スポーツの舞台裏に迫る『挑戦のそばに』

今回取り上げるのは、トレーナーの渡辺研太さん。2018年国内男子賞金王であるプロゴルファー今平周吾選手のトレーニング指導やマッサージなど、連戦に耐え抜く体を作るためのコンディショニングを担当しています。「人に喜んでもらえて、自分も嬉しい。こんなに素晴らしい仕事は他にはない」と語る渡辺さんに、トレーナーの仕事や魅力をお聞きしました。

「スポーツ選手を支えたい」自身の経験から、サポートの道へ

2018年にブリヂストンオープンで優勝し、日本人として史上3番目の若さで賞金王に輝いたプロゴルファーの今平周吾選手。その活躍を支えているのが、スポーツトレーナーの渡辺研太さん。プロゴルファー秋吉翔太選手も担当している、ゴルフ界を中心に活動するトレーナーです。
スポーツトレーナーは、選手が常に最高のパフォーマンスを発揮するため欠かせない存在。基礎トレーニング指導やリハビリのサポートが主な役割ですが、「私たちの一番の仕事は、怪我の防止です。年間戦っていく中で体に不安がないように、マッサージやトレーニングを行い、コンディショニング調整をしています」と渡辺トレーナーは語ります。
「ゴルフは練習でも試合でも、常に100%の力を放出する再現性の高さを求められます。選手自身はフルパワーのつもりでも、体が8割のパワーしか出せなければ、その時点で結果は変わってくる。だから、私たちの仕事は、“常にフルパワーを出せる体の状態”にさせておくこと。オフならば、10を11にできるようなトレーニングを考案することが私たちの仕事です」
渡辺トレーナーの情熱の陰には、「選手を支えたい」というぶれない軸があります。今でこそ裏方として選手を支えていますが、渡辺さんもかつてはスポーツマンでした。青春を捧げた競技は、ゴルフではなく陸上。その経験は、渡辺さんがトレーナーを目指すきっかけになっています。
「陸上をやっていた頃はよく怪我をしていて、中学生の頃から、治療院の先生のお世話になることも多かったのです。それで競技をしながら、治療院で聞いたことを参考に同級生のストレッチを見たりしていました。今思えば、その頃から選手兼トレーナーのようなものでしたね。そういった経験から、将来はスポーツ選手を支えたいと強く思うようになりました」
自身が選手として取り組みながら、そのうえで他選手もサポートするのは、簡単なことではありません。それも、選手を陰で支えたいという強い想いがあったからこそ。高校卒業後はトレーナーになる夢を叶えようと、鍼灸を学ぶため専門学校に進学。縁があって、3年前にゴルフの世界に飛び込みました。

成果が分かりやすい「最高」の仕事

ゴルフプレーヤーのトレーニングを始めて気付いたのは、怪我の特異性だったと渡辺トレーナーは言います。アメリカンフットボールのような、身体的接触が多い競技は捻挫などの外傷が中心。しかし、ゴルフは腰痛に悩んでいる人が多かったのです。
渡辺トレーナーが今平選手に出会ったのも、ゴルフ特有の腰痛がきっかけでした。今平選手は以前から腰痛に悩まされており、2016年には腰痛が原因で大会を棄権。そんな中、2017年10月に今平選手のキャディさんから紹介を受けたことで、二人三脚で試合へ挑むようになりました。その後もコンディションに合わせたサポートを続けたところ、嬉しい変化があったと言います。
「昨年も今平選手が腰痛に悩んでいたため、今年はオフの時期に腰痛を抑えるトレーニングに取り組みました。その結果、現在は腰痛がない状態になっていると聞きました。そういった生の声を聞くとやりがいを感じます」
選手のコンディションを、ひいてはその成績を支える。それには重い責任が伴います。しかし、そのプレッシャーを受け止め、渡辺さんはトレーナーの仕事を心から楽しんでいます。
「人に喜んでもらえて、自分も嬉しく、報酬までいただける。こんなに素晴らしい仕事は、他にはありません。最終的には選手の痛みが取れるか取れないかなので、成果が分かりやすい仕事でもあります。体一つでできる仕事な分、日々の経験から学びを得ることは重要で、成果が出なければ自分の不甲斐なさを感じ、より精進しようと思えます。そういった、分かりやすいところに自分自身もやりがいを感じています。個人的には、プロ選手にはなくてはならない仕事だと思いますね」
トレーナーの仕事は「最高」と断言する渡辺さん。その献身的なサポートの裏側には、胸に抱く仕事への誇りがありました。