スポーツの舞台裏に迫る『挑戦のそばに』

今回はチームルマンのスーパーフォーミュラ監督である片岡龍也さん。チーム全体の責任を負う立場として様々な決断を下す、マネジメントを担当。さらに他カテゴリーではドライバーやチーム運営、スクールでの後進育成も行うマルチな活躍でモータースポーツに貢献しています。「多くの人の支えで積み重ねたこの経験を伝えなければ無責任」と語る、片岡監督の想いに迫ります。

チームが最大のパフォーマンスを出すため環境を整えるのが監督

スーパーGT、スーパーフォーミュラなど自動車レース中心に、モータースポーツ業界で活動するチームルマン。1969年の設立以来、レース用チューニングパーツの開発・販売を行う株式会社ルマンの技術力に支えられてきたチームは、40年以上に渡り国内最高峰レースに参戦。今まで多くのタイトルを獲得してきた、国内屈指の強豪です。そのチームルマンのスーパーフォーミュラ監督を務めるのが片岡龍也さん。就任から今年で3年目を迎えます。
緻密な作戦が必要とされるフォーミュラカーレースの世界。監督という立場であるからには、日々綿密に作戦を練り、ドライバーへの熱血指導でチーム順位をあげていく、とも思われがちですが、他スポーツと違って監督の役割はかなり違うようです。
「モータースポ―ツにおける監督という立場は、自分で戦略を立てて動かしていく役割ではなく、全体を見るポジション。例えば、ドライバーにとって十分な環境が整っているか、メカニックが人員の配置を含めて働きやすいかなど、チームが最大のパフォーマンスを出すためにネガティブな要素を取り除いていくことが私の仕事です」と、片岡監督は語ります。
「実際にレースをどんな作戦で戦うか、車のセッティングをどうするかは、一番車のことを理解している“チームの頭脳”トラックエンジニアを中心に決めていきます。私の役割は、彼らの考えたプランがうまくいなかった時、例えばギャンブルを仕掛けたり、失敗するかもしれないような作戦を遂行する時、監督である私に確認が来て承認する。つまり、チームが結果を出すために『決断し、責任を取る係』と言えると思います」。
いわゆる会社で言う、チームマネジメントを行う人物というとイメージしやすいかもしれません。

マネジメントの難しさは、やはり人の難しさ

現在チームルマンのスーパーフォーミュラスタッフは、監督を筆頭にドライバーが2名、エンジニアが4名、メカニックが10名程度(営業担当など2名含む)と、約15~20名のチームになります。小さなミスが結果を左右するプレッシャーのかかる競技で、これだけのメンバーをまとめる。相当な苦労が必要であることは、想像に難くありません。
「モータースポーツは車という道具を使うスポーツであり、それを整備するのは人間。やはり監督としてチームをまとめる上では、“人が難しい”です。結果が良い時は問題も起きませんが、結果が悪いとどこに問題があるのか追求することになる。各パートの人間は自分に原因があると思いませんから問題点を明確にしなければいけませんし、それを突きすぎてモチベーションが下がるとチームが機能しなくなる。誰かが悪いと言い出すとキリがなくなるので、適切なアプローチで核心に触れつつ全体を盛り上げていくのが大事ですし、最も難しいですね」と、自身の役割の大変さを語ります。
明確な答えがない中で、チームを良い状態へ持っていくには、やはり地道に前進するしかありません。「例えばドライバーやエンジニアの失敗は目に見えるので分かりやすい。でも、実際はマシン調整のところで微妙に1㎜間違えていたなどで、結果が変わる世界。作業者はキチンとやっているつもりでも実は体調が悪くて精度が下がったりすると、それが全部に影響してしまう。それを隅々まで管理するのは難しいですから、疑いがある場合は組織やチームとして再発しない環境を作らなければならない。チーム内でコミュニケーションをとってマイナス要素に対応していく、その積み重ねでしか良くならないので一歩ずつやっています」。
そう行動の指針を示す片岡監督。その言葉の中には、例え近道でなかったとしても未来へ向かって着実に歩みを進めていく、監督としての強い意思を感じました。