ピュアセレクト®マガジン vol.05 「双葉農園」 ピュアセレクト®マガジン vol.05 「双葉農園」 vol.05 2021 EARLY WINTER 「双葉農園」

私たちの食卓に季節を運び、彩りをそえてくれる旬の食べ物たち。自然の中でたくましく育ち、いきいきと輝く恵みは、まさにピュアそのものです。
でもその背景には、てまひまをかけ、創意工夫をして、ピュアにものづくりと向き合っている生産者さんたちがいます。このピュアセレクト®マガジンでは、そんな方々を訪ね、日々の仕事に対するピュアな想いを伺い、みなさんにお届けします。
豊かな自然の中へ一緒に旅をするような気持ちで、ぜひお読みください。

山口祐加さん

こんにちは、自炊料理家の山口祐加です。慌ただしかった2021年も終わりが近づいてきましたね。今年はピュアセレクト®マガジンを通じて野菜や調味料の作り手さんたちに出会え、その真っ直ぐな想いに触れられたことが私自身大きな収穫になりました。

さて、今年最後の取材は神奈川県・秦野市で双葉農園を営む佐野浩司さんを訪ねました。農家だった祖父母に「農業は儲からない」と言われながらも農家になり、個性的な野菜を作って工夫しながら売る「これからの農家の働き方」を軸にお話を伺いました。冬野菜が盛りを迎えた畑の様子もお楽しみください!

作り手も買い手もうれしい、農業のあり方

都心からのアクセスが良い秦野市の弘法山の麓に畑を構える双葉農園さん。佐野さんが出迎えてくださり、さっそく畑へ連れていっていただくと見晴らしが抜群!天気が良ければ向こう側に立派な富士山が見えるとのこと。なんて素敵な職場なのでしょうか。

12月初旬の取材当時、畑で育っていたのはスティックブロッコリー、スティックカリフラワー、ターサイ、のらぼう菜、芽キャベツなど10種類の野菜たち。野生味あふれる畑で、眺めているだけで元気をもらえます。

今時期よく売れている「スティックブロッコリー」は双葉農園さんの主力商品で、味ももちろんのこと房の切り分けをせずにそのまま使えるのが魅力です。農家としてもスティックブロッコリは一度収穫して終わりではなく何度か収穫できて敷地に対しての経済効率がよく、スティック状だと箱に詰めた時に隙間も出来づらいため一度にたくさん送れるのだとか。私も趣味で小さな畑をやっていますが経済効率のことまで考えたことはなく、さすが商売として農業を営んでいる方は目線が違います。

冬から春にかけて旬を迎える「芽キャベツ」は、大きな茎部分に小さな芽キャベツがぽこぽこと実る不思議な野菜。人気がある一方で、一つずつ手作業で収穫するのが大きな手間のかかる仕事でした。そこで「芽キャベツをもぎるのは収穫体験のようで楽しい、見た目も変わっているから丸ごと販売したら面白がって買ってくれるかもしれない。しかも自分たちの手間も省けてとても助かる!」と思い、直販で"株ごと芽キャベツ"と題して販売したら大ヒット!確かに驚きのビジュアルですし、お子さんがいるお家であれば収穫体験は食育にもなりそうです。

佐野さんは「え、売れるの!?と私が驚きました。」と微笑みながら話してくださいました。売り方の工夫次第で商品価値を高めて、農家の負担も減らすことができる好例だなと感じました。

・「農家は儲からない」はアイデア次第で乗り越えられる

さてそんな佐野さんが農家になるきっかけは、秦野で農家をされていたお祖父さんとお祖母さんにありました。小さい頃に収穫のお手伝いをさせてもらったことが楽しく、高校生になっても農業への興味は変わらずに東京農業大学へ進学されます。その後すぐに農家になるかと思いきや、会計事務所を母体とした企業へ就職。家族経営で労働時間や経済生産性などをあまり考えず働いていた祖父母のことを思い出し、数字に強くなりたいと会計を学ぶ道に進まれたそう。
その後6年間の会社員時代を経て、満を持して農家の道へ。県立の農業学校や農園での研修を経て2016年に独立されました。当時の様子を佐野さんは次のように振り返ります。

さて、見晴らしの良い畑の真ん中でさっき収穫した野菜を使ってお料理することに。
一品目はマヨネーズを油として使い、スティックブロッコリーにマヨネーズを絡めて焼くだけの簡単なおかずです。焦げ目がつくくらいしっかり焼くと香ばしさが増して香り豊か。熱々を頬張るとスティックブロッコリーのなんとも甘いこと!マヨネーズのほんのりとした塩気だけで感動する味わい。何本でも食べたくなってしまいます。
もう一品はとんがりキャベツのコールスロー。千切りにしたキャベツを軽く塩揉みし、マヨネーズ、3回目の取材で内堀醸造さんからいただいたレモン酢、黒胡椒で味をつけました。キャベツの食感の良さと甘みがしっかりと感じられ、キャベツのみで十分おいしいコールスローができました。鮮度の良い野菜のおいしさは偉大ですね。

手塩にかけて作った野菜を食べて、おいしい時が一番うれしい

「会社員時代は決められたルールの中で働いていたけれど、今はすべて自分でルールを決めて行う分自由度が高く、その分責任もある。双葉農園ならではのオリジナリティをどうやって出して行くかを考えるのは面白い」と話す佐野さん。

最後に、佐野さんが思う「農家のやりがいと将来のこと」について聞かせてもらいました。

「就農してまだ6年目でうまくいかないこともたくさんあるけれど、少しずつ工夫して改善していくことを大事にしています。
育てた野菜をお客さんに喜んでもらえることはもちろんうれしいですが、自分で作った野菜を食べておいしかった時が正直一番うれしいですね。これはうまい!と思えれば、お客さんにも心からおすすめできます。

コロナ禍が始まってから野菜の売り方も変わりました。もともと通販の注文は1ヶ月で1件しかないほど寂しい状況だったのですが、ポケットマルシェさん主催のセミナーを聴講したことをきっかけに入れ始めました。よく売れている農家さんの文章を読んで、プロフィール文を書き直したり、お客さんからのコメントにできるだけ返信するなどコミュニケーションを取ったりとしているうちに、1ヶ月に100件を越えるようになりました。
お客さんから『おいしかった』の声をいただくことや、野菜嫌いの子供が食べるようになったとお話ししてくださることが日々の励みになっています。将来的にはお客さんを畑に呼んで、収穫体験や種植えなどをしてもらえるような観光農園にしていきたいですね。」

売り方やお客さんとのコミュニケーションの取り方など、丁寧に真面目に、一歩ずつに前へ進まれているのが佐野さんらしさだなと思いました。ピュアな気持ちで野菜を育て続けるために、やり方は状況に応じて柔軟に変えていく。佐野さんのこれか2らの展開がとても楽しみに感じた取材でした。

取材が終わった後、「これ持っていってください」と両手いっぱいに野菜のお土産をいただきました。お話に出てきた栄養士監修のレシピはイラスト入りでかわいらしくデザインされていて、初めて料理する時もおいしく食べてほしいという気づかいに、心があたたかくなりました。

ピュアセレクト®マガジンは毎月1回、連載が続きます。次回もお楽しみに!良いお年をお迎えください。