スポーツの舞台裏に迫る『挑戦のそばに』

0.1秒でも速く走るために。想像を絶する身体への負担と戦うレーシングドライバー。今回取り上げるのはモータースポーツ、スーパーフォーミュラの日本人ドライバー大嶋和也選手。2009年に国内最高峰カテゴリーであるフォーミュラ・ニッポン(スーパーフォーミュラの前身)に参戦すると2011年にチームルマンへ移籍。2年後にシートを失いますが、2017年には5年ぶりにスーパーフォーミュラの舞台へカムバック。SUPER GTと共に、名門チームルマンの看板ドライバーとして活躍を続ける大嶋選手に、プロドライバーの厳しさやトレーニングの大変さなど、車を速く走らせるために日々どんな努力を行っているのかお聞きしました。

運転技術は高くて当然“車を速くするための努力”をするのがドライバー

“自動車・バイクを含めて、エンジンやモーターなどの機械を使ってレースを行うのがモータースポーツ。その中で最も有名なのが、世界的人気を誇るF1(フォーミュラワン世界選手権)です。このフォーミュラカーレース(レース専用の1人乗り自動車レース)には、F1を頂点に様々なカテゴリーが存在します。アメリカ中心の『インディカーシリーズ』、欧州から中東の『FIA F2選手権』。そして、アジア最高峰の戦いとされるのが『スーパーフォーミュラ』。時速300㎞を超える命がけのバトルは迫力満点。実際にF1ドライバーにステップアップする選手もいるハイレベルな戦いは、世界からも注目されています。
その国内最高峰レースで戦い続けるのが、チームルマンのドライバー大嶋和也選手。8歳からカートを始めて、各クラスで実績を残し、2009年に22歳でフォーミュラ・ニッポン(スーパーフォーミュラの前身)へ参戦。一時期シートを失いましたが、2017年にはカムバックして現在3年目を迎えます。
レーシングドライバーは、才能がものを言う狭き門。ライバルとの戦いを意識し、運転技術を磨くため日々練習を続けているのかと思いましたが、少し勝手が違うようです。
「もちろん、僕の仕事は車を速く走らせることですが、レースは車という“道具”を扱う職業。だから、速い車に乗らないと結果は出せません。だから、チームの頭脳のような存在であるエンジニアとコミュニケーションを取って、マシンをどんなセッティングにするかなど、どうやって良い車を作るのかが重要な仕事です」。
常にサーキットを使えるわけではないため、実際にコースで走れるのはレース直前。当然、レースの中で磨かれる部分はあっても、基本的なテクニックはプロになるまでに身に着け、準備した車に乗ってすぐ結果を出すのがドライバーの仕事。そのためにスタッフと協力して、最善のマシンを作るのが重要なことだと、大嶋選手は語ります。

“来年も大嶋とレースをしたい”と言ってもらえるように

「スーパーフォーミュラだとレース以外で車に乗れるのは、年に2回あるテストぐらい。日常的には、他のカテゴリーのレースに出たりイベントに行ったり、実際あまり車に乗っている時間は少なくて、トレーニングの時間が大半。プロとして乗ったらいつでもベストパフォーマンスが出せるように準備をしています」。
レースは成長する場所ではなく、才能を認められたドライバーたちが頂点を目指して戦う場所。常に結果が求められるシビアな勝負。その状況で年間通じて戦うのは、多大なプレッシャーとの戦いでもあります。
「一番大変なのは、結果が出ない時ですね。良い結果を出して目立つのもドライバーなら、悪い時に目立つのもドライバー。調子が良ければ楽しいですが、ダメな時はたくさんの観客の前で悔しい思いをしなければならない。うまくいかなくても、できるのは体調を整えて筋力を上げることぐらい。悪いことは、なるべくその日のうちに忘れて切り替えるようにしています」と心情を語ってくれました。
「トップカテゴリーにいるドライバーは実力がほぼ同じで、全く同じ車に乗れば0.1秒差でフィニッシュするほど差はありません。だから、いかに速い車を作れるかが大切。いいエンジニアに偶然巡り合って結果が出ても、それだけでトップカテゴリーに居続けることはできません。スーパーフォーミュラは年間7戦あって、年に1回勝てれば十分というぐらい厳しい世界。だから、ほとんどが勝てないレースです。その中でもいかに諦めず戦い抜くかが重要だし、良くない時でもどれだけ車を速くできるかが大切だと思っています。一緒に戦っているエンジニア、メカニック、スタッフに『ドライバーは頑張った』と思ってもらえるレースをしないと、“来年以降も大嶋とレースをやりたい”と思ってもらえない。それはどんな順位を走っていても意識しています」。
だからこそ、スーパーフォーミュラに復帰して3年目を迎える今年は、勝負の年になります。「2年間チーム状況もあって、なかなか結果が残せない状態でしたが、今年から昨シーズンのチャンピオンエンジニアである阿部(和也)が、ベンチに入ってくれて言い訳できない状況が整いました。今年はしっかり結果を残して、“今年がダメなら来年以降のチャンスはない”ぐらいの気持ちで戦いたいと思います」。厳しいプレッシャーの中でも、期待してくれる仲間の声に応えられるように、大嶋選手は日々努力を続けています。