味の素グループの歩み

第1号医薬品「エレンタール®」発売 - 医薬品開発の歩み

味の素グループの自社開発医家向け医薬品※の第1号となったのは、1981(昭和56)年9月に発売された日本初の成分栄養剤「エレンタール®」です。1909年のうま味調味料「味の素®」発売以来72年後のことです。

日本初の成分栄養剤「エレンタール®」1981年

味の素グループの自社開発医家向け医薬品※の第1号となったのは、1981(昭和56)年9月に発売された日本初の成分栄養剤「エレンタール®」です。1909年のうま味調味料「味の素®」発売以来72年後のことです。
※医家向け医薬品:医療機関で用いる薬、医師が処方する薬。

成分栄養剤(Elemental Diet:ED)とは、タンパク質(アミノ酸)、炭水化物、脂肪、ビタミン、ミネラルの5大栄養系がほとんど分解された形で配合された経腸栄養剤※のことです。最初に実用化されたのは、外科手術後の栄養管理のためにアメリカのモートン・ノーウィチ社が1968年に発売した「Vivonex」でした。しかしこの商品は、成分組成が日本人に最適ではなかったので、1976(昭和51)年に千葉大学から、かねてよりノーウィチ社に原料用アミノ酸を供給していた味の素社に対し日本人に合った成分栄養剤の開発が要請されたのです。
※鼻などから経管栄養法で補給され、消化管を通して消化吸収されるので消化吸収が容易な高エネルギーな栄養剤。

当社は、日本人に合った製品の開発を進め、臨床試験を行い、同時に薬効、安全性に関する動物実験を重ねました。そしてノーウィチ社から製造技術を導入し、医薬品製造許可を得、当時の森下製薬社を通じて発売しました。その後、新生児・乳児向け成分栄養剤として「エレンタール®P」、肝不全用成分栄養剤「ヘパンED®」も発売しています。

その他、制癌剤「レンチナン®」、抗生物質製剤「アジセフ®」、降圧剤「アテレック®」、肝疾患用分岐鎖アミノ酸製剤「リーバクト®」、血糖降下剤「ファスティック®」、骨粗鬆症治療薬「アクトネル®」などの医薬品を発売してきました。当グループ内で医薬事業を担う会社は、医薬業界内の大きなうねりとも相まって色々と変遷をたどりましたが、2010年4月、ついに現在の味の素製薬社が設立されました。

実は、味の素グループ内に製薬と名のつく会社が設立されたのはこれが初めてではなかったのです。味の素発売前の1907年(明治40)年5月に設立されたのは鈴木製薬所社でした。
その後、今から78年前の1935(昭和10)年、資本金10万円で川崎市鈴木町に寶(たから)製薬社(現在の味の素ヘルシーサプライ社)が設立されました。

寶(たから)製薬社の「ヒスタメントB」欄間広告

この会社の主要製品は、川崎工場でできるアミノ酸の一種 ロイシンを原料としたもので、催眠効果がある「パルタール」、グルタミン酸より製した塩酸ヒスタミンを主成分とする塗り薬でリューマチ、神経痛、肩こりに効果のある「ヒスタメントA」、同じく塩酸ヒスタミンを含有する塗り薬で、湿疹、凍傷などを治す「ヒスタメントB」、主成分はグルタミン酸塩酸塩で、胃液分泌促進並びに補給、食欲増進に効果がある「アチグル」、その他歯痛止め、水虫薬、痔疾の薬、アミノ酸粉(洗顔料)などでした。将来の医薬、化粧商品の萌芽がすでにこの時代からあったのです。
この背景には、創業以来「味の素®」の原料は小麦でしたが、これに加えて、1934(昭和9)年から脱脂大豆が採用され、2年後の1936年には使用量が小麦粉とほぼ同量になったことがあげられます。脱脂大豆は、小麦と比べ安価であったもののグルタミン酸の含有量が少なく、分離過程で排出される塩酸塩分離液も小麦の場合よりかなり大量でした。そこで「味液®」や「エスサン®肥料」といった副産品が開発されたのですが、これと並び医薬品の誕生も塩酸塩分離液から各種のアミノ酸類の分離研究が行われた成果です。「パルタール」の原料ロイシンもこの分離液から取り出したものでした。

「モリアミン®」(1956年)

この様にして医薬関連製品を世に出した当グループですが、戦後は、1945(昭和20年)以降開始した各種アミノ酸の製造販売を1955(昭和30)年以降本格化しました。それは1956(昭和31)年に森下製薬社※のアミノ酸輸液「モリアミン®」用に供給開始した必須アミノ酸結晶に始まり、医薬用、食品用、飼料用と展開していきました。1950年代後半から1960年代にかけて味の素社は、発酵法によるアミノ酸の大量供給体制を整備するとともに、製薬会社や大学研究所との関係を密接にしながら医薬情報を収集し、発酵および合成技術を駆使してニーズに迅速に対処していきました。いわば来る医薬事業進出への基礎固めの時期だったのです。
※森下製薬:1921(昭和10)年12月に設立され、大阪市に本社があった製薬会社。

血漿(けっしょう)増量剤「HES」

1970(昭和45)年6月に社内検討委員会(Mプロジェクトチーム)が提出した「医薬品事業進出に関する答申」では、「医薬品は食生活を通じて国民の健康に貢献してきた当社が進出するにふさわしい事業分野である」と判定されました。こうして医薬事業に特有な研究、開発、販売体制が必要であるという認識の下、その体制づくりに早急に着手することとなり、本社にM班、中央研究所には生物科学研究部が設置されました。

ここで開発され発売されたのは種々の医薬原料で、製薬会社に販売されました。パーキンソン氏症候群の治療薬となる「Lドーパ」、頭部外傷に伴う意識障害の治療薬である「CDPコリン」、手術や事故による失血の際に一時的な血液の代用として用いられる血漿増量剤である「HES」(ヒドロキシエチルスターチ)、血液中のコレステロール値を低下させる効果がある「ソイステロール」、心筋代謝障害や低心拍量を改善する効果があり、タバコの葉から抽出して作る「ユビデカレノン」などでした。

医療用食品「メディエフ®」(1974年)

更に1974(昭和49)年10月には、医療用食品「メディエフ®」を全国の病院・診療所に発売しました。これは大豆たんぱくにアミノ酸類、ミネラル、ビタミンなどを加えた、高タンパク高カロリーの栄養食です。現在は、2008(平成20)年4月に設立された味の素ニュートリション社が他の医療食と共に販売しています。

この様にアミノ酸事業を母体として出発した当社の医薬事業は、医薬原料、医療食、そして医家向け医薬品の開発・販売へと発展していきました。