• 「アセットライト経営」はどういうものか。内容の解説およびその背景も教えて欲しい。また、それにより、会社はどう再生するのか。

    アセットライト経営」にはいろんなスタイルがあると思う。これまでも「FIT & GROW」という方針を掲げ、構造改革と成長の部分に分けて推進してきた。やりたいことは、GROW戦略の旗頭に位置付けていた食品事業の中にも、アセットライトにしなければいけない事業があり、経営主導で領域を決めて取り組んでいくこと。その考え方は3つ。①当社の得意市場の中でトップ3に入れるカテゴリーに集中する。細分化されたビジネスユニットに定めて、トップ3を実現する。これにより、トップ3の構成比が高い会社になり、結果としてグローバル食品企業トップ10クラスの状態を目指す。②たとえば、冷凍食品は、国内と欧米のアセットは別々に管理しているが、戦略上一本化し、伸ばすべきところに集中する。その時のKPIはシェアトップ3であること、またROAを着実に上げていくことができること。ROAの必要最低基準は食品事業15%、アミノサイエンスのBtoB事業は10%。そうしないとROEにつながる構造にできない。これまで3カ年計画でシェアしてきたが、ROA改善にはその先まで見ないといけないので、食品事業でも6年必要(中期計画2期分)。その期間に必要な金額規模・戦略的に重要なエリアに使われるかどうかで投資判断する。アミノサイエンスのBtoB事業には10年必要なものもある。いずれにしてもビジネスユニット単位で確実に達成できるものを要件として加える。③グループ共通費用売上高比率2.5%の取り組みが、FY20目標に向け最終コーナーになりつつある。これは共通部分なので事業に紐づけていないFITの取り組み。共通で持っているアセットも効率的にまわせるよう(ex.物流資産)推進していく。背景は一つ。成長エンジンに位置付けている食品は、総じてグローバル競争が激しくなっている。ICT革命が当社の市場・競合にも起きており、激しい競争が起きてきている。メーカー間の競争とスモールマスとの競争。eコマースの割合が大きくなるほど、既存流通チャネル間での競争が激しくなってきており、これまでのスピード感では仕事ができなくなってきている。たとえば、物流費上昇分の価格転嫁に、従来とは違い、かなり時間がかかるようになってきている。よって、もっと強いところに、よりフォーカスした構造でないと生き残れない。どういう会社になりたいかというご質問への回答は、当面目指すのは「確かなグローバル・スペシャリティ・カンパニー」であり、グローバル食品企業トップ10クラス入り。ESGも含めたクライテリアを5つ設定。非財務分野の取り組みはインライン。地球環境への取り組みも進捗している。これは主力の紐づけた製品の改良が進んでいるため。残念ながら、財務目標の進捗が遅れている。財務指標の構造的な部分が実現できていないため。財務の構造も非財務の取り組みも、世界をリードする仲間に入って、社員が誇りに思える、そして顧客からも期待されるような企業集団になっていきたい。

  • トップ3に集中するというのは、具体的にはどういうことか。ROAは現状、どのくらいで、いつ15%、10%にしたいと思っているのか。

    一つ目は調味料(ドライセイボリー;うま味調味料、風味調味料、ブイヨンキューブ)。グローバルで23%シェア、グローバルNo.1。それ以外の液体系のマヨネーズ、ケチャップやオイスター等も含めるとトップ5-6位くらい。その中で、ダントツのトップの会社があるわけではないが、当社はメニュー用調味料も含めるとトップ3に入れるのではないか。主力でもあり得意分野でもあるので必ず実現したい。二つ目は冷凍食品。日本ではトップ3も、アジアン・エスニックカテゴリーだと、日本でも米国でもトップ。欧州では同カテゴリーでトップになろうとしている。より盤石にしていきたい。三つ目は味の素AGF社をはじめとする粉末飲料事業。タイ、ベトナム、ブラジル、フィリピンでも展開。当社の持つおいしくする技術、栄養改善する技術を加えて、ひとつの柱にしたい。前述の2つよりは位置づけは下がるがそういう事業を創れると思う。ヘルスケアは培地、成長因子。CDMOの中でも核酸医薬、抗体医薬はグローバルトップ3になる可能性があり、投資を行っている。ROA(事業別に共通費配賦後)は現状、アミノサイエンス事業は約7%、食品事業は約11%。調味料が押し上げている状況。

    (ROA改善は何年後になるのか、との問いに)

    FY20を目指すも、次期中計のできるだけ早いタイミングで実現できるように計画していきたい。

  • アセットライト経営を進めるにあたっては痛みを伴う改革にならざるを得ないと思う。見限る資産のスケール感について、どの程度ドラスティックなのかイメージを教えて欲しい。

    現時点での回答は難しい。

    (当社は脱コモディティという点では結果を示している。一方、事業を拡げるというメンタリティでこれまでやってきた中で、その方向性を転換するということは本当に可能なのか。今までとこの点が違うから推進できると言えることはあるか、との問いに)

    優先順位の高い冷凍食品事業の在り方、またコーポレート部門の改革をできるだけ早く事例として紹介できるようにしていきたい。その他の事業、アセットについても順番に考え方を示していく事になるだろう。

  • アセットライト経営には痛みを伴う部分も出てくるとのことだが、各BUのヘッドとしっかり共有されている状態なのか。ある程度の手順を踏むということを各部門長が覚悟をもっているという理解でよいか。

    共有されているが、アセットライト経営の全容についてはまだ組織に落としていない。先ほど説明した判断基準で選択に入る。いくつかあるだろうと経営陣がみているものからスタートするが、その内、重要な2つのテーマについては共有が終わり、社長主導の経営基盤検討会でタスク化している。腹落ちしている。

    (重要な2つのテーマとは何か、との問いに)

    冷凍食品事業の再生とグループ共通費売上高比率2.5%。後者はFY20目標。具体的なものが出てきており、最後は配置換えやシステム投入が必要なので、これを優先して進めている。

  • アセットライト経営による事業利益の絶対額のイメージ。赤字事業の縮小ではないと思う。事業利益が減るイメージを持っているがどうか。

    事業利益とトップラインのキャッシュインをバランスしていかないといけない。大きな落ち込みがないように、段階的に実行していく。具体的な数字は次期中期経営計画まで待って欲しい。事業利益がどれだけ落ちるのかは、縮小する事業とそれに付帯する固定費との兼ね合いがある。いつやるかによる。固定費を抱えたままではやらない。

    (既存事業を含め、成長するイメージでよいのか、との問いに)

    いったん、業績のクラックが入ると思う。目指すのは事業利益の絶対額1,300億円。事業利益率10%、ROE10%超の構造目標には必要な水準だと思っている。ただし、これらを全て綺麗に右肩上がりで続けるのは難しく、どこかで下がる可能性があると考える。

    具体的な数字は現段階ではないが、FY19、20以降にその可能性があるということか、との問いに)

    Yes。検討ばかりやっていると、それだけで組織が疲弊する。

  • 「コンシューマ食品分野の戦略的統合」を強調しているが、結合は具体的にどういう形として実現するのか。“横断的な開発体制”のことなどの例でお話し頂き、具体的な効果をお教えて欲しい。

    コンシューマーフーズのマーケティング等の活動は全てローカルになる。よって戦略を結合する前に、どの分野の戦略や機能を寄せていくべきかを考えなければならない。一つ目は生産技術。よりイノベーティブな効率の良い、GPの稼げる生産技術を集約化していく。具体的には冷凍食品事業で先行していく。二つ目は、現在、基礎研究をする分野と食品の開発をする分野で研究所を分けて持っているが、それを一元化しようと考えている。三つ目は、現在、食品R&Dの機能は味の素㈱、クノール食品社、味の素冷凍食品社、味の素AGF社と分散しているが、まずFY19に味の素とクノール食品社を、FY20に味の素冷凍食品社と味の素AGF社を川崎の研究所に集約、ワンチームでの連携を図っていく。

  • 調味料では、製品がそれぞれの強みを発揮して成長してきたと思う。冷凍食品、粉末飲料と手数が増えないと、頭ひとつ抜けることができないと思う。競合も同様に攻めており、混沌とした状況は変わらないであろう。冷凍食品では「ギョーザ」が強いので製品力を上げて強くしていくという考えもよい。しかし、もっとトータルでみた時に面で攻められないのか。アセットライト経営を目指すという中、基本的な構造を残しながら、絞ってやっていくといっても、これまでのFIT & GROWと一体どこが具体的に変わるのか。シェアが高い部分がありながらも、やはりダイバーシファイ(分散化)しないと大きくならないと思うがどうか。

    調味料を広くとらえた時に、メニュー用調味料の5-6社は、それぞれ特有の強いカテゴリーを持っている。某食品メーカーは醤油(7-8番目)、某食品メーカーはスパイス中心のブレンド調味料。当社はうま味調味料と風味調味料。メニュー用調味料は消費者がこれまで手作りだったところに着眼し、新しい製品で提供している。売上構成比は約1割だが、年率10超%で伸長。もっと強化できる。これにより、5-6番目のポジションを3番目まで引き上げられると考えている。よって、かなりフォーカスしている。冷凍食品の事例が出たが、「ギョーザ」が日本ではNo.1。アメリカでもNo.1と言ってよいだろう。しかし、日本の冷凍餃子購入経験率でみると18%しかいない。もっと伸長する可能性があるのに、現状、新領域製品やレッドオーシャン化しているカテゴリーもあり、日本での冷凍食品シェア11%でNo.3。3番目のカテゴリーを2番目、1番目にするのはあまり意味がないのではないか。むしろ、購入経験率が18%しかない強いカテゴリー「ギョーザ」、「シューマイ」や炒飯、デザートといった領域でもっとポジションを上げていく方が戦略上やりやすいし、フォーカスした方が強くなれる。
  • 国内の生産体制再編について。FY22以降、事業利益率2%改善目標とのことだが、アセットライト経営との関連はどうか。

    該当する製品は、調味料とスープを中心とする高付加価値製品を更に生産性を高める目的。そういう意味では構造強化につながる。現状、製品の中身を造る工場と包装する工場が別々の場所にあり効率が悪く、一気通貫でないためフレキシビリティもない。今、スモールマスが要求されている中、モノづくりのフレキシビリティに弱い工場。結果として、スモールマスに取られている。フレキシビリティの高い工場に生まれ変わる。風味調味料は2020年以降東海工場に集約、「カップスープ」まで含めると2021年以降に生産体制再編が完了する。新しい工場は相当オートメーションが進み、フレキシブルな生産ラインになる。該当する製品の事業利益率2%改善というのは、合理化によるもの。成長の観点では次期中期経営計画で反映する。

    (アセットライト経営の取り組みとは別だと考えてよいのか、との問いに)

    成長分野の取り組み。縮小均衡の絵では描いていない。

  • アセットライトを進めると一時的に総資産が減っていく可能性があるのか。それは事業利益の拡大に対してネガティブに働くのではないか。M&Aで補うことは考えないのか。

    バランスを取りながら進めることになる。ドライセイボリーの領域に関して言えば、今残っているM&A候補としては、グローバル大手企業のグローバルブランドやそれに準ずるローカルコアブランドになるが、実質的に候補は少ない。しかし、メニュー用調味料については急伸している市場であり、またグローバル大手企業がこの領域を売却する可能性もあり、チャンスがあると思っている。

  • ROAは6年間での目標設定になるようだが、20-22中計の次の中計の内容も次回の中計発表時に明らかになるのか。

    次回中計発表時に、次々回の23-25中計の数値目標を開示することはない。しかし事業の取捨選択の判断基準として、そのガイドラインは共有できるのではないかと考えている。

  • 香港アモイ・フード社は、CITICキャピタル社に売却されたが、アセットライトの取組みの一環と考えてよいか。

    売却は3つの理由がある。1つはアセットライト。現在、香港アモイ・フード社は利益を生んでいる会社であるが、我々が当初期待していた利益水準よりは低い。将来のROAという観点でいえば、老朽化した既存工場に新規に多額の設備投資が必要になるが、今後、投資額を回収できる構造にできるかどうかというと難しいだろう。2つ目は、CITICキャピタル社傘下のメーカー群やディストリビューション、eコマースと組むことによって香港アモイ・フード社のブランド価値を最大化できるだろう。香港アモイ・フード社にとっても良いことになる。3つ目は、100%売却して15%出資するが、CITIC社が保有する中国でのディストリビューション網とeコマースとのアクセスポイントという観点で本体とのシナジーを期待して出資を残している。

  • アセットライト経営について、中計2期分を視野に入れて立ち上げることになる。トップダウンで実行するとのことだが、長期間西井社長がトップで進行を見守るということを想定しているか。

    その考え方でお願いしたい。ただ機関設計も必要。今、自身が委員長を務めるガバナンス委員会で取締役会の透明性を高めるにはどうすべきか議論している。現在のタスクは自身が座長として全てを見ているが、今後社長のタスクを取締役会に紐づける形でやっていきたい。考え方、進捗、レビューがきちんと蓄積される形で進めていきたいと思っている。これまでかなりの部分を現場に任せてきたが、重要なところは社長と取締役会で握る仕組みを作っていこうということ。

    (今取締役会の中で、どの程度足並が揃っているのか率直な印象を教えて欲しい、との問いに)

    中間決算説明会の前に取締役会では伝え、賛同してくれている。経営会議のフルメンバーにはその後に発表した。その中で具体的な範囲や基本的な考え方を共有し、優先順位の高いテーマについてはFY19の事業計画に反映すべく進めているところ。染み渡りつつある状況と捉えている。

  • 長期的にコンシューマビジネス全体のポートフォリオの構成比に目標はあるか。更にコンシューマビジネスの構成比を高める、或いはビジネスモデルの簡素化を検討することはあるか。

    アセットライト経営では食品事業の中の非効率な事業を選別して縮小する。そして、調味料やアジアン冷凍食品、クイックナリッシング食品・飲料に集中する。これらは主にFY19の一部と20-22中期計画に含まれる。食品事業は、事業の選別をしながら伸ばす分野を強化することで成長が鈍化する可能性もあり、ヘルスケア分野は先行して伸びてくるので、売上構成比約80%の食品事業が一時的に縮小してヘルスケアが少し増える構造になるかもしれないが、その構造にすることが目的ではない。食品のフォーカスエリアを中心に成長率10%に戻すことが目的である。M&Aでどのようなオプションが加わるかによって少し比率が変わる可能性はある。

     

  • グローバル環境やIT環境の変化が大きい。当社として生き残りをかけた改革という印象を受けたが、その理解で好いか。

    Yes。

  • コーヒー事業について。機能性飲料などの形を計画するということだが、どうしても投資家の心に刺さらない。どのように考えているか教えて欲しい。

    コーヒー事業については、FITの対象は大方フォーカスしているが、どのようにGROWさせていくかということがまだ紐づけられていない。今まで、パウダードリンクという味の素AGF社の強みを活かし柔軟に製品開発をするためのR&Dの投下があまりにも少なく、またJV契約上の制限もあったため、抹茶やほうじ茶など、嗜好飲料の域を出られなかった。しかし2年程前から味の素㈱の研究開発を取り入れており、かなり食品と同じような開発体制が整い始めている。この中から今後の計画を立てていく。これは良い情報としてお伝えしておきたい。

    (コーヒー事業においても資産効率が悪いところについては見直すということか、との問いに)

    Yes。十分に検討する時間は頂戴したと思っているがその中で答えを出しきれておらず、そろそろ決断しなければいけない時期ということ。ただし全てを縮小するのであれば売却したほうがよいわけだが、そうではないと思っているのでアセットライトの対象としている。「クノール」のノウハウは当社が開発したもので非常に強いと考えているが、基本的に日本以外ではブランドは使えない。このノウハウと味の素AGF社のアセットを組み合わせられないかと考えている。調味料、アジアン冷凍食品、その次位の柱としてチャレンジしたい。
  • 当社のコアコンピタンスは変わってないが、アウトプットが不足している。消費者に何が受けるのか、発想がメーカーサイドに偏っている。競合分析があまりにもできていないのではないか。逆に言えば、競合は当社をよく分析している。なぜそうなっているのか、今後アウトプットを変えていくのか。

    4つのアミノ酸を中心とする機能は、優位性のある素材ができてくると大きく稼げるが、2番手のキャッチアップがものすごく速くなっている。例えば、コク味物質を開発するのに10年くらいかかるが、市場に新しい素材を拡げ、当社で使いこなすために2年くらいかかる。その間に類似品が出てくる。このスピード感が速くなっている。競争優位にやるとすれば、早い段階で手を打つこと。つまりスモールマスの段階から市場を捕まえて、その情報に対して実際に商品を出しながらミドルマスに吹き上がる時にマーケティングをやる。グループの中では、味の素ファインテクノ社の電子材料は上手くいっている。かつては、PC向けのみであったが、スマホ、サーバー、車載の集積回路と、事業ポートフォリオは4つくらいまで拡がっている。なぜかというとシリコンバレーに出先があり研究者が得意先と向き合って情報を収集している。こういう形に舵を切ろうと思っている。

    日本のマーケットへのこだわりが強いが、あまりにもリソースがかかり過ぎている。隙間商品を掘り過ぎている。例えば、国内冷凍食品は「夜九時からの一人呑み」など新領域にフォーカスしたために、それでは販売のカニバリや主力製品の縮小・欠品が起きる。伸びなくなってきている日本のマーケットを掘り起こしてきたが、一定の限界が来ている。ただし、リソースを持って、海外に出ればもっとやれる。現在はテリトリー制を敷いて各国でそれぞれやっているので、変えなければいけないと思っている。組織改定が伴うので2020年には変えたい。
  • 当社の課題をみると、経営陣が起こりえるリスクを的確に予測する機能が不十分だと思うがどうか。

    当社はうま味調味料に象徴されるように、アミノ酸を中心とした開発力がコアコンピタンス。世の中にない素材を生み出し、それを食品にも応用することで、今までにないおいしさや機能性を付加し、差別化された製品で成長してきた。これまでの強み。アセットライト経営にフォーカスしなければならない背景には、競争が激しくなったこととともに、2番手、3番手のプレーヤーがキャッチアップしてくるスピードが速くなったことがある。これまでの成功モデルが通用しなくなってきている環境変化がある。現経営陣の判断力が時代にマッチしていない部分もあるかもしれないが、それだけではなく、現場もスピード感をもった態勢になっていない。つまり、余計なものもやっているので、よりフォーカスしないと、対処するのが難しくなっている。他社が造らないユニークな素材造りをやめるのではなく、商品化する速度を上げ、マーケティングにつなげる力を強くしていく。そのためには、エリアを絞り集中していく。
  • スピード感より、危機感が足りないのではないか。市場環境の変化に対する取り組みは、日本の方が新興国より成功していると思う。日本での成功事例は海外の子会社と共有できているのか。たとえば、日本の家庭用コーヒー市場での構造変化は、ポテンシャルリスクとして、海外に伝わっているのか。

    アセットライト経営にシフトすることについては、決算説明会の直前に決めたが、背景の共有については、グローバルにいる30人の執行役員に2カ月くらいかけ、各地域の最新の情報をインプットし、9月に日本に集め、認識合わせを行った。その上で、フォーカスすべきだという結論になり、その場合のルールはトップ3とROAの確実な改善、とした。それを基に、現経営陣で社長をリーダーとしてアセットライト経営を推進することになった。

    (日本よりも海外の方が変化が速いが、情報を共有する仕組みはあるのか、との問いに)

    Yes。どの国の情報でも集約しグローバルに発信し共有している。

    (それは9月からやっているのか、との問いに)

    No。常時やっている。今起きている変化は速く、かつ規模が大きい。分断化された小さなビジネスユニットでは、今の変化に対処できない。たとえば、eコマースへの適合やサプライチェーンの効率化は、小さい事業規模でAIによる需要予測導入しようとしても費用対効果が悪い。よって、本社が設備投資の優先順位を決めていく。そういうことを経営主導でやっていく。

  • 日本型の成長戦略は、どこの国でも当てはまるのか。

    新興国で生活レベルが上がっていく中では、ポートフォリオを拡大するのは非常に有効。新興国では基本的な考え方をとっており、先進国のモデルとは違う。

    (Five Stars以外を強化するという話が17-19中計であったが、新興国にアクセルを踏めば良いという考えにはならないか、との問いに)

    Five Starsに集中して、Rising Starsは基本的な調味料をベースにNo.1戦略をとっている。Rising Starsは世界一の調味料にするという戦略において重要だと考えており、止めるということではない。

    (Rising Starsにアクセルを踏むことはしないのか、との問いに)

    Rising Starsといっても国のレベルは色々ある。トルコとアフリカは違うし、インドとアジアは違う。国の状況に合わせてアクセルを踏むか、ポートフォリオを拡げるかということ。

    (前社長の時からトルコやアフリカでの展開の話は出ており、結構時間が経ったのではないか、との問いに)

    トルコは経済環境がリラ安で苦戦しているが、現地で成長は続いており2社買収して100億円近いビジネスになっている。地域的な拡大もしてきたが、基礎的な調味料を手掛けているため負荷はかかっていない。日本では、売上成長率2-3% にしようとリソースを集中させてきた。現実的には調味料は1%程度の成長で考えなければいけないかもしれない。そういった観点でエリア戦略の見直しをしなければいけないだろう。

  • 化成品事業について、メーカー側では増設を発表している。当社は投資に関してどの様に考えているか。

    余力があるため増産の必要はないだろう。当社は最終製品のパーツを生産している。

    (化成品事業は他の事業とどの様なシナジーがあるのか、との問いに)

    技術的なコアの部分が繋がっている。この事業は究極のアセットライト経営となっており、非常に効率化が良い。開発サービスで商売している様なビジネスである。当社のBtoB事業のビジネスモデルとなっている。

    (この技術のコア部分を使用し、例えばサービス事業やライセンス事業といった新しいビジネスで稼ぐことを検討していないのか、との問いに)

    BtoB事業として、顧客との連携したビジネスが確立している。故に新しい事業分野を広げるのではなく、ここに特化する事で収益を取り込んでいきたい。

  • ヘルスケアについて。FY19、phaseⅢの段階にある医薬品があると思うが、FDAの承認がおりれば開示できるものはあるか。

    先方が開示することになる。当社は医薬品そのものを上市するわけではないので、開示できないのではないか。一般的にはOEM先は開示しないケースが多い。パイプラインの進捗に応じて売上計上が可能になる。CDMO事業の売上が増加するので、そのタイミングで外部と共有できることになる。

    (現在でphase毎に件数はわかるか、という問いに)

    FY18の受託目標は商用医薬品40件以上、創薬医薬150件以上。phaseⅠ、haseⅡが多い。2018年8月に味の素アルテア社は、新しいADC(抗体医薬)の製造ラインを公表した。主要な製薬メーカーを招いて見学してもらった。2018年8月以降は製造ラインの2019年3月完成を前提に契約受注体制がスタートした。日本は核酸医薬のジーンデザイン社も固相合成法による多品種、小容量の開発センターを建設中で2019年3月か4月に完成する。既存ラインの処理能力を大幅に増強することで150のパイプラインを増やすことが可能。FY19年初めからCDMO事業の受託体制が完全に整う。

  • 20-22中計の発表時期はいつになるか。

    2020年2月頃になる。2019年7月に各社にガイドラインを出して、2019年9月に情報をアップロードしてフォーカスエリアをブラッシュアップしていく。最終的にはタスクも事業プランに織り込まれる。2019年5月は、次期中計の中身について、11月には方向性を共有できるだろう。

  • eコマースに対する取組みついて。

    現在、自社通販サイトによる販売、得意先である顧客を通じた販売を行っている。越境ECについては味の素AGF社の商品を中国向けにテスト販売開始。

  • 非財務目標は、FY20にブランド価値1,500USD百万の目標を立てられているが、FY20に向けて進捗はどうか。短期業績に目が向けられており、アセットライト経営を推進すると我慢の状態が続くのでブランド価値は上がりにくいのではないか。

    FY18の評価は19年2月中旬くらいにインターブランド社から提供される。足元の数値はない。FY17の評価実績は778USD百万で前年比10%程度伸びていた。ESGの進捗とコーポレートブランド戦略を強化した点が要因だったと記憶している。いずれにしてもインターブランド社の評価は業績ウエイトが高くなっており、当社はFY18業績を下方修正して横ばいに転じたことは足踏みにつながるだろう、と捉えている。FY20に1,500USD百万と申し上げたブランド価値の水準には至らないだろう。

  • ブランド価値は従業員の満足度にもつながると思う。日本では大企業なので離職にはつながらないと思うが、海外のR&D人員の離職率の変化は出てきているのか。

    事業課題になっている北米の冷凍食品は従業員の離職率は激しい。米国は全般的な好景気との間のギャップと捉えているが、それ以外は出ていない。

    (東南アジアの調味料の従業員の離職率は上がっていないのか、との問いに)

    出ていない。エンゲージメントサーベイを16カ国語でグローバルで始めているが、日本の方が働きがいという観点では相対的にスコアが低い。海外の方が圧倒的に満足度は高い。

    (ESGに積極的に取り組んでいるが、海外や日本の従業員への浸透の手応えはどうか、との問いに)

    相当浸透している。ASV(Ajinomoto Group Shared Value)を経営の軸にして当社の主力事業を通じてESGを向上させるロジックを従業員に共有している。自分たちの事業をやることが人々の健康やフードロスの低下、環境に対する負荷低減につながっているということがクリアになったので力を入れているところである。

    (ESGに力を入れる、と発表した本中計から、短期業績の数字が想定より変わってきているので、従業員に浸透しているか心配があった、との問いに)

    全体で言えば、成長エンジンである海外調味料・加工食品の成長率は7%と、当初の目標より3%鈍化したが、ESGの進捗に関してはそこまで大きく影響していない。FY20 の到達点に対してはインライン、と捉えている。ただし、財務目標に対する実績が追いついていない。

  • ワールドうま味フォーラムについて。

    本年9月に開催。15カ国、229名のインフルエンサー(生理学や栄養学の専門家、シェフ、メディア)が参加。参加者の90%が本フォーラムの内容に満足し、MSG問題に対する認識が高まったとの意見。今回はニューヨークで開催したが、毎年開催するということではなく、栄養士とシェフのネットワークでMSGのポジティブ情報が継続的にSNSやメディアを通じて発信され続けていく仕組みを構築した。来年はこの取り組みをチェックする年としたい。2年後に再びワールドうま味フォーラムでアップデートした情報を発信したいと考えている。到達目標は複数KPI化しており、その1つにアメリカのフードフォワード(食に関心の高い人々)と言われる1,000万人の人に対し、彼らの持つMSGについてのネガティブイメージを半減させたいというコミュニケーション目標がある。ワールドうま味フォーラムの予算については、3年間で10百万USDを予想している。

  • 今後、インフルエンサーに対してどのような発信をしていくのか。

    今回のうま味フォーラム開催で評価された点が3つある。1つ目は当社が本件に対し、社名を隠すことなく主体的に取り組んだということ。2つ目は登壇した専門家の中で日本人が一人だけだったこと。3つ目はうま味を使うと合理的、経済的に減塩料理が作れることを実際に参加者に体感してもらったことである。今後はMSGを使うと継続的な減塩効果が期待できること、MSGは最も純粋なうま味素材であることをキーメッセージとして伝えていきたい。元々、当社は「味の素®」の普及の為シェフとのネットワークを構築してきており、北米のインフルエンサーの66%がうま味をポジティブに捉えている。一方で、殆どの栄養士はMSGの減塩効果やMSGがネガティブに捉えられている理由を知らなかった。今回、うま味フォーラムを通じてMSGに対する正しい理解と効用を発信し、それをメディアに取り上げてもらい、一般生活者やレストランなどに浸透させるというコミュニケーション戦略を採っている。

  • 当社は優秀な方々が多いが、大人しいイメージが強いような気がする。強烈な個性で画期的な発想をする人財、グイグイ引っ張る馬力のある人財を育て上げる育成体制を考える必要はないか。

    元々課題であったヘルスケア事業については、人財をかなり強化した。この分野はグローバルなマーケットであることから、例えばCDMO事業のトップは日本人ではない。また、当該事業のヘッドクォーターもベルギーに移している。これが非常に効果を生んでいる。コンシューマーフーズにおいては、マーケティングとCreativeな事業を想像する人財が分散している。アセットライト経営とは、人を寄せていくという意味もある。この取り組みにより乗り越えていきたい。