タイヤ交換作業に問われるのは技術よりも精神面

アジア最高峰とされるオートスポーツ『スーパーフォーミュラ』で、チームルマンのメカニックを担当する片岡恵人さん。メカニックの見せどころのひとつが、ピットインでのタイヤ交換。スーパーフォーミュラではレースにおいて、一般的に耐久性が高いとされるミディアムタイヤと、グリップ力が高いソフトタイヤの両方を使用することが義務付けられています。つまり、ピットイン作業が手間取れば上位に食い込むことは難しくなります。
その作業の難しさについて片岡メカニックは、こう語ります。「タイヤも軽いので本当は難しくないのです。でも、レースになると自分を精神的にコントロールしなければ失敗する。前の車と競り合って一緒にピットインするとメンタル的にも強くないとできないので、練習あるのみですね。ドライバーも指定の位置に止まればすぐ作業できますが、行き過ぎたり手前で止まると流れが変わって使いたい機材も使えなくなる。ドライバー含めてピットワークは非常に重要なレースの一部だと思います」。
片岡メカニックがこの道に入ったのも、幼いころに見たレースのタイヤ交換に惹かれたのがきっかけでした。「レースが好きだった父の影響でよく見に行っていたのですが、その時に僕はドライバーではなくメカニックになりたいと思ったのです。どうしてこんなに素早くタイヤを変えられるのだろう、すごいなぁと思いましたね」
スーパーフォーミュラでは、タイヤ交換を3人で行うルールがあります。つまり、4つのタイヤのうち誰かは、2つタイヤを換えなければならないということ。その作業ひとつとても、緻密なプランニングと連携が必要です。「やはりレースはドライバーと車がメイン。メカニックは裏方です。でも、タイヤ交換は、メカニックにとって1番光るところだと思うのです。成功しても失敗しても、そこはレース展開を左右する大事な場所なので、速くできれば先に行けるし、失敗すれば抜かれるところが魅力かなと思います」

マシンのセッティングのように、無限の可能性を持つチームへ

今シーズンの評価として、「まだ真価は発揮していない」と片岡メカニックは語ります。「シーズンも半分ぐらいまで来ましたが、まだもっと良いレースができると思いますね。メカニックの目標としては、今だと全体的にタイヤ交換作業が10秒後半ぐらい。だから、10秒前半~9秒ギリギリぐらいで終わるようなピットワークになればいいなと思っています」
年間7戦しかないレースに穴をあけられないため、体調管理も重要な仕事。メカニックも数人は毎年メンバーが変わるため、他のスタッフがあまり練習していない作業もあり、怪我には気を付けています。「雨の日だと滑ったり足を取られたりするので、テーピングをするなどして気をつけてはいます。筋トレよりは柔軟性を良くして、疲れにくい体の作り方などは少し考えていますね」と体調管理にも気を配り、残りのシーズンに臨みます。
そして片岡メカニックが目指すのは、さらに上にステップ。「僕は今セカンドメカニックで二番手なので、チーフメカニックになってチームをリードできる存在になりたいですね。実際に作業するメカニックは6~7人で、車のメンテナンスを担当する2人以外、他のスタッフが集合するのはレースの数日前になる。だから全体の連携がすごく難しいので、しっかりしたチームワークを作って結果に結び付けていきたいと思います」。
さらに思い描く、メカニックとしての自分自身の夢もあります。「このチームでチーフになって、活躍して他のチームからも呼ばれるようなメカニックになりたいですね。それぐらい力を発揮できる人材になれたら嬉しいです。海外のカテゴリーで挑戦したい気持ちもありますね。でも、まずは英語を勉強しなければいけませんが(笑)」
無限の可能性を持つマシンのように、チームルマンとともに片岡メカニックの可能性はこれからも無限に広がっていきます。