人権

Ⅰ. 考え方・方針・体制

1. 基本方針

味の素グループは、ASV(Ajinomoto Group Creating Shared Value)を通じたサステナブルな成長を実現し、SDGs等の環境・社会・ガバナンスに関する国際的なコンセンサス達成のためにイニシアティブを発揮していくにあたって、全ての事業活動が人権尊重を前提に成り立っているものであることを認識しています。「世界人権宣言」「労働における基本的原則および権利に関するILO宣言とそのフォローアップ」「国連グローバル・コンパクト」を含めた国際的な人権基準を支持するとともに、味の素グループポリシーの一つとして「人権尊重に関するグループポリシー」を定めています。本ポリシーは、「国連ビジネスと人権に関する指導原則(以下、UNGPs)」に基づき、グローバルに事業を展開する企業グループとして、味の素グループ各社およびその役職員が国際的に認められた人権を尊重し、活動を行う国の国際的人権義務、ならびに関連する法令の順守を徹底すべく定めるものです。また、味の素グループのビジネスパートナーおよびそのほかの関係者(上流サプライヤーを含む)に対し、本ポリシーを支持し、人権の尊重に努めていただくよう働きかけ、協働して人権尊重を推進します。

「人権尊重に関するグループポリシー」を含む味の素グループポリシーは取締役会・経営会議における承認を経て代表執行役社長により署名されています。

2. 推進体制

味の素グループは、サプライチェーンにおける人権尊重を含めたESG・サステナビリティに関する取り組みを、取締役会の監督のもと、経営会議の下部機構であるサステナビリティ委員会を中心に推進しています。サプライチェーンにおける人権尊重の取り組みに関するロードマップ策定、事業計画へのサステナビリティ視点での提言と支援をサステナビリティ委員会およびサステナビリティ推進部で行い、経営会議および取締役会に報告します。また、味の素グループ内従業員の人権課題については2026年4月からグループ・コンプライアンス委員会を中心に取り組みを推進します。なお、地域事情を踏まえた課題は各地域のコンプライアンス委員会が取り組みます。取締役会・経営会議、サステナビリティ諮問会議では、人権テーマに関する議論を適宜行っています。

人権尊重に関する推進体制
  1. 第二期サステナビリティ諮問会議の提言を受け、取締役会が社外有識者との対話を継続しながら、適切な時期に次期サステナビリティ諮問会議を開催予定です。
人権テーマに関する議論
サプライチェーンにおける人権尊重
実施日 会議体 議題
2024年2月15日 サステナビリティ委員会
  • 人権に関する取引先管理展開 進捗報告
  • 人権リテラシー向上施策 進捗報告
2025年2月13日 サステナビリティ委員会
  • 人権に関する取引先管理展開 進捗報告
  • 移住労働者に対する責任ある雇用に向けた対応について
2026年2月10日 サステナビリティ委員会
  • グループ従業員の人権尊重 実施計画
  • 人権に関する取引先管理展開 進捗報告
従業員における人権尊重
実施日 会議体 議題
2024年4月10日 企業行動委員会
  • 人権専門委員会報告
  • より相談しやすい環境整備の取り組み
  • 人権・ハラスメント等の意識向上と、働きやすい環境づくりの取り組み
2024年10月10日 企業行動委員会
2025年4月17日 企業行動委員会
2025年10月10日 企業行動委員会

Ⅱ. 人権デュー・ディリジェンス

1. 基本的な考え方

味の素グループは、UNGPsや人権尊重に関するグループポリシー等に基づき、人権に関する専門家である第三者機関※をはじめとする各ステークホルダーと対話・協議を行いながら、味の素グループのビジネスに関わるバリューチェーン全体における全てのステークホルダー(全従業員、取引先、ビジネスパートナー、地域社会の人々、お客様等)の人権尊重の実践に取り組んでいます。
味の素グループではUNGPsに基づくバリューチェーン全体にわたるマネジメント体制を構築するにあたり、ライツホルダーとの対話を最も大切にしています。グループ内のヒアリングに基づきバリューチェーン全体の人権に関する重点課題として下記の8項目を定めています。これに基づき、特に高い人権リスクが想定される「サプライチェーン上流」と企業経営の基盤である「グループ従業員」を対象に人権デュー・ディリジェンスを展開しています。「サプライチェーン上流」については味の素グループの事業ポートフォリオにおいて食品事業が売上高の約8割を占めていることから、製品原料への依存度および事業活動が与える影響の大きさを考慮し、食品事業を優先的な対象として取組をすすめています。

※ NPO法人経済人コー円卓会議日本委員会(CRT日本委員会)、一般社団法人ザ・グローバル・アライアンス・フォー・サステイナブル・サプライチェーン(ASSC)

味の素グループ 人権に関する重点課題
※「人権尊重に関するグループポリシー」より抜粋

  1. 差別の排除
    味の素グループは、人種、民族、国籍、宗教、信条、出身地、性別、年齢、障がいの有無、性的指向・性自認等の理由による差別を行わず、ハラスメント等個人の尊厳を傷つける行為を行いません。
  2. 児童労働、強制労働の禁止
    味の素グループは、児童労働、強制労働、奴隷労働、および人身売買による労働を一切認めません。
  3. 労働基本権の尊重
    味の素グループは、結社の自由、ならびに労働者の団結権および団体交渉権をはじめとする労働基本権を尊重します。
  4. 適切な賃金支払いおよび労働時間の管理
    味の素グループは、賃金支払いや労働時間の管理を適切に行います。
  5. 安全な職場環境の確保と健康増進の支援
    味の素グループは、安全かつ衛生的で快適な職場環境を確保し、世界で働く一人ひとりの健康づくりの支援に努めます。
  6. ワークライフバランス実現の支援
    味の素グループは、世界で働く一人ひとりのワークライフバランスの重要性を理解し、その実現の支援に努めます。
  7. ダイバーシティの向上や包摂的な社会づくりへの貢献
    味の素グループは、世界で働く一人ひとりが、人種・国籍・性別などを問わず成長して活躍できるよう、人財の属性や価値観の多様性を尊重し、ダイバーシティの向上に努めます。また、障がい者、外国人労働者や先住民族等、社会からの疎外や人権侵害を受けやすい脆弱な人々の人権や性的指向・性自認を尊重し、それらの人々の自立支援や救済、協議等に取り組みます。
  8. 個人情報の適正な取扱い
    味の素グループは、個人情報の保護に関する法律および関係する法令を順守し、個人情報の適正な取り扱いに努めます。
味の素グループの人権デュー・ディリジェンスプロセス
これまでの歩み
味の素グループの取り組み
2024
  • マレーシア(パーム油)における人権影響評価実施
  • タイ(養殖エビ)における人権影響評価実施
  • 取引先における「サプライヤー取引に関するグループポリシー/ガイドライン」順守状況調査に基づき、ハイリスク取引先との対話・改善支援開始
  • 主要原材料国別人権リスク評価実施
2025
  • 「移住労働者の採用関連費用に関する考え方」策定
  • グループ従業員における人権リスク評価実施
  • 取引先における「サプライヤー取引に関するグループポリシー/ガイドライン」順守状況調査 海外主要調達国への展開開始
  • ブラジル(コーヒー豆・大豆)における人権影響評価実施
  • タイ(パーム油)における人権影響評価
2026
  • インド(エビ)における人権影響評価実施
2030年に向けたロードマップ【2025年改定】

2. サプライチェーン上流における人権デュー・ディリジェンス

(1)負の影響の特定・評価(国別人権リスク評価)

味の素グループでは主要原材料の調達国や当該産業における潜在的な人権リスクを定期的に調査・抽出しています(国別人権リスク評価)。この調査は基本的には4年ごと(2018年、2022年)に実施していますが、事業環境やグローバルな人権課題の移り変わりを考慮し、2024年に追加評価を実施しました。2024年の評価では外部の人権専門家(CRT日本委員会)と協働し、外部機関の人権リスクデータをベースに味の素グループ原材料購入額および売上高等を考慮し、味の素グループの食品事業展開国における顕著な人権課題を分析すると共に、重点地域として高リスク国を特定しました。

国別人権リスク評価の進め方

その結果、重要な原料別に下表に示す顕著な人権課題が特定されました。この中でも、デスクトップ調査では遠隔地の実態把握には限界があることから、特にリスクの高い国・地域については現地を実際に訪問し関係者との直接対話から人権への負の影響を特定・評価すること(=人権影響評価)が望ましいと味の素グループは考えます。そこで下記表からさらに当該国の潜在的な人権リスクの高さ、サプライチェーンの広がり等を考慮し、人権影響評価実施の優先国として、インド(エビ)、タイ(サトウキビ、パーム油、エビ、キャッサバ)を抽出しました。今後、これらの国を対象に優先的に取り組みを進めてまいります。

2024年国別人権リスク評価結果(概要)
対象原料※1 ①コーヒー ②大豆 ③サトウキビ ④パーム油 ⑤エビ ⑥キャッサバ ⑦ビート ⑧トウモロコシ
顕著な人権課題※2 児童労働、現代奴隷、土地の権利、労働安全衛生、適正賃金
対象国
  • エチオピア
  • ホンジュラス
  • グアテマラ
  • ブラジル
  • マレーシア
  • アメリカ
  • フィリピン
  • ★タイ
  • インドネシア
  • インドネシア
  • ★タイ
  • ペルー
  • ★インド
  • ★タイ
  • ベトナム
  1. ★タイ
  2. ベトナム
  1. エジプト
  2. アメリカ
  3. フランス
  1. ブラジル
  2. マレーシア
  3. アメリカ

※1 評価対象とした原料:前回(2022年度)評価にて対象とした5原料に加え、3原料(キャッサバ、ビート、トウモロコシ)を対象に設定した
※2 評価対象とした人権課題:味の素グループの事業内容およびサプライチェーンに鑑みて、外部ステークホルダーとの協議の上で下記10項目に対する負の影響が顕著である可能性が考えられたため、これらを対象に設定した;児童労働、適正賃金、適正な労働時間、差別、結社の自由、現代奴隷、労働安全衛生、土地の権利、先住民族の権利、プライバシーの権利

(2)負の影響の予防・是正/モニタリング・実効性評価

味の素グループでは国別人権リスク評価の結果を踏まえ、以下の「深掘性」「網羅性」の二軸を中心とした取り組みを進めています。主に「深掘性」におけるライツホルダーとの直接対話を中心に取り組み、人権課題を特定した際には早期に是正処置を行い、モニタリング調査を行うといった人権デュー・ディリジェンスのマネジメント体制の構築を目指します。そして「網羅性」は、「深掘性」のマネジメント体制の構築で培ったノウハウをサプライヤーや取引先各社と共有して人権尊重の取り組みに関する知識の底上げを狙います。また、「深掘性」で拾いきれないリスクを網羅的に抽出・把握することも目的としています。これらの取り組みによりバリューチェーンにおける人権リスクを最小化することを目指しています。

1)【深掘】人権影響評価

国別人権リスク評価の結果をもとに、高リスクが抽出された国・地域への現場訪問を行い、事業に関わるステークホルダー(取引先企業従業員・地域住民等のライツホルダー、NPO 等)との直接対話を通して人権への影響・課題を把握する取り組みを進めています。

2022~25年人権影響評価 実施実績
2)【網羅】サプライヤー・取引先との取り組み(QAPS)

味の素グループでは、企業の社会的責任を果たし持続可能な社会への貢献を実現するために必要な取引先への期待事項を7項目にまとめ、「サプライヤー取引に関するグループポリシー」として定めています。また、これに基づく「サプライヤー取引に関するグループポリシーガイドライン」では取引先に実践いただきたい具体的なアクションをより具体的に、下記2種類の項目に分けて明示しています。

  • 【必須】:必ず取り組んでいただきたい項目
  • 【発展】:さらなる取り組みを推奨する項目

これらを通じて、味の素グループと取引関係にあるすべての企業・団体の活動を通じて人権に負の影響を引き起こしたり、助長することを回避し、万一そのような影響が生じた場合にはこれに対処します。また、たとえそのような影響を助長していない場合であっても、取引関係によって味の素グループの事業、製品、またはサービスと直接的につながっている人権への負の影響を防止または軽減するように努めます。主要原材料サプライヤーには定期的(年2回)に取引先説明会を実施し、適宜味の素グループの考え方や状況をお伝えし、意見交換を行っています。

「サプライヤー取引に関するグループポリシーガイドライン」順守状況調査

「網羅性」の取り組みとして、味の素グループでは2030年に向けてバリューチェーンにおける全ての取引先における人権への負の影響をモニタリングし、予防・是正につなげていくことを目指しています。この取り組みを通して「深掘性」の取り組みを補完し、そこで拾いきれないリスクを網羅的に抽出・把握することでバリューチェーンにおける人権リスクを最小化していきます。

取引先の全体像を把握するために2018年よりSedex※1への加入/運用を開始、さらに2022年にUNGPsに基づいた取引先への取り組み強化策の一環として「サプライヤー取引に関するグループポリシーガイドライン」に基づいた独自の質問票「サプライヤー取引に関するグループポリシーガイドライン」順守状況質問票(QAPS※2)を作成しました。これらを用いて、定期的に取引先におけるガバナンス・人権(強制労働、児童労働など)・労働安全衛生等のリスクを把握・抽出し、リスクの高い取引先とは対話を通じて人権課題の予防および改善に向けた支援を行います。これらのプロセスを通じて、サプライチェーンにおける人権課題の予防と是正のモニタリング・実効性評価を継続的に実施することを目指します。

※1 Sedex:Supplier Ethical Data Exchange の略。グローバル・サプライチェーンにおける労働基準、ビジネス倫理等に関するデータを提供する法人。
※2 QAPS:Questionnaire for Ajinomoto Group Shared Policy for Suppliers

「サプライヤー取引に関するグループポリシーガイドライン」順守状況質問票(QAPS)について

「サプライヤー取引に関するグループポリシーガイドライン」に基づく取引先への要求事項に基づき、具体的な実践の有無をアンケート形式で調査する評価表です。ILOなどのグローバル基準等で求められる人権デュー・ディリジェンスへの取り組みを網羅しています。回答内容に基づき、取引先への要求事項の実施状況を総合的に5段階で評価します。
取引先にはこの調査に回答することで自社の人権リスクについて把握いただき、是正・改善に向けた検討を促すことも目的としています。高リスクが抽出された取引先には味の素グループから対話を通じて人権課題の予防および改善に向けた支援を行います。

QAPS調査項目
大項目 中項目
Ⅰ. 法令社会規範の順守 汚職・賄賂などの禁止、優越的地位の濫用禁止、不適切な利益供与および受領の禁止、競争制限的行為の禁止、知的財産の尊重、情報公開、適切な輸出入管理、反社会的勢力との関係根絶、不正行為の防止と早期発見
Ⅱ. 人権の尊重 人権の尊重、強制的な労働の禁止、児童労働の禁止、差別の禁止、非人道的扱い・ハラスメントの禁止、適切な賃金の支払い、労働時間の適正管理、従業員の団結権の尊重、救済へのアクセスの確保
Ⅲ. 労働における安全衛生 職場の安全確保、施設・職場環境の管理、職場・施設の衛生
サプライヤー・取引先との取り組み 概要

〈調査結果〉

取引先における「サプライヤー取引に関するグループポリシーガイドライン」の順守状況については、味の素グループの事業環境やサプライチェーンの特性を踏まえ、段階的に確認・調査を進めています。2025年度からは、海外事業の展開状況を踏まえ、現地法人と連携のもと、海外の取引先に対する調査も開始しました。対象国については、国別人権リスク評価に基づく潜在的な人権リスクの大きさおよび原材料の購買規模を考慮し、タイおよびブラジルから着手しています。今後は、こうした取り組みを他の国・地域へも順次拡大していく予定です。また、2025年度の調査では、各国における事業および調達の実態を踏まえ、まずは一部の現地法人と連携し、その原材料サプライヤーを対象に実施しました。今後は、調査結果やリスク評価を踏まえながら、対象とする国・法人および取引先の範囲について、段階的に拡大していきます。

調査時期 調査対象 回答を得た取引先/対象取引先 回収率 総合評価分布 ※2
A B C D E
2022年 国内主要食品原料・包材サプライヤー 938社/998社 92% 53% 5% 20% 19% 3%
2023~24年 (2022年調査先を除く)国内原料・包材サプライヤー、製品に関わる業務委託先※1 1,219社/1,695社 72% 49% 7% 20% 19% 3%
2025年 (2022~24年調査先を除く)国内原料・包材サプライヤー、製品に関わる業務委託先※1、物流委託先 46社/58社 79% (分析中)
タイ原料サプライヤー 166社/166社 100% (分析中)
ブラジル原料サプライヤー 73社/104社 70% (分析中)
  1. ※1製造委託、産業廃棄物委託、設備・建築委託等
  2. ※2総合評価A~Eの判断基準は下記
    • A:味の素グループが「必須」と定める項目に対し全て十分に対応できている。
    • B:味の素グループが「必須」と定める項目に対し、一定程度対応できている。
    • C:味の素グループが「必須」と定める項目の一部に改善の余地がある。
    • D:味の素グループが「必須」と定める多くの項目に改善の余地がある。もしくは「必須」と定める項目のうち、特にリスクが高いと考える項目の一部に改善の余地がある。
    • E:味の素グループが「必須」と定める項目のうち、特にリスクが高いと考える項目の多くに改善の余地がある。

2023~24年の調査では、約5割の取引先が必須要請項目に対して十分に対応できていることが確認できました。一方で23%の取引先がリスクが高い項目について対応に改善の余地があると考えられました。

対話・改善に向けた取り組み

ご回答いただいたサプライヤー全社に、フィードバックとして結果概要と個社のリスク状況を示した「『サプライヤー取引に関するグループポリシーガイドライン』順守状況調査 概要報告」を送付しました。
さらに、「改善の余地あり」が抽出された取引先(全28社)を対象に個社ごとの対話を実施し、取り組み実態の確認と改善に向けた意見交換・情報の提供等を実施しました。この取り組みは取引先の皆様に持続可能な事業活動に資する「人権尊重」の概念をお伝えすること、さらに自社の強みや弱みをご認識いただき弱みを改善いただくことでサプライチェーンに関与する全てのステークホルダーの人権尊重の推進に共に取り組んでいただくことを目的としています。

対話実施概要
実施時期 所在地 取引内容 対話先
2024年 日本 サプライヤー(原料・包材等) 11社
2025年 日本 サプライヤー(原料・包材等) 7社
委託先(製造、工事、産廃) 10社
28社
今後に向けて

今後はこれまで対話した取引先の改善活動のフォローを継続すると共に、2025年調査にて回答いただいた取引先についてもリスク状況に応じた対話・改善支援の働きかけを展開すべく、海外法人とも連携し取り組みを推進してまいります。また2026年以降は当該調査の対象範囲を広げ海外21ヵ国への展開を予定しています。

3. グループ従業員における人権デュー・ディリジェンス

味の素グループではこれまで人権リスクの高い領域として「サプライチェーン上流」を優先して人権デュー・ディリジェンスを開始しましたが、移住労働者の増加や物流「2024年問題」など従業員の人権リスクが高まりつつあることを受け、2025年から改めて味の素グループ従業員の人権デュー・ディリジェンスに着手しました。

(1)負の影響の特定・評価

味の素グループ内における人権リスク抽出は下記の2段階で実施しました。

人権ワークショップ実施:
味の素グループの「人権尊重に関するグループポリシー」及びその中で掲げる「人権に関する重点課題」に基づき、味の素グループ事業における潜在的な人権リスクについて議論・確認するワークショップを設けました(2025年3月)。第三者機関であるCRT日本委員会の立ち合いのもと、味の素グループ本社においてリスクマネジメントやサプライチェーンマネジメント、人権・人財戦略を担当する部門の担当者が参加しました。

関連部門へのヒアリング:
ワークショップでの意見を元に関連性が高いと想定された9部門(物流、営業、マーケティング、生産管理、DX、事業部門等)に対し人権リスクの認識や既存の取り組みについてヒアリングを実施しました。その結果を受けCRT日本委員会にて潜在的な人権リスクの評価を行い、グローバル動向や社会からの要請も考慮の上、特に優先的に取り組むべき課題を抽出しました。

その結果、味の素グループ内における点検すべき人権リスクが存在する領域として下記が特定されました。これらの課題に対し取り組みを展開するとともに、更に海外法人も含めた人権リスク特定・抽出に向けた調査を展開しています。

味の素グループ内において点検すべき人権リスク
対象領域 点検すべき主な人権リスク
物流
  • 適正な労働管理と持続的な処遇: 運行管理の高度化による就労把握と、安定的な賃金・待遇維持の両立。
  • 多様な人材が活躍できる環境整備: 荷役・待機時間の削減に向けた外部連携と、労働環境におけるDE&Iの推進。
  • 実態把握と効果的な救済の仕組み: 配送網における人権課題把握と、現場の声を反映する仕組み構築。
生産・製造
  • 移住労働者の増加:言語・コミュニケーションの課題、情報格差による不利益、待遇差別やハラスメントの発生
  • 労働安全衛生・労働条件:長時間労働、不十分な賃金、安全教育・設備不足、変則シフトや夜勤による疲労の蓄積が、事故や健康被害につながるおそれ
海外(特に新興国)
  • 重層的リスク:強制労働・児童労働、低賃金・長時間労働などが実際に発生している可能性
  • 国・地域ごとのリスク:土地・先住民族の権利、水へのアクセス、結社の自由・団体交渉権など、地域社会や各国に根差したリスク
(2)負の影響の予防・是正/モニタリング・実効性評価
1)移住労働者の人権

味の素グループでは生産・製造現場で働く「移住労働者」を強制労働等に陥るリスクの高い、人権的に脆弱な立場と認識しています。日本国内で働く技能実習制度や特定技能の在留資格を持つ外国人労働者の受け入れに関し、味の素グループは一般社団法人ザ・グローバル・アライアンス・フォー・サステイナブル・サプライチェーン(ASSC)が策定した「外国人労働者の責任ある受入れに関する東京宣言2020」への賛同を表明(2020年)、さらに2021年度は、CGF社会的サステナビリティ・ワーキング・グループメンバーの一員として「外国人労働者の責任ある雇用ガイドライン」の策定に参画しました。
これに基づき、国内グループ企業で雇用している技能実習生の監理団体および特定技能外国人の登録支援団体への訪問・対話を行い、賃金の支払いや就労・生活面でのサポートが適切になされていることを確認しています。また、国内グループ企業を中心に外国人労働者の雇用現場を定期的に訪問し、労働現場や住居環境の把握・確認、さらには外国人労働者自身や受け入れに携わる現場従業員との対話を定期的に行い、人権リスクの抽出、是正に努めています。

外国人労働者に関するステークホルダーとの対話
時期 対話先 対話内容
2022年 グループ内(3社6工場)で受け入れている外国人技能実習生・特定技能外国人 就労・生活面の実態およびサポート体制等について意見交換(就労現場や住居環境を確認)
監理団体・登録支援団体(計6社) 就労・生活面でのサポート体制について意見交換
2023年 技術実習生送り出し機関(ベトナム・2社) 日本へ実習生を送り出すまでの教育・サポート体制、費用感等についてヒアリング、意見交換
国際移住機関(IOM) ベトナムにおける法規制の現況や日本への移民の状況について意見交換
グループ内(3社6工場)で受け入れている外国人技能実習生・特定技能外国人 就労・生活面の実態およびサポート体制等について意見交換(就労現場や住居環境を確認)
2024年 人権NPO、国際移住機関(IOM)等 外国人労働者の採用関連費用への対応について意見交換
2025年 人権NPO、国際移住機関(IOM)、監理団体、送り出し機関 外国人労働者の採用関連費用への対応とその実践について意見交換

外国人労働者との対話

外国人労働者との対話

採用関連費用への対応

外国人労働者の雇用現場への訪問・対話から、外国人労働者が母国で採用関連費用を負担してきている実態が明らかになりました。これを受けて味の素グループでは国際的な人権規範であるIHRB「ダッカ宣言」や、IOMやILOといった国際機関の規範に準拠し、募集・斡旋手数料を含む採用関連費用は労働者でなく雇用者が負担すべきであるという原則を明記した「移住労働者の採用関連手数料に関する考え方」を策定しました(2025年3月)。

これに基づき、外部の人権NPO※1と連携し、まずは日本国内の味の素グループ法人が雇用する外国人労働者を対象に「責任ある採用」の取組を開始しました。具体的には①既雇用者への返金の実施、②新規採用技能実習生への倫理的採用(ゼロフィー)体制の構築を実施しました。これらの取り組みは製造現場の管理者およびそこで働く外国人労働者、関連する組織(監理団体および送り出し機関等)との度重なる対話と協力を経て実施しました。引き続きこれらの倫理的採用への取り組みを継続してまいります。また、外国人労働者の雇用に関連する全てのステークホルダー(人材斡旋業者、取引先含む)に対しても同様の対応を働きかけてまいります。

  1. ※1ASSC(The Global Alliance for Sustainable Supply Chain)

既雇用者への返金に関する説明会

3)多様性(DE&I)

国内では、特に課題が大きい多様性(DE&I)について、女性、障がい者、性的指向・性自認、キャリア入社者など、属性におけるマイノリティの視点から多様な当事者支援の取り組みを展開しています。また、DE&Iが自分ごと化される組織文化醸成に取り組むことで、全ての従業員が互いの違いを受容し、多様な「知と経験×属性」を融合しチームとしての力を結集する組織開発に取り組んでいます。

4. 情報開示、教育・訓練

(1)グループ内での教育・研修

味の素グループでは役員や従業員、取引先の皆様を対象に、随時ビジネスと人権に関する研修や説明会を実施しています。

① ハラスメント対策
国内法人では各社にハラスメント相談窓口担当者と性的マイノリティ(LGBT)相談窓口担当者を置き、相談しやすい環境を整えています。担当者には年に1回、外部講師による研修(座学+ロールプレイング)を実施することで担当者の知識のアップデートを行っています。ロールプレイングでは各社で起こりそうな事例を取り上げ、その対応について学びます。

②「ビジネスにおける人権」eラーニング動画の展開
国内および海外のグループ法人従業員を対象に、バリューチェーン全体の人権課題に関する情報提供に向けたeラーニング動画(日本語/英語)の配信を実施しています。これは味の素グループの「人権に関するグループポリシー」を軸に構成され、味の素グループが重視する人権課題の周知と従業員一人ひとりにおける「自分ごと」化を目指しています。動画は多様なバックグラウンドを持つ視聴者に配慮して字幕やナレーションを付けており、一部の海外法人においては母国語での展開も実施しています。海外を含めた全てのグループ法人において約30,400人が視聴し人権への理解を深めました。

2024年グループ従業員への配信動画(抜粋)

③調達部門へのeラーニング動画展開
サプライチェーン上流における人権リスクへの対応を実効性のあるものとするには、調達に携わる担当者一人ひとりの理解と意識の向上が不可欠です。このため、味の素グループでは、調達担当者を対象としたeラーニング動画の作成および配信を進めています。本動画では、味の素グループが目指す「持続可能な調達」の考え方を軸に、環境および社会への配慮の重要性を解説すると共に、サプライチェーンに関わる人々が人権侵害のない環境で働くことができるよう取り組むことが、企業としての責任であることを説明しています。

2025年調達部門への配信動画(抜粋)
(2)各国の人権尊重に関する法規制への対応

味の素グループはグローバルに事業を展開していくうえで、各国で定められている人権に関する法令を遵守しています。

味の素グループでは米国カリフォルニア州で施行されたカリフォルニア州サプライチェーン透明法[California Transparency in Supply Chains Act of 2010(CTSCA)]について、関連する現地法人より下記の声明を開示しています。

5. ステークホルダーとの対話

味の素グループでは、人権尊重の取り組みを広げ、意見をいただくため、定期的に人権専門家やステークホルダーとの対話、外部に向けた取り組み事例の共有・紹介を実施しています。

Ⅲ. 救済

1. 基本的な考え方

味の素グループでは人権の負の影響から生じた被害に対し迅速かつ適切に対処するため、グループ内外に複数の相談・通報窓口を設置しています。これらの相談・通報窓口は「内部通報に関するグループポリシー」に則って運用され、通報者のプライバシー厳守・保護を徹底しながら関係部門が連携し適切な対処・解決を行っています。

各種ホットライン窓口
通報を受けた対応の流れ
2. 内部通報窓口

海外も含めた味の素グループの全ての従業員(正社員、パート社員、派遣社員等)は「味の素グループホットライン」に相談・通報が可能です。この窓口はグローバルに対応しており、海外に拠点を置くグループ各社の従業員が母国語で相談できるように、英語・タイ語・ベトナム語など計22言語に対応しています。「味の素グループホットライン」以外にもグループ各社が運営する各社ホットラインや「ハラスメント、性的マイノリティ(LGBT)、障がい者相談窓口」も設置しており、相談内容や状況に応じた通報先の選択が可能です。また、相談や通報は本人以外の同僚や家族の方からも可能であり、問題の芽が小さいうちに、早めの相談を推奨しています。通報者は実名/匿名を選択することができます。

ホットラインへの通報件数
2019年度 2020年度 2021年度 2022年度 2023年度
日本 海外 合計 日本 海外 合計 日本 海外 合計
人権・ハラスメント 45 50 36 5 41 38 19 57 52 41 93
雇用・就労 19 36 26 34 60 14 66 80 21 301 322
品質・環境・安全 1 3 7 2 9 6 14 20 9 22 31
不正 4 3 9 4 13 2 6 8 5 5 10
マナー・モラル 10 29 22 97 119 8 54 62 20 158 178
適正な業務遂行 8 45 19 2 21 16 5 21 30 12 42
その他 6 4 8 107 115 9 213 222 15 701 716
合計 93 170 127 251 378 93 377 470 152 1,240 1,392
※グローバルでの集計は2021年度より実施
3. 取引先通報窓口

味の素グループでは、2018年度から取引先からの通報窓口として「サプライヤーホットライン」を設置し、一次サプライヤーのみならずサプライチェーン上の全ての取引先からの通報・相談を受け付けています。また「お客様相談センター」ではお客様や地域住民など、バリューチェーン上の全ての関係者からの通報・相談を受け付けています。

4.外国人労働者向け窓口

味の素グループでは、日本における技能実習や特定技能の在留資格を持つ外国人労働者の問題解決を図るため、独立行政法人国際協力機構(JICA)を中心に、企業、弁護士、NGO等の多様なステークホルダーで作る「責任ある外国人労働者受入れプラットフォーム」(JP-MIRAI) に2020年の設立から関与し、アドバイザリー企業として参画しています。2022年度は、JP-MIRAIが開始した「外国人労働者相談・救済パイロット事業」に参画し、味の素グループの国内法人で雇用する外国人労働者に対し適切な情報提供と相談窓口を提供しています。また、外国人労働者を雇用するサプライヤー・取引先へも同サービスの導入を推奨し、サプライチェーンにおける労働・人権問題等を早期に発見する手段の一つとして活用していく考えです。

「責任ある外国人労働者受入れプラットフォーム」(JP-MIRAI)とは

日本国内の外国人労働者の課題解決を目指し、外国人労働者の皆さんへ日本で暮らすうえで役立つ正しい情報の提供と、母国語で相談できる相談救済窓口(JP-MIRAIアシスト)を展開します。

JP-MIRAIアシストとは

日本に住む外国人労働者のための相談窓口です。ご本人やその家族の就労・生活等全般の困りごとについて電話・チャット・メールにて相談ができます。2025年2月時点で22言語に対応しており、今後さらに対応言語を追加予定です。相談内容に応じて行政機関や専門家への相談伴走も行っており、適切なサポートを提供します。

※ 詳しくはJP-MIRAIポータル参照