スポーツの舞台裏に迫る『挑戦のそばに』
今回はモータースポーツ、スーパーフォーミュラに参戦するチームルマンのメカニック片岡恵人さん。幼いころに見たレースで、フォーミュラカーのメカニックに憧れてチームへ加入。現在は、エンジニアと連携を取りながら“日本一速く走る車”を作るために全力を注いでいます。1秒のタイヤ交換の遅れ、1㎜のセッティングのズレが命とりになる世界で、プロとしてこだわりを持っていることは何なのか。お話を伺いました。
レースを成立させるために不可欠なメカニックという仕事
F1を頂点とするフォーミュラカーレースのカテゴリーで、日本最速・アジア最高峰とされる『スーパーフォーミュラ』。レースにおいて、もちろんドライバーの技術も重要ですが、それ以上に勝敗を左右するのがマシンの速さ。約1時間30分を最高時速300㎞で走る過酷なレースでは、タイヤも焼けて各部品も摩耗していきます。路面や天候のコンディション、車の状態にあわせてメンテナンスを行わなければ完走さえできません。
このマシンのセッティングをドライバーと相談して決めるのが、チームの頭脳とされるエンジニア。そして、その手足となり限られた時間の中で車の調整を行い、ピットインの際に素早くタイヤ交換を行うのがメカニックの仕事。その役割の違いを片岡メカニックは「車をどう速くするのか考えるのがエンジニアで、早くするために部品やモノを変えるのがメカニック」と表現します。
「僕が担当しているのは車のトランスミッションというギアの歯車が入っているところです。僕たちメカニックにとって最も重要なのは、トラブルを出さないこと。完走できる速い車を作るためにどうするべきか、部品を磨くのか直すのか、それとも変えるのか。その判断に責任がかかってきます。そのために日ごろから知識を得たり、レースでは状況にあわせて部品を新しいものにするなど、そういう判断が多い仕事ですね」。自分のミスひとつで、レースプランが狂ってしまうかと思えば、当然その責任は重大です。
1番速い車を作る、それがプロとしての責任
スーパーフォーミュラのレースは年間7戦。片岡メカニックの場合、試合以外の日は会社にある練習用の車でタイヤ交換など作業を確認。試合前になったらサーキットに入って、実際にレースで使う車を調整して行きます。チームのメカニックメンバーは、営業スタッフも含めて全体で10人程度。中でもチーフメカニックとセカンドメカニックの2名が中心となり作業を進めて、残りのメンバーは入れ替わったりするそうです。
「エンジニアから『こういう車にしたい』と話があれば、僕たちはそれに応えなければならない。予選と決勝でも車は変わるので、時間のない中で変更するべきモノを変えるのがこの仕事の大変なところです。あと数分しかない状況でセットアップを大きく変えたり、レース中のタイヤ交換はワンミスで1~2秒差ができてしまうため絶対にミスできない。そこが一番大変なところなので、コミュニケーションはチーム内でもすごく大事です」。
1秒の差が命取りになるレースの中でミリ単位の作業を正確に行う。そのプレッシャーは体験した人にしかわからない世界と言えるでしょう。その中で、やりがいを感じる瞬間とはどんな時かお聞きしました。
「レースで勝った時はもちろんですが、予選で速いタイムを出した時はやりがいを感じますね。メカニックとしての最大の目標は、“1番速い車を作る”こと。レースは何が起きるか分からないので順位は複数の要素が絡んだ結果ですが、最も速い車を作るのがプロとしては大事だと思っています。例えばポールポジションを獲れたら、そのレースウィークで1番速い車を作ったという証拠なので、やはり嬉しいですね」
チームとして日本で1番速い車を作るために、全力を注ぐプロフェッショナル。それがメカニックとしてのプライドです。