時速150kmで飛ぶパックをセーブするGKに必要なもの

日本で最初のプロアイスホッケークラブである『H.C.栃木日光アイスバックス』。そのゴールを守るのが、日本代表GK福藤豊選手。日本人初のNHLプレーヤーとして活躍した彼も、37歳。ベテランの域に入りました。アイスバックス在籍9年目を迎えた福藤選手にとって、トレーニング・コンディショニングは大きなテーマのひとつです。
肉眼でもなかなか捉えるのが難しい、アイスホッケーのパック。シュートは時速140~150km、体感で160~170kmと言われます。GK福藤選手は、そのどこから飛んでくるかわからないパックを、敵味方いる中、プロテクターを付けた狭い視界で見分けてセーブするのが仕事。反射神経はもちろん、その判断に応じて動かせる身体を作らなければなりません。
「GKに必要なトレーニングですか…。何かひとつズバ抜けていればいいわけではなく、スケート靴のエッジで立っているのでバランスも必要だし、瞬発力に持久力も必要。全部なんですよね。だから、部分的なトレーニングは夏場に行いますが、シーズンに入るとバランスや体幹を重視して鍛えるようにしています」。
栄養面は細かい管理をするというより、食べる時間やタイミング、量を優先。「食事はタンパク質と炭水化物が基本ですね。例えば14時の試合だったらお昼が食べられないので、朝起きて玄米と卵を3つ食べます。朝と夜だけになるので、自分の身長・体重にあわせてメニューは組み合わせます。特にここ何年かは、休養の重要性にも気付きました。シーズン中は筋肉を維持しつつ、試合の疲れをとることを優先しています。以前は休むのが不安な時もありましたが、今は余裕もできて、自分の体の変化に向き合いながら調整できています」。
スポーツサプリメントは使う時期と使わない時期を意図的に作り、飲んでいない時の筋肉の張りや細かい肉離れを確認しているという理論派。アミノバイタルは飲んでいる時の方が感覚として良かったため、ずっと利用しているといいます。この探求心が、福藤選手をトップ選手として支えてきた一因であるのは間違いありません。

環境の変化を求める前に、自分自身がやるべきこと

世界を肌で感じ、日本のアイスホッケー界をリードしてきた福藤選手。今の日本アイスホッケー界に関して、こう提言します。「個人的には日本代表がもっと強くなってほしい、強くなければならないと思っています。アイスホッケーの周りにはネガティブな話題も多く、僕自身もアイスホッケー界に変わって欲しいなとずっと思ってきましたが、なかなか良い方向にいかない。でも、その中で考えると、選手が本気で変化を求めているのか、できる限りのことをやったのかにも疑問を感じます。試合を見に来てくれないと嘆くのなら、自分で最大限の努力をしたのか。今はそこを、自分でも考えています」
変化を望む前に、選手自身がやれることをやったのか。本気で変わる気があるのか。福藤選手も、自身の過去を振り返ります。
「今はSNSもありますが、僕自身も海外にいる時、それは避けていた部分でした。自分で発信する必要性をあまり感じておらず、プレーだけしていればいいと思っていた自分がいました。今は、少ないですが海外で戦っている選手もいて、そういう選手たちを見ると自分の言葉でしっかり発信している。その意味ではすごく尊敬しています。そういった選手が増えれば、何かが少しずつ変わっていくと思っています。僕自身も遅くなりましたが、自分でも、いろいろ取り組んでいるところです」
今後に関して、ここ何年かはGKコーチになる未来も想像するようになった福藤選手。「自分が得てきた経験や技術、そしてこれからも学ぶ知識を、下の世代に伝えていきたい」、そんな存在を目指したいと本人は語ります。
「人生の夢は?」と聞くと、福藤選手はまっすぐ答えました。「アイスホッケー界を変えたいですね。コーチだけに限らず、協会などに入って自分が力になれたらと今はすごく思います」。その偉大なるチャレンジは、決して平坦な道のりではないでしょう。それでもなお、彼の言葉からは、それを信じさせてくれる情熱が伝わってきました。