スポーツの舞台裏に迫る『挑戦のそばに』

今回は、アメリカンフットボールチーム 富士通フロンティアーズ 井澤秀野ヘッドトレーナーを特集します。コンタクトスポーツの代表格であるアメフト。60名以上の選手が所属するチームでは、大きな怪我からコンディショニングの相談まで、様々なことが起こります。コーチ陣とのやりとりも欠かせないヘッドトレーナーを務めるうえで、井澤さんが大切にしている理念をお聞きしました。

密なコミュニケーションで適材適所を見極める

2016年から4年連続日本一に輝くなど、強豪アメリカンフットボールチームとして知られる富士通フロンティアーズ。100kgを超える屈強な選手たちが、全力でぶつかり合うアメフトにおいて、トレーナーの存在は欠かせません。体が資本である選手一人ひとりの怪我やリハビリ、コンディショニング管理をするのが彼らの役割です。
富士通フロンティアーズに関わるトレーナーは、リハビリを専門に扱う理学療法士の方や鍼灸師などが在籍し、専門学校の生徒が実習のために訪れることもあり、数多くのスタッフが60名以上の選手をケアしています。それらのトレーナーを束ねるのが、ヘッドトレーナーの井澤秀野さん。トレーナーとして怪我にも対応しますが、ヘッドコーチをはじめとするコーチ陣とのやり取りや、医療機関との打ち合わせや報告書作成など、実際にはチーム内外でのマネジメントが業務の多くを占めると言います。
マッサージや怪我をした際の応急処置、選手ごとのリハビリメニュー作成などもトレーナーとして重要な仕事。ですが、それらの業務を効率よくまわすため、どの選手にどのトレーナーをつけるかなど、全体を管理することも同じぐらい重要です。井澤さんが人を配置するうえで心掛けているのは、それぞれ専門家を適材適所に置くことだそうです。
「トレーナーは人対人の仕事なので、合う・合わないはあります。性格も立場もそれぞれなので、なるべくその選手に合うトレーナーを配置するようにしています。それらは、日常的にコミュニケーションをとる中で見極めています」
適切なマネジメントのためにコミュニケーションは仕事の一部。対面での会話やLINEでのやりとりも密に行います。選手とトレーナー、それぞれの性格や癖などを把握した上で、人材を配置する。そうすることでチーム全体のパフォーマンスを上げていく。それが、選手たちと深く向き合う井澤さんなりの、常勝チームのサポート方法です。

選手の命を第一に考える、その重み

井澤さんがトレーナーの道を歩みだしたのは、大学生の時のこと。日本体育大学で全ての部活を対象とするトレーナーの部に入り、勉強を始めたのがきっかけです。そのうち、大学以外の場所で、より学びたいという思いが湧いてきました。
「色々なチームに電話をして、最初にいい返事をくださったのが富士通フロンティアーズでした。それが1997年で、大学を卒業してもトレーナーとして8年間関わり続けさせていただきました」。
その後一度富士通フロンティアーズを離れるものの、2018年から再びヘッドトレーナーとしてチームに復帰。離れている間にラグビーなど他競技のトレーナーも経験し、より広い視野でチームを見られるようになりました。その井澤さんが、現在アメフトのトレーナーを務めるうえで気を付けていることは何なのでしょうか。
「一番大事なのは、選手の命。アメリカンフットボールはコンタクトスポーツなので、脳震盪から足の先まであらゆる怪我が出ます。全ての怪我に冷静に対応できるよう、常に最悪の状況を想定して準備をしています」
かつて、試合中に選手が内臓を損傷する大怪我に遭遇し、緊急手術を経て一命をとりとめた記憶を持つ井澤さん。その豊富な経験があるからこそ、“命以上に大切なものはない”との言葉にも重みがあります。
そのためにも、日々知識のアップデートは欠かしません。一度壊れると二度と治ることがないと言われる脳の仕組み、心肺蘇生法や心臓マッサージなど、“選手を守るために必要な勉強”を常に行っています。そのプロとしてのサポートが、選手たちの大きな支えとなっていました。