慢心せず、万全の態勢で山に挑む

大学卒業後、長野県の夏山常駐パトロール隊に入ることになった加島博文さん。それまで趣味だった山登りが、職業となった時、自分の中でも気づいた変化がありました。それは、今までと異なり、“プロとしての登山”が求められること。山での救助活動は命がけ、その分、登山客よりも高いレベルの登山技術が必要です。「一般のコースタイムが3時間なら、私たちは1時間ほどで山を走らなければなりません」。それがどれだけ過酷か、言葉のように簡単でないことは誰もが想像できるでしょう。
大学卒業後、長野県の夏山常駐パトロール隊に入ることになった加島博文さん。それまで趣味だった山登りが、職業となった時、自分の中でも気づいた変化がありました。それは、今までと異なり、“プロとしての登山”が求められること。山での救助活動は命がけ、その分、登山客よりも高いレベルの登山技術が必要です。「一般のコースタイムが3時間なら、私たちは1時間ほどで山を走らなければなりません」。それがどれだけ過酷か、言葉のように簡単でないことは誰もが想像できるでしょう。
さらに痛感したのが、体力の重要性。いつでも出動できるように、かつては1日6回食事を摂っていたこともあるそうで、その大変さが伺えます。今は、昔に比べると、栄養も摂りやすくなりました。加島さんの場合、食事をしっかり摂った上で、朝や現場に出る直前などで「アミノバイタル」を補給。自分で摂るのはもちろん、常に30本ほどスティックタイプのものを持ち運び、登山客にも配っています。「安心安全に登山を楽しむためのコンディショニングをサポートする上で欠かせないものですね。登山前、登山中、登山後と、何本も飲んでいます。携帯性もよいので、渡した人から『こんなに良いもの、貰っていいんですか?』と言われることもあり、コミュニケーションツールとしても役立っています(笑)」。
山岳パトロールを始めてから24年。そんなプロでも、コンディショニングの重要性を重視し、夏のシーズン前には低い山で体を慣らすそうです。「今でも2、3回低い山に入ってからシーズンに入るんです。そうでなければ体がついていきません」。
ベテランの加島さんでもそうなのですから、一般登山客も自分のレベルにあった山選び、難しいコースに挑む人は入念な準備・コンディショニングが不可欠です。登山を楽しんでもらうためにも、加島さんは啓蒙を忘れません。
「最近はSNSで見たコースを真似して、いきなり厳しいところに行って遭難する方が大変多くなっています。いきなり難しい道を行くのではなく、例えば岩登りがあるなら別の場所で練習するなど、自分の動きを見なおしてからレベルに合った山に登るようにしてほしいですね」。

どんな状況でもチームワークを保つ。その関係を未来永劫続けるために

山では、安全のため、事故に対応するために、常にチーム行動が基本です。そのメンバーは30年続けている隊長から、キャリア10年程の隊員など様々。「今、常駐パトロール隊に来てくれている隊員の中には、日本で指折りのガイドもいます。得られる達成感が大きいからか、レベルの高い人たちが集まっているんです」。
年代・職業の異なるメンバーが集まり、一つのチームとして活動する常駐パトロール隊。その仲間こそが、山岳パトロールのやりがいであると加島さんは語ります。
「常駐パトロール隊は、仲間がいなければ絶対に続けられません。パトロールは2人でペアを作っていますし、遭難現場があれば最低でも2人、民間2人と警察3人など、常にチームで動きます。大変な状況下で、いかにチームワークを保つかが重要だと思っています」
山岳パトロールにやりがいを感じているからこそ、「自分の代で終わらせたくない」と強く感じている加島さん。「私の場合、夏以外の期間は山小屋と一緒になって登山道の補修をしていますが、できれば山岳パトロールを永続的にやっていける仕組みを作りたい」と、夢を語ります。
「国内で山岳パトロールを職業としている人はいません。ボランティアは一時だけのものになりますし、暮らしていけません。今の若い人たちにパトロール隊に入ってもらうためには、やりがいだけでなく、見合う対価がないと続かない。この状況を変えられたら、もっと山を身近に楽しんでくれる人が増えると思うので、それが今後の目標ですね」
未来の世代にも安全に登山を楽しんでもらうために、加島さんの挑戦は続きます。