強いボールを遠くへ飛ばすために必要なカラダ

アメリカンフットボールの花形、クオーターバック(QB)。日本代表でもそのポジションを務める富士通フロンティアーズの高木翼選手は、飽くなき日々の努力により、2019年シーズンの日本選手権でMVPを受賞。日本一の立役者となりました。クオーターバックは攻撃の全プレーに絡むオフェンスの中心。アメフトの醍醐味とも言うべきパスプレー、状況判断してランで攻めるかなど、全体をどうマネジメントするかが重要です。
「プレーで心がけているのは、とにかく目の前のワンプレーに集中すること。サッカーなどは基本的にプレーが続きますが、アメフトはワンプレーずつ、タックルされた時点で切れます。その積み重ねが最も大事なので、毎回ボールに触れるクオーターバックだからこそ、先を見るのではなく目の前にプレーを成功させることが重要です」と、その心掛けを語ります。
クオーターバックはパス主体であるため、一見肩だけ強ければ良いと思う人もいるかもしれません。しかし、強いボールを遠くへ飛ばすためには、当然下半身強化も必要。さらに、相手のタックルの標的にもなるため、強いカラダは欠かせません。
「オフシーズン中は強化系のトレーニングもしますが、シーズン中は肩を痛めないように気を遣いながら、バランス良く鍛えています。相手ディフェンスからのマークも強いので、怪我しないこともすごく大切です」。
プロテインなども「シェイカーに入れて持って行くと、どこで洗うんだとなりますから、摂りやすいスティックタイプのものを車などにも置いています」とカラダへの気配りは欠かしません。ただ、昔からずっと意識を持っていたわけではないと言います。
「私も恥ずかしい話、以前はあまりカラダのことを気にしていませんでしたが、社会人になってやれることは全部やりたいと思った時、栄養補給も考えるようになりました。以前、チームでアミノ酸を摂取するレクチャーを受けて、食事の取り方やアスリートとしての食事バランスなど教えていただいたことが、すごくためになりました」
勉強熱心な彼にとっては、知識を積み上げることも重要だったようです。

スタートラインに立ち、選手として企業人としてスポーツの価値をあげていく

コロナウイルスの蔓延により、活動自粛・リーグ戦縮小と前例のない中でスタートを切った今シーズン。再開後、順当に勝利を重ねる中で、少しずつ課題も見えてきました。 「私たちオフェンスの武器は、速いテンポで展開することですが、それを崩すミスや反則も多いので、改善は必要です。全体的にオフェンスの層は厚くなりました。怪我人もいてベストメンバーが組めない状況ですが、控え含めてオフェンスラインの選手が頑張ってくれている。それが大崩しない要因だと思います」
高木選手個人としては、昨シーズンのレギュラーから一転。再びアメリカ人クオーターバックとのポジション争いをしなければならなくなりました。
「今年は限られた時間でのパフォーマンスになるので、もっとチャンスを掴みたいし、その中でしっかり結果を残したいです。今はまだ全然満足していません。去年はレギュラーの怪我でチャンスが巡ってきましたが、あれが自分にとってのスタートライン。これからが本当に勝負だと思っています。努力を日々積み重ね、今までの4年間と同じ、むしろそれ以上の積み重ねを自分がやり切れるかどうか。日々アメフトに向き合い、良い準備をするしかないと思っています」
過去にどのチームも成し遂げたことのない5連覇を目指すシーズン。その最大の目標達成のため、チームは『All For One』のスローガンを掲げ、ワンプレーの価値にこだわって頂点を目指します。それが、競技自体の価値につながると、高木選手は信じていました。
「アメフトは日本だとマイナースポーツなので、その価値を上げていくのはすごく重要。収益化含めて、注目されるスポーツになって欲しいと思います。また、私たちは富士通社員という企業人。会社が認めてくださって日々練習できているので、勝って会社の方々に勇気と元気を与える、ファンを増やす活動も義務だと思っています。仕事をきっちりしたうえで、スポーツ活動を継続し、選手としての価値を生み出していきたいと思います」
より困難なチャレンジを選び、自らの努力でチャンスを掴んだ高木選手。その挑戦はこれからも続いていきます。ただひとつ、地道な積み重ねこそ、大きな成功につながると信じながら。