登山には必要なのは年齢ではなく自然に順応した身体

直木賞作家の唯川恵さんは、2003年に軽井沢に移住してから、山登りをスタート。女性初のエベレスト登頂者、田部井淳子さんの本を執筆するため、60歳でエベレスト街道トレッキングに挑戦しました。たくさんの学びを得て、「同じ一言を書くにも全然違う」と改めて感じた唯川さん。普段は必然的にデスクワークが増えるため、体調管理にも気を配っています。
「一日家から出ないこともあるので、気持ちの面でも体を動かして汗をかくのが、一番いい気分転換ですね。腰痛持ちなので、椅子を変えたりもしましたが、私の場合は全身を動かしたり歩いたりすると、腰痛も楽になる感覚があります」。
そんな生活の中で、自分の体との向き合い方も、年齢を重ねるにつれて少しずつ変わってきました。
「60歳でエベレスト街道トレッキングしたとき、そろそろ意識してアミノ酸なども摂らなければダメだと感じました。同行者からも『登山の技術がない分は体力でカバーしないと』と言われて、その頃からコンディショニングに気を遣うようになりましたね。今は山に登るときは必ずアミノ酸を摂るようにしているし、朝は炭水化物、遠出するときは2~3日前からたんぱく質を摂って…というように、自分のカラダのことをケアするようになりました」。
持久力が不可欠となる登山。アミノ酸の活用は、登山中にも重要と唯川さんは言います。
「不思議なのが、いきなり体力がみなぎるというわけではないけれど、山にカラダが慣れていくというか…。登山にアミノ酸は重要で、お守りのようにいつも持っています。自分に合っている感覚がありますし、今ではアミノバイタルを忘れていくこと自体が不安です」。 若いから登れるわけではなく、年齢に関係なくしっかり準備して自然に順応した人が、粘り強く最後まで登り切れる。それが、生涯スポーツとしての登山の魅力でもあります。
「山って若い子でも大変。自分のカラダがきちんと山に対応しているか、それが大事なんだなと思う。体が山に慣れていくことや、摂ったものをうまく自分の中で山用にチェンジさせていくことが重要。ある意味、公平。どれだけ年を取っても、山は本当にみんな楽しめると思います」。

歩き続けること、を続けていたい

大きな挑戦を終えて、これからもさらに前進する唯川さん。仕事面では、書いている連載小説を書き終えたいというのがひとつ。そして、山登りでもひとつの目標があります。
「この状況下で、去年から山小屋になかなか泊まれなくなって…もう高齢者に入ったので、行くこと自体迷惑になるという気持ちもあるから、ワクチンを打って、来年あたりから登山も再開できればと思っています。ここのところトレーニングを少しサボっているので、できたら来年・再来年あたりに剱岳(標高:2,999m)に登ってみたいですね」。
山への憧れは、年を重ねても尽きることはありません。
「“ここまで来ることができた”というシンプルな達成感を味わいたいのでしょうね。そこに立ったら何が見えるのか、自分は何を感じるのか。それはたぶん、子ども時代に学校登山とかハイキングで感じた、『わぁ』っていう気持ちと変わらない。逆にこの年齢でもできるという、生きる上での自信にもなる。“やればできる”、そういう気持ちを持ち続けていたいと思います」。
最後に、山登り以外に挑戦したいことはあるか、唯川さんにお聞きしました。
「ないって一言でいったらおしまいですけど、仕事とは『全身全霊これだけはまじめにきちんとやらないと』という気持ちで向き合ってきました。だから、楽しみはあと一つだけあればいい。友人と会ったり、お喋りしたりも好きですが、私には「書くこと」「山に登ること」の二つがあれば十分。友達がフルートを始めて、楽器ができればいいなと思ったりもしますが、結局は山があればそれでいい。“歩くことを続けたい”、そう思います」。
「歩いている時間は貴重な時間。色々なことを考えて、あの展開はこう変えようか、他のアイデアが浮かんだり、どうしてあんなに腹が立ったんだろうと一から考えたり。歩いていると、頭の中にあるものが、少しずつ整理されていくような感じがします。そういう意味では健康のためばかりじゃなく、リラックスのためにもいいと思いますね」。
歩みを止めず、一歩ずつ自分の人生を進み続ける唯川さん。その目にはまた、新しい景色が広がっているはずです。