社会とともに歩む味の素グループの取り組み

Along with society

「Thai Farmer Better Life Partner」プロジェクト(タイ)

キャッサバ農家の生産性向上と持続可能な農業への貢献

タイ味の素社で生産している「味の素®

グローバルにビジネスを展開する味の素グループは、地域の人々とともに事業活動を行い、ともに成長したいと考えています。加えて、事業だけでは解決が難しい地域課題にも向き合い、これを解決するため、地域貢献活動にも積極的に取り組んでいます。

タイ味の素社では2020年6月より、コプロの販売を手掛けるFDグリーン社との共同により、「Thai Farmer Better Life Partner」プロジェクトを展開しています。タイにおいては、うま味調味料「味の素®」の主原料としてキャッサバ、サトウキビを使用していますが、このプロジェクトはキャッサバのサプライチェーンに着目し、農業生産性の向上や農家の自立化支援を目指しています。

  • コプロ:アミノ酸製造の過程でできる栄養豊富な副生物で、肥料として活用できる

タイのキャッサバ農家が抱える課題

キャッサバは畑で収穫された後、スターチ工場に運ばれ、粉末状のタピオカスターチに加工されます。タイ味の素社はそれを購入し、うま味調味料「味の素®」を生産します。さらに、副生物であるコプロを、FDグリーン社を通じて農家に販売し、キャッサバ畑に栄養成分として利用していただくという持続可能な「バイオサイクル」の関係を築いています。

一方、タイでは都市化が進む中で、農家の高齢化・後継者不足が深刻な課題となっています。加えて、2018年から「キャッサバモザイク病」と呼ばれるウイルス病が蔓延し、収量の減少が続いています。プロジェクトの実施に先駆けて、タイ味の素社が行った調査によっても多くの課題が明らかになりました。

キャッサバ農家の存在がなくては、味の素社の事業、そして持続可能なバイオサイクルは成り立ちません。「Thai Farmer Better Life Partner」プロジェクトは、農家が抱える課題に解決策を提示し、経済価値を向上させ、循環のサイクルを描くことを目標として掲げています。

農家が抱える主な課題
タイ国内で生産されるタピオカスターチ約500万トンのうち、タイ国内で使用されるのは約100万トン。そのタイ国内で使用されるタピオカスターチの多くをタイ味の素社が購入している

プロジェクトの主な施策

バンコクから北西へ車で5時間ほど走ったところにある小さな町・カンペンペット。ここはタイ有数の農業県であり、キャッサバの国内生産量が第2位。そして、味の素社の製造拠点およびFDグリーン社の拠点があります。プロジェクトはここを起点に、農家の課題解決に向けた様々な施策を展開しています。

キャッサバモザイク病へのアプローチ

キャッサバモザイク病は、感染すると葉にモザイク状の白い斑点ができ、最終的には枯れてしまうウイルス病です。キャッサバは1年に1回茎を植えて作付けをしますが、感染している茎を使ってしまうと病気を持ち込んでしまいます。また、コナジラミという1mm程度の虫が媒介するケースもあります。この病気に対しては以下のようなアプローチを行っています。

教育 農家の皆さんが、そもそもキャッサバモザイク病について知らないということもあります。病気がどんなものなのか、目視で判別するための知識、対処方法などに関する教育を行っています
化学分析 抗原抗体反応を用いた感度の高い分析法により感染状況を確認し、農家の皆さんへ伝えています。また、メディアにも取り上げていただくなど、普及活動にも力を入れています
ドローン活用 上空から感染株の可視化をするための取り組みを進めています(現在開発中)
資材開発 タイの国立大学であるコンケン大学との共同研究を進めています(現在開発中)
栽培知識の基礎教育

タイは農業大国といわれていますが、カンペンペット県の農業従事者の8割は小学校教育までしか受けておらず、栽培や土壌の知識に関しては、決して高いレベルにあるとはいえません(2013年データ)。キャッサバ栽培における基礎知識、土壌診断の読み解き方などの教育プログラムを展開しています。講義だけではなく、ペーパーテストによる理解度確認や、その後のフォローアップにも力を入れています。

無償の土壌診断

タイ国農業省土地開発局と共同し、カンペンペットの農家を対象に無償で土壌診断を提供。必要な栄養成分、土壌改良剤の量、施肥時期をわかりやすく可視化し、レポートも無償で提供しています。2020年は約350件、2021年は約500件、2022年は750件以上の診断数になる見込みです。

新しい肥料の開発

キャッサバの収量増、減肥を両立させる微生物資材「Amina」の開発を進めています。タイ国農業省農業局から製造技術移管を受けたもので、2023年度の初頭には販売を開始できる見込みです。

健全な種茎の提供

タイ国科学技術開発庁BIOTECとの共同で、キャッサバモザイク病に感染していない種茎の提供を進めています。モザイクキャッサバ病感染の有無は、事前の種茎栽培圃場状況の確認と分析により保証されます。

取り組みの成果

タイ味の素社では、上記のようなプロジェクトの施策に参画していただける農家を「トライアル農家」と呼んでいます。2021年に参画した187農家の収穫結果によると、キャッサバの得量が平均36%、収入が平均22%改善する結果が得られました。この成果が得られたことで、2022年7月現在、トライアル農家は526農家にまで増加しており、行政から後押しをいただく機会や他県からの問い合わせなども増えてきています。

今後の目標と展望

トライアル圃場と一般的な圃場とのキャッサバ生育約3カ月の比較

今後の目標は、タイ味の素社がトライアル農家数を、カンペンペットで消費しているタピオカスターチ量に相当する数まで拡大することです。また、スターチ工場とも連携して稼働を上げ、プロジェクトで支援したキャッサバ農家の収穫が、より多くタイ味の素社にとってのインプット(原料)となること、これらによってバイオサイクルをより強固なものにし、持続可能な農業の発展を目指していきます。

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