ピュアセレクト®マガジン vol.01 「すみだファーム 住田学」 ピュアセレクト®マガジン vol.01 「すみだファーム 住田学」 vol.02 2021 LATE SUMMER 「Ayumu Agri 石川歩」

私たちの食卓に季節を運び、彩りをそえてくれる旬の食べ物たち。自然の中でたくましく育ち、いきいきと輝く恵みは、まさにピュアそのものです。
でもその背景には、てまひまをかけ、創意工夫をして、ピュアにものづくりと向き合っている生産者さんたちがいます。このピュアセレクト®マガジンでは、そんな方々を訪ね、日々の仕事に対するピュアな想いを伺い、みなさんにお届けします。
豊かな自然の中へ一緒に旅をするような気持ちで、ぜひお読みください。

山口祐加さん

こんにちは、山口祐加です。私は自炊料理家という肩書きを名乗り、自炊初心者さんや料理が苦手な方に向けて「シンプルで疲れない自炊のコツやレシピ」をSNSやnoteで発信しています。

リモートワークが増え、外食も行きづらい今、自炊はますます身近なものになりましたね。日々慌ただしい中で料理を作るとき、いつも頼りになるのは野菜を焼いたり茹でたりしたシンプルな料理。素材そのままの直球なおいしさは、何度食べても食べ飽きません。

そこで、このシリーズではシンプルな料理に欠かせないすばらしい野菜を育てている方に会いに行き、じっくり話を聞いていきます。

自信を持って作ったものを、売る仕事をしたい 自信を持って作ったものを、売る仕事をしたい

自分の裁量で仕事をしたいと思い
20代で新規就農へ

ピュアセレクト®マガジンの二回目は、茨城県常陸太田市旧里美村で農園を営む石川歩(いしかわ あゆむ)さんのところへ伺いました。東京から電車やバスを乗り継いで3時間半(!)かけてたどり着いた先は、水が豊富で緑豊かな自然に囲まれた畑「Ayumu Agri」。この農園を一人で営む石川さんは、ほがらかな笑顔で私たちを出迎えてくれました。

Ayumu Agriでは、山の麓のひらけた土地で年間40種類ほどの野菜を、無農薬・無化学肥料で育てています。畑を訪れた晩夏の頃はとうもろこしやトマトが真っ盛り。他にもオクラやナス、きゅうりやピーマンなどいきいきとして、ハリがある夏野菜がたくさん実っています。
トマトのハウスに入ると、トマトの赤や黄色がつやつやと輝いていて美しい。「黄色がいちばん甘いですよ」と、黄色トマトをもぎって私の手にポンと渡してくれました。一口食べると、はじけるような甘さとフレッシュな香りに、思わず「おいしい!」と声が出ました。
それにしてもハウスが大きくて、遠くまでずっと収穫できそうなトマトが実っています。これをお一人で手入れし、収穫もしているなんてすごいなぁ。

石川さんは現在30歳と、農家としてはかなり若手です。茨城県北地域で生まれ、サラリーマン家庭で4人兄姉の末っ子として育ちました。野球一色の学生時代を過ごし、電気機器製造会社へ就職。そのような人生を送る中で、どうして農家になろうと思ったのでしょうか。ゆっくりと、朴訥とした語り口で話し始めました。

「会社員だった頃、与えられた仕事をこなす日々に閉塞感を感じていました。自分の裁量でできる仕事に魅力を感じたこと、いつかは地元に帰って地域を盛り上げたいと思っていたこと、デスクワークより身体を動かして仕事をしたいなどの理由から、農業を学んでみたらおもしろいのでは?と思ったんです。私は考える前にすぐ行動するタイプなので、就職一年で会社を辞め、地元の茨城県水戸にある農業学校の有機農業コースに通い始めました。」

自分が農家をやるならば、いろんな野菜を作ってお客さんに直接売りたい気持ちが強くありました。 自分が農家をやるならば、いろんな野菜を作ってお客さんに直接売りたい気持ちが強くありました。

有機農法を学びにオランダへ。
環境意識の高さに圧倒された経験

うんうんと考えるよりも直感を信じ、農家への道を歩み始めた石川さん。どうして手間暇かかる有機農業をやってみようと思ったのでしょうか。

「私が農家になるなら自分で作った野菜を直接お客さんに届けたい気持ちが大きかったので、安心して食べてもらえて直販にもつながりそうな有機農業を選択しました。卒業後は元々海外に興味があったので、農業研修プログラムでオランダの有機農家へ一年間の研修に行ったんです。
オランダは日本の九州ほどの広さにもかかわらず、農産物輸出額はアメリカに次ぐ世界第2位と農業が盛んな国です。また生活者の環境意識が高く、有機農業が産業として根付いていて、オーガニックの食品が当たり前のようにスーパーで手に入りました。日本よりもずっと先を行っている有機農業に感化され、私の畑でも実践しています。
例えば土壌の生態系を壊さないようにトラクターを使わず人力で耕したり、農薬や化学肥料を使わなかったり、プラスチックマルチの使用も限りなくゼロにするなど、環境負荷の少ない農業を目指しています。農法の新しい情報は海外のYouTubeなども参考にしていますね。」

気候変動が年々激しさを増し、人間の営みが地球環境に大きな負荷をかけていることを実感する私としては、同世代の石川さんのような人が農家を営んでくれていることが本当に希望だなと思います。一人で営まれているのにもかかわらず、時間と手間のかかるやり方で野菜を育てる。利便性や効率を最優先するのではなく、愚直に手を動かす姿勢に力強いピュアさを感じました。

①自分が納得するモノを作る、②自分で売る。 ①自分が納得するモノを作る、②自分で売る。

“自分でまいた種”の自由と責任

会社員だった生活から一変。農家に転身した石川さんは、どのようにしてこの里美村で農園を営むことになったのでしょうか。

「オランダから帰国後、地元の有機農園で一年間働きました。その頃から平らで広い土地を探していて、この場所を紹介してもらい3年前にAyumu Agriを開業しました。このエリアは昼夜の寒暖差が激しく、とうもろこしやトマトなどがおいしく育ちます。水やりは自分で引いてきた井戸水を使っていて、まろやかでごくごくと飲めるおいしい水を使っているのもこだわりです。またここは酪農が盛んなエリアでもあり、酪農家から牛糞を譲ってもらって堆肥にしたり、秋になると山に登って落ち葉を集めて堆肥にしたりなど、この場所だからこそできる循環型農業にチャレンジしています。」

27歳にして自分の畑を持った石川さん。会社員の頃と今の仕事では大きく何が異なるのでしょうか。

「会社員の頃と比べると、自由度と責任感が圧倒的に違います。農家の仕事は今のような収穫の時期になるとほぼ休みなく働いていますし、梱包、出荷、配達、売り場のポップ作りまで一人でやっているので本当に忙しいです。一文字通り、“自分でまいた種”ですよね(笑)でも、新しい品種の種をまいて実がなったとき、食べておいしかったときの嬉しさはひとしおです。おいしい野菜を作る方法はいろんなやり方があって、農家さんそれぞれにやり方が違うところも農業の面白さです。おいしい野菜にたどり着くまでの道がいくつもあって、模索していくのが面白いですね。 それから、ポケットマルシェや地域の人たちへの配達など、直販ゆえにお客さんの反応をダイレクトに感じられることも大きなモチベーションになっています。野菜が苦手だった子供がバクバク食べましたと感想をいただくと、頑張って作った甲斐があったなと思います。」

自分の家族に食べてもらうように、安心して食べてもらいたい 自分の家族に食べてもらうように、安心して食べてもらいたい

新鮮な野菜で作る、手をかけないごちそう

石川さんが「ここにくる人を必ず連れて行く場所がすぐそこにあるんです」と、畑の裏側へ案内してくれました。そこには、さやさやと澄んだ水が流れる大きな川がありました。涼やかな川縁で収穫した野菜とピュアセレクト®で簡単なサラダを作らせてもらいました。

使った野菜は皮が薄い黒さんごという品種のきゅうり、万願寺とうがらし、ピーマン、パプリカ、黄色・赤トマト。味付けはピュアセレクト®と香りづけに少し柑橘を絞りました。
トマトの甘味、ピーマンの苦味、きゅうりの青い香りなどそれぞれの野菜の味がしっかりと感じられるサラダが出来上がりました。新鮮な野菜とほんのちょっとの味付けがあれば、もう十分ごちそうになります。
石川さんにお気に入りのマヨネーズを使った野菜の食べ方を聞いてみるとこんなお返事が返ってきました。

「私、マヨネーズが大好きなんですよ。マヨネーズはおかずの味変でよく使います。マヨネーズで味付けするチャーハンなんかも絶品です。野菜の食べ方で言えば、きゅうりやトマトなどにマヨネーズをつけるシンプルな食べ方が一番好きですね。」

野菜はちゃんと種を蒔いて、ちゃんと管理してあげれば大体育つんです。 野菜はちゃんと種を蒔いて、ちゃんと管理してあげれば大体育つんです。

生産者と消費者が直につながる

最後に、石川さんの畑の将来について聞かせてもらいました。

「今の農業の仕組みは大きな物流の流れがあり、農家は農協に出荷して全国のスーパーに野菜が届きます。私はマルシェに出店したり、通信販売で直接お客さんに買ってもらったりしています。お客さんの顔を思い浮かべながら野菜作りをして、お客さんはその姿を想像しながら野菜を料理し、食べる。お互いにとって幸せな農業のかたちを作りたいと思っています。
その一環として、野菜を作って売るだけでなく、外に開けた農園として収穫体験や収穫した野菜でバーベキューなどができる場所にしていきたいと思っています。
それと妻がイベント出店のみのパン屋を営んでいるのですが、これから自宅一階を改装して私が育てた野菜や小麦を使って作ったパンや、野菜を販売する場所も作りたいですね。」

このインタビューで私は特に①自由と責任、②環境負荷が少ない農業のあり方の二つが心に残りました。
自分の意思で農園を始め、種をまくところからお客さんの手に届くまでをすべて自分の手で行う。おいしい野菜を作る道はさまざまで、自分で自由に考えて実践してみる。責任を持って育てた野菜たちを、自分の思いが伝わるようちゃんとお客さんに届ける。自分で商売を営む面白さが「自由と責任」という言葉にギュッとつまっているなと感じました。

また、土や微生物に配慮してトラクターを使わない、プラスチックマルチもできるだけ使わず藁を敷いて雑草対策をするなど、環境負荷をできるだけ少なくする真摯な姿勢には心を打たれました。これだけ真っ直ぐに野菜作りをされているから、味わい深く、おいしい味になるのだなと納得した取材でした。
やわらかな笑顔の中に、熱のこもった思いを持つ石川さん。同世代として本当に頼もしく、私も頑張ろうとピュアな気持ちをお土産にもらいました。

ピュアセレクト®マガジンは毎月1回、連載が続きます。次回もお楽しみに!