避けてください。必ず病院へ行って、専門の医師に食物アレルギーかどうかを診てもらうようにしてください。
病院では、食習慣や摂取時の状況などの問診が行われます。次に皮膚テストや血液検査などで原因物質を推定し、食物アレルギーかどうかの判断基準とします。
皮膚テストでは、皮膚に小さなキズをつけて試験用の卵や牛乳をたらし、反応が起こるかどうかを検査します。これはプリックテストと呼ばれています。
血液検査では、アレルギー反応を引き起こすIgE抗体(免疫グロブリンE)が血流中にあるかどうかを調べ、アレルゲン(アレルギーの原因物質)を推定します。IgE抗体は食物別に測定することができます。卵白に反応するIgE抗体や、牛乳に反応するIgE抗体があることが分かれば、該当する食物アレルギーの可能性が高いと判断できます。
大事なことは、これら検査の結果は食物アレルギーを診断する根拠にはならないということです。あくまでも食物アレルギーの診断は、食べて症状が出るかどうかですので、誘発された症状や検査結果を目安として、最終的には食物負荷試験を実施することになります。

必要最小限の除去と栄養指導

食物アレルギーには、治療薬はありません。医師は原因食物を除いた食生活を指導します。ただし、その除去は必要最小限にとどめます。食物除去中は、特定の栄養素が失われないよう、代替食品の紹介をはじめとした栄養指導をあわせて行います。たとえば、牛乳アレルギーの方には、牛乳のたんぱく質を加水分解した、アレルギー用ミルクのような代替食品を利用して、カルシウムを補います。また、小麦アレルギーの方には、米粉のうどんで代用するなどの工夫をします。食物を除去させるだけではなく、代替食品などで、健康的かつ楽しい食生活を支援するのも治療の一環です。

耐性を調べる食物負荷試験

主な原因食物(卵、乳成分、小麦)を中心に、小児は耐性を獲得できる(食べられるようになること)傾向があります。しかし、食べられるようになったかどうかは皮膚テストや血液検査からは分かりません。たとえば、検査値が前回より改善したからといって、牛乳アレルギーの方が以前よりたくさん飲めるようになったとは判断できません。検査の結果はあくまで指標にすぎないので、耐性獲得を確認する目的で必ず食物負荷試験を行い、摂取許容量を確認することが重要なのです。
なお、食物負荷試験には症状が誘発されるリスクがあります。そのため、実施は基本的に医師のもとで厳密に、慎重に行われなければなりません。 次回は、食物アレルギーに対する社会での取り組みについてお話します。

 全国で食物負荷試験を実施している施設の一覧
※食物アレルギー研究所ホームページ 左メニューの「食物負荷試験実施施設」をクリックしてください。

取材内容は2011年7月時点のものです。

第5章 社会での取り組み

加工食品に定められたアレルギー表示

平成13年より、食品衛生法に基づく、加工食品のアレルギー表示制度が法律で定められました。発症頻度が高いか、重篤な症状を起こしやすい食物を微量でも含む場合には表示をする義務が生じます。これは、食品に含まれるアレルゲンに気づくことができるようにするためです。現在は、表示が義務づけられている特定原材料が7品目、表示が推奨されている原材料が20品目※あります。ただし、表示の義務がある特定原材料以外の食物(表示が推奨されている原材料を含む)は、加工食品に含まれていても表示されない可能性があるので、個々の確認が必要です。
また、アレルギー表示では、アレルゲンと表示が類似しているために誤解しやすい、紛らわしい表示があります。たとえば、「卵殻カルシウム」は卵の殻を加工したもので、焼成・未焼成ともに卵たんぱくの残存は無視できる程度ですので、除去は基本的に不要です。また、"乳"の文字がついていても、「乳化剤」や「乳酸ナトリウム」は牛乳とは関係のないものです。これらは、卵や牛乳に対して食物アレルギーがあったとしても食べることができます。食べられないものだと誤解しないようにしていただきたいと思います。

※2013年9月カシューナッツとごまが追加となり、20品目となりました。

加工食品のアレルギー表示対象品目
特定原材料(義務表示) 卵、乳成分、小麦、そば、落花生、えび、かに
特定原材料に準ずるもの
(推奨表示)
あわび、いか、いくら、オレンジ、カシューナッツ※、牛肉、キウイフルーツ、くるみ、ごま※、さけ、さば、大豆、鶏肉、バナナ、豚肉、まつたけ、もも、やまいも、りんご、ゼラチン

※2013年9月追加

加工食品のアレルギー表示 紛らわしい表示例

アレルゲンを含まず、食べられるもの
卵殻カルシウム(卵殻焼成カルシウム、卵殻未焼成カルシウムとも)
乳成分 乳化剤、乳酸カルシウム、乳酸ナトリウム、乳酸菌
小麦 麦芽糖

厚生労働科学研究班による「食物アレルギーの栄養指導の手引き 2008」P7~8より抜粋

注)味の素KK商品の中で「卵殻未焼成カルシウム」を使用している商品として、栄養補助食品「アミノバイタル®」プロがあります。
この商品のアレルギー表示は、消費者庁の定める「食品衛生法」の表示基準に則って表示しており、2012年3月時点では、「卵殻焼成カルシウム」はアレルギー表示の免除対象になっておりますが、「卵殻未焼成カルシウム」は免除対象になっておりません。そのため、味の素KKでは、「アミノバイタル®」プロに"卵"のアレルギー表示を行っています。

注意すべき表示法の対象外

注意しなければいけないのは、加工食品にアレルゲンが含まれていても表示されない場合です。
たとえばコンビニエンスストアでは、お弁当はアレルギー表示をされていますが、店内で調理されているおでんやお惣菜などには表示されません。これは、容器包装された加工食品や添加物が表示法の対象であり、それ以外は対象外とされているためです。コンビニエンスストアでは、包装されたお弁当や菓子類などは店員の方がつくったものではないので、アレルギー表示がされています。一方で店内調理のおでんなどは店員の方に原材料を尋ねることができるという理由から表示法の対象外になっています。
飲食店や露店などのお店の加工食品も表示法の対象外です。今は食物アレルギーの認識が高まり、アレルゲンの表示をしている飲食店がありますが、あくまでサービスで行われているもので、アレルギー表示法のもとでの精度の高い管理が行われているわけではありません。飲食店での表示はあくまで参考とし、店員の方に原材料などを確認するようにしてください。特に、微量で症状が誘発される方の場合は、表示の有無にかかわらず、飲食店の料理や容器包装されていない加工食品は避けるようにする方が良いでしょう。さまざまなアレルギー表示がありますので、患者の方自らが表示を見分けられる正しい知識を身につけ、健やかな食生活を営んでほしいと思います。

取材内容は2011年7月時点のものです。

おうかがいした専門家

今井 孝成(いまい たかのり)氏

今井 孝成(いまい たかのり)氏
学校法人昭和大学医学部 小児科
講師・医学博士

東京慈恵会医科大学医学部卒、2012年より現職。(社)日本アレルギー学会代議員、日本小児アレルギー学会評議員、2004~2012年 独立行政法人国立病院機構相模原病院小児科 医長、2006~2008年厚労科学研究食物アレルギー研究班主任研究員、日本学校保健会 学校のアレルギー疾患に対する取組推進検討委員会委員、ほか。