車を運転すること、それ自体が身体への大きな負担

F1の下のカテゴリーに位置し、アジア圏最高峰のフォーミュラカーレースとされる『スーパーフォーミュラ』。2011年からチームルマンのドライバーを務める大嶋和也選手は、決勝だと1時間30分ほどで約50周を走ります。時速300㎞を超える中で、20台ものライバルたちと交わす命がけの勝負。その疲労は大変なものです。ただ、伝わりにくいのがドライバーとしてのトレーニングの重要性。見える部分が少なく“車を運転しているだけ”と思われがちですが、実際フォーミュラカーは“運転すること自体が大変なスポーツ”です。
「ドライバーは全身のトレーニングが必要です。ブレーキも100㎏ぐらいの力で踏まなければならないですし、それを踏みながらG(重力加速度)に耐えつつ車をコントロールするので、下半身強化は必須です。上半身もステアリングが重く、レース中は4Gぐらいかかるので首の筋肉も必要。レース中は、心拍数が高い時で180~190まで上がるので心肺機能も欠かせません。とにかく筋力をつければ楽ですが、重くなると車体の重量が増えて損になるので、重くもできず難しいですね。バランス良く強化することが重要です」。
コックピットは一人がギリギリ入る狭さ。ドライバーはシートに固定され、足が心臓より高い位置にある不自然な乗車姿勢をキープ。その状態で、体重の4倍近い力で身体を横に押されながら、正確に車をコントロールする。その大変さは、一般の人がフォーミュラカーに乗った場合(実際は運転自体が難しいので走れたとしたら)、5周も持たないほどだと言います。そんな中、頬がつぶれるぐらいきついヘルメットをかぶり、狭い視界の中で90分近く集中力を持続させる。体力がなくなるとまともに運転できなくなるため、ドライバーは本当に持久力がなければ務まらない職業です。
「僕はトヨタの育成プログラムで育ってきて、中学・高校時代から専門の先生のところへ勉強に行ったり、食事やメンタルトレーニングのプログラムを受けてきました。中学からトレーナーをつけてやっていたので、ある程度の知識は持って日々トレーニングに励んでいます。食事も極力気をつけていますね。普段は少し抑え目にして、レース直前は炭水化物をしっかり摂るようにしています。アミノバイタルもかなり前から活用していますね。燃料切れにならないように走行前後は必ず摂るようにしています」。
青年期から自分の身体や精神としっかり向き合わなければ、プロの世界ではやっていけない。ドライバーがどれだけ過酷で覚悟が必要か、物語るような大嶋選手の言葉でした。

シートを用意してくれている人たちのために、とにかく求めるのは結果

サポートを受けて戦う、といった意味ではドライバーほど周囲に支えられている職業はないかもしれません。スポンサー、メカニック、そしてエンジニアがいたうえで初めて車を動かせる。大嶋選手も、その感謝の気持ちを忘れてはいません。
「みんな大変なのは一緒ですが、エンジニアもメカニックも、ドライバーが身体を休めている時、夜中に車を組み立ててくれている。そういう方への感謝は常に感じています」。それでもプロドライバーは、結果を出すのが仕事。成績が悪ければ、自分が乗るシートも用意されない厳しい世界です。
「ドライバーは様々な人のサポートがあって成り立つもの。ファンからの言葉も『あそこよかったね』と声をかけてもらったり、レースの細部まで見てもらえているのは励みになります。でも、応援してくれてありがとうと言っているだけだと意味がない。プロとしてやっている以上結果を出すのが1番なので、とにかく結果が出せるように、ただ頑張るしかありません」と大嶋選手は強い言葉で語ります。
「今は新しい挑戦として、エンジニアの言っている内容がより理解できればと思い、車の自動車工学なども勉強しています。先まで考えると、今はあまり車が重要視されない時代なので、一般の車の開発も勉強して大きな意味で自動車業界の魅力を伝えていければと思っています。それでも現状は、数少ないトップフォーミュラのシートに幸いなことに今乗せてもらっている。このシートを用意してくれている人たちに恩返しとして、少しでも早く優勝したい。まずはそれが一番です」。
未来を見据えつつも、とにかく今は一秒でも速く走る。ただ、その目標に向けて大嶋選手は挑戦を続けます。