「怪我人ゼロでの勝利」を目指す

2016年から4年連続日本一に輝いた、アメリカンフットボールの強豪チーム、富士通フロンティアーズ。数多くのトレーナーを束ねる井澤ヘッドトレーナーが、チームに戻ってきたのは2018年。その後のシーズンを、井澤さんはこう振り返ります。「トレーナーにとって一番は、怪我人ゼロで勝つこと。怪我をした選手が復帰すると安心します。毎年、日本一になっても、達成感というより、安心感の方が大きいです」。
コンタクトスポーツであるアメフトに怪我はつきもの。トレーナーの業務は怪我を事前に防ぐためのコンティション管理から復帰のサポートまで、多岐にわたります。一部、選手の栄養管理も補助する井澤さん。それぞれの選手に合わせて、試合時やトレーニング前後にアミノバイタルやサプリメントを飲むよう勧めることもあります。
それだけ、たくさんの業務に関わる井澤さん。ですが、どれだけ忙しくても苦ではない、「趣味の延長みたいな感覚です。大学を卒業してから25年ほど経ちますが、ずっとグラウンドに行きたい」と本人は話します。ただ、今年はコロナウイルスの影響で業務がうまく進められず、今でもその影響を感じています。
「今年は例年と全く違う怪我が多発しているので、苦労しています。ウェイトルームが使えない期間があり、自粛が明けて負荷が上がったことで怪我がいっきに出ました」。テレワークの影響で腰のヘルニアになる選手が出たり、例年とは異なる状況が続いたシーズン。怪我人ゼロで勝つため日々の努力は続きますが、その原動力はチームと同じく、勝利への渇望です。
「2020年シーズンは残念ながら5連覇を達成できませんでしたが、これからもその目標は続いていきます」。井澤さんも同じく、チームとしての目標が、井澤さん自身の目標でもあるのです。

トレーナーとして、教育者として、叶えたい未来

富士通フロンティアーズのヘッドトレーナーだけでなく、3つの専門学校で非常勤講師として働く井澤さん。講師を務める学校には、パーソナルトレーナーや運動指導など、トレーナーを目指す学生が一学年700名ほど在籍しています。昔と比べて多くの人がトレーナーを目指すようになった現状に喜ぶ一方、残念に思う部分もあるそうです。
「多くの人がこの職業を目指してくれるのは嬉しいですが、就職はかなり厳しく、1%か2%しか現場には残らないんですよ。仕事が余っているところもあるのに、学生から見ると仕事がない印象があって、条件がかみ合わないことも多いです」
井澤さんのもとには、ラグビーやアメフト、バレーボールなど様々なチームからトレーナー募集の声がかかりますが、なかなか条件にあった人材を紹介できない。そんなジレンマが、井澤さんにはあります。
未来に向けて、「なんとか、この状況を改善したい」と語る井澤さん。そのためにも、チームや企業が求める資格を取得できるカリキュラム作りや、テクノロジーを活かしたマッチングアプリが活用できないかなど、様々な可能性を考えています。そして、その仕組みづくりこそが今後の夢だと言います。
「トレーナーを目指す人の間口を広げるために会社を作りたいと思っています。治療ができる人、トレーニングができる人、リハビリができる人、それぞれのスペシャリストたちと会社ができれば嬉しい。そうすることで、より選手を手厚くサポートできる環境を整えたいと思っています」。
日本一のアメリカンフットボールチームを陰で支える井澤さん。そんな井澤さんが、トレーナーを目指す、より多くの若者を支える日が来るかもしれません。