うま味について

うま味について

うま味について

「うま味」は日本人により発見されました。
和食文化の原点は天武天皇が発布した「肉食禁止令」にあるといわれています。和食文化は畜肉を禁じられたことにより、魚介と植物性たんぱく質中心の食スタイルすなわち、Eat Lancet委員会が言うところの究極のプラネタリーヘルスダイエットに向けて進化しました。
「うま味」の歴史は1908年、東京帝国大学理科大学(現・東京大学理学部)の教授であった池田菊苗博士が、当時の医学部学部長、三宅秀博士の「佳味は消化を促進す」という言に触発され、コンブ抽出液(昆布出汁)に含まれるL-グルタミン酸塩の特徴的な呈味を発見、翌年発表した論文(新調味料に就て、東京化学会誌、1909年)の中で「うま味」と命名したことからはじまります。
英語にはうま味に該当する言葉がなかったため、1982年に発足したうま味研究会が"umami"を学術用語として使用することを改めて提唱しました。
1990年代には甘味、苦味、塩味、酸味に続く第5の基本味として国際学会で認められ、専門用語"umami taste"となって、世界中で注目を集めるところとなりました。

「うま味」がもたらしたイノベーション

池田菊苗博士の特許を実用化することで誕生したベンチャー企業であった味の素グループは、このたった一つの発明を起点としてアミノサイエンスという新しい技術・市場を開拓し、事業を通じて人と地球の健康に貢献することで成長していきます。
特筆すべきは、うま味調味料の成分であるグルタミン酸を安価に大量に得るための技術開発がもたらしたイノベーションです。アミノ酸製造技術は、うま味調味料であるL-グルタミン酸塩の生産にとどまることなく、ほぼすべてのアミノ酸の大量供給を可能とし、アミノ酸の用途研究を加速し、アミノ酸の生理、栄養、反応性といった性質に基づく様々な製品やサービスを提供の産業化をもたらしました【図1】。
医療では誰もが病院で術後にアミノ酸輸液を受けることができるようになりました。
また、多くの医薬品を作るのにアミノ酸誘導体が使われており、様々な医薬品が安価に処方されています。更に、iPSなどの再生医療培地にはアミノ酸は必須成分として含まれており、高度な再生医療を受けることが可能となりました。

一方、農業分野では、家畜の飼料効率を飛躍的に向上させ、植物の病原菌耐性を高め、環境負荷軽減と食糧生産の向上に貢献しました。
さらに、アミノ酸の持つ高い反応性は、コモディティ製品(洗剤や化粧品など)から半導体の絶縁素材まで身の回りの多くの製品に利用されるようになりました。
また、アミノ酸製造の枠をこえて、環境コストを低減した新しい有機素材開発(酵素や機能性素材など)や細胞農業(培養肉など)などの基幹生産技術として新たなイノベーションを引き起こしています。

「うま味」の最善科学:持続的で健康的な食環境向上にむけて

「うま味」は、味覚として関係するだけではなく、唾液分泌促進に働くことなどが報告されています。
ドライマウスの高齢者にうま味水溶液を用いた治療を行うと、味覚機能、食欲、体重、および全体的な健康状態の改善が見られました※1※2
また、「うま味」が「おいしい減塩」に役立つという科学的エビデンスは一般的な減塩素材であるハーブやスパイスより確かで、おそらく、主要な減塩代替物質であるカリウムのエビデンスに劣りません。米国の加工食品の特定の食品群を対象に「うま味でおいしい減塩」技術を取り入れることで、米国民の塩分摂取量を3-7%低下させられることを、米国健康栄養調査データをもとに推定しました。
国民がどの食品群からどのくらいの割合でどのくらいの量の塩分を摂取しているかは、国民健康栄養調査を実施している国であればデータが存在します。
そして、多くの基礎研究は各食品群でうま味を使うことでおいしさを損なうことなく何%減塩が可能かを示しています。また、市場調査結果から国別で減塩市場の度合いと、実際にうま味技術がどのくらい取り入れられているかデータがそろえば、うま味の減塩インパクトを国レベルで推定できます。

  • ※1. Sasano T. et al., Biological and Pharmaceutical Bulletin, 2010; 33, 1791 -1795
  • ※2. Sasano T. et al., Foods, 2015.
「おいしい減塩」とは?

味の素グループは、東京大学を中心としたU20 研究プロジェクト(G20加盟国を対象とし、うま味の減塩インパクトを国レベルで検証するプロジェクト)と連携し、うま味の最新研究を政策につなげる最善の研究を支援することにしました※3
これまで、米国※4、英国※5、日本※6で結果を得ています【図2】。驚いたことに、米国では先行文献より対象を広げることでうま味で最大13%の塩分摂取削減が、英国では19%、そして日本では21%の減塩ができることが分かりました。

  • ※3. Nomura S. et al., Health, 2021;13, 629-636.
  • ※4. Nakamura H. et sl., Food Sci Nutr. 2023;11:872–882.
  • ※5. Nomura S. et al., Public Health Nutr 2022: 26, 488–495
  • ※6. Tanaka S. et al., https://doi.org/10.21203/rs.3.rs-701060/v1

今後も研究活動や支援等を通じて、うま味を活用したおいしい減塩の社会実装に向け取り組んでいきます。