監督、ドライバー、運営、育成。モータースポーツを軸にマルチな活躍

実は片岡龍也監督、チームルマンのスーパーフォーミュラでは監督。スーパーGTではドライバー、スーパー耐久だとチーム運用。さらにトヨタレーシングスクールではドライバー育成の責任者と、モータースポーツを軸にマルチな活躍をしている方なのです。2003年~2007年までは同じくチームルマンで、フォーミュラ・ニッポン(スーパーフォーミュラの前身)のドライバーも務めていただけに、それぞれの苦労をよく理解しています。
「今は昔ほど体調管理も厳しくしていませんが、トップカテゴリーのドライバーは練習できないので、身体づくりが重要になります。マシンを操作するために下半身は絶対に強化が必要ですし、汗をなるべくかかない身体にしておかないと脱水症状になるので、それを踏まえた身体作りをしておきたい。私が15年位前にドライバーだった時、ちょうど“アミノ酸”というキーワードが流行りだしたので、藁にもすがる思いでアミノバイタルを摂取していました。当時はお守り代わりみたいな気持ちもありましたね」と、昔を振り返ります。
モータースポーツ業界の幅広いカテゴリーにおいて、必要とされる片岡監督。長く第一線で求められる人材となるために、どんな心構えが必要かも聞きました。「原始的ですが、自分の目標やどうなりたいか気持ちが明確でないと、トップカテゴリーに居続けるのは難しいと思います。才能で数年程度は維持できますが、新しく若いタレントが次々出てくる中で、それに負けず生き残っていくにはモチベーションがなければ絶対無理ですね。日本一でも世界一でも何でもいいですが、常に高みを見ていないと良いドライバーで居続けるのは難しいと思います。それが様々な選手を見てきた私の考えるところです」
そんな視点を持つ片岡監督にとっての今の目標、そして人生の挑戦とは何なのでしょうか。「私も子どもの頃にトヨタの育成ドライバーから始まり、同じ競技に長く携わり過ぎて、一度モチベーションの下がった時期がありました。その時にもう一回持ち直せるかどうかだと思うんです。私の場合はその中でも、続けさせてもらえる環境があった。色々な人の支えにより積み上げられた何十年のキャリア、金額換算にすればとんでもない額になるこの経験を、誰にも伝えず辞めるのは無責任だと思えた。それで若手指導から始めると次第に道が開けて、今は“この経験を多くの人に伝える”を目標に活動しています。まだ現役としても活動しているので100%指導者ではありませんが、将来的には引退した時に指導者としてこの業界で何かを後輩に残せるような人間になりたいと思っています」

“地上を走る国内で最も速い乗り物”その溢れるほどの魅力

自分の生きる道を見つけ、今はスーパーフォーミュラの監督として全力を尽くす片岡監督。今シーズンのチームルマンには、多くの希望を抱いています。「今シーズンはチーム体制も変わり、去年のチャンピオンチームから阿部というエンジニアが入りました。期待も大きいですし、実際にここまでのレースを通して手応えを感じています。特に第二戦のオートポリスが良かったのですが、そのまま右肩上がりという簡単な世界ではありません。でも、何か起きても原因の追及解明が非常に貪欲で、チームワークも良くなると感じています」
当面の目標としては、とにかく1勝挙げることが先決。「シリーズを通しての戦いもありますが、まず1勝あげることが我々としては何より大事。少しずつそれに近づいていると思いますし、大嶋ドライバーも3年目で整ってきているので、なんとかシーズン中に1勝して、2020年につながるようなシーズンにしたいと思います」。
その戦いを通して世間に伝えたいのは、モータースポーツの魅力です。「やはりレーシングカー自体が魅力的ですね。速さを限界まで突き詰めたマシンが、普段の道路ではあり得ない速度を出し、聞くだけで鼓動が速くなるような轟音で走る。それを極限で操るドライバーの才能・命がけの勝負はやはり、スーパーフォーミュラにしかないものだと思います」
「スーパーフォーミュラは今、“国内で地上を走る最も速い乗り物”ですから、とりあえず現場に来てそのスピード感を見て欲しいですね。1台にターゲットを絞って見ると、戦略の成功・失敗もわかるようになって、ゆくゆくは走りの質から、ヘルメットの上からでもドライバーの表情が透けて見えるような瞬間があります。サーキットへ行くのはハードルが少し高いと思いますが、そういった面白さがやはり現地では味わえるので、ぜひ足を運んでもらいたいなと思います」。
少しでも多くの方に、レースの魅力を知ってもらいたい。その片岡監督の願いの先に、きっと彼が夢見るモータースポーツの発展・成長があるはずです。