持続可能なカツオ漁業と資源利用を目指して
世界中で親しまれているカツオ
カツオは世界の熱帯〜温帯水域の温かい海に広く生息しており、特に赤道熱帯海域に資源量が多く存在します。その漁獲量は年間約300万トン規模に達し、沿岸地域の人々の貴重なタンパク源となるほか、ツナ缶等に加工され世界の市場に流通しています。
日本でもカツオは古くから利用され、かつお節やかつおだし、刺身など、日本食の文化とも深いかかわりを持っています。

カツオの資源評価と、関係国の認識
日本を含む中西部太平洋では、WCPFC(中西部太平洋まぐろ類委員会)を中心にカツオの資源管理に関する国際議論が続いています。
カツオ漁獲の中心は、熱帯海域で操業するカツオ国際漁業によるものです。大型巻き網量が拡大したこともあり、年間180〜200万トン規模の漁獲量が継続しています。こうした背景を踏まえた上でも、現時点でのカツオの資源評価結果は「資源枯渇でも、過剰漁獲でもない」とされています。このため、熱帯海域のカツオ漁にかかわる遠洋漁業国や島嶼国には現時点で漁獲量を減らす動きはありません。
一方、日本の近海釣りや沿岸曳縄漁によるカツオ漁獲量は、顕著に減少が続いています。国内漁業関係者のカツオの資源状態に対する危機意識は強く、特に熱帯海域の大量漁獲が日本近海のカツオ資源に悪影響を及ぼしているとの懸念を強く持っています。
■関係国間のギャップ | 日本(近海・沿岸漁業関係者) | 日本以外の多くの関係国(国際漁業関係者、島嶼国) |
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操業海域(関心海域) | 日本近海 | 熱帯海域(日本近海への関心はない) |
主たる操業方法 | 竿釣り、曳縄漁 | 大規模巻き網漁 |
漁獲状況 | 2000年代後半から不漁が顕著 | 1980年代以降、急速に漁獲量増加。 最近数年は年180~200万トンの漁獲実績 |
WCPFCによる資源評価結果 | 中西部太平洋海域全体として、「資源枯渇でも、過剰漁獲でもない」 | |
見解 | 地域の現象(日本近海の不漁)を反映できていない。 | 不都合はない。 |
資源評価のプロセス | 主に漁業統計データをもとにモデル計算で中西部太平洋海域全体を対象に推定(島嶼国関係の専門家が担当) | |
見解 | プロセスが不適切で改善必要(台湾、中国は一部賛同) | 変更の必要はない。 |
カツオ資源への懸念 | 熱帯海域の大量漁獲が日本近海のカツオ資源に悪影響を 及ぼしている可能性がある(証明はできない) |
当面の懸念はない。日本の懸念は可能性にすぎない。 統計データからは証拠が得られない(関心がない) |
漁業管理 | 日本など沿岸漁業への考慮が必要 | さらなる漁獲増大は抑えつつ、現状維持が妥当 |
このように、様々な立場の国・地域が存在する中西部太平洋では、資源管理の合意形成が難しく、管理の枠組みが定まらない状況が続いています。
カツオは再生産能力が高い魚であり、熱帯域のカツオ資源状態が危機に陥いるということが当面考えにくいと判断されます。しかし、資源の再生産能力を超える漁獲が続けば、いずれ資源は枯渇してしまいます。その影響は日本近海にも及び、日本の漁業者の苦境が続くおそれもあります。
資源管理を取り巻く様々な課題
カツオ資源を取り巻くもう一つのの課題は、資源管理の基礎となる研究が進んでいないことです。
たとえば日本近海では、「カツオがどの海域で生まれ、いつ回遊を始め、どのような経路・過程をたどるのか? 熱帯域とのかかわりはどうなっているのか?」といった科学的知見が不足しています。このため、対策を議論することも困難なのです。
また、カツオ資源にかかわる関係者の多さも課題となります。漁業や資源に関する課題であれば、国・行政や漁業関係者が対応すべきであるというのが一般的な考え方かもしれません。しかし、現代の社会経済の仕組みの中では、様々な関係者が間接的にカツオ資源とかかわっています。間接的な関係者は課題について無自覚なことが多く、それが課題の深刻化を招く原因にもなります。
資源利用にかかわる民間企業としての関与
カツオ資源を取り巻くもう一つのの課題は、資源管理の基礎となる研究が進んでいないことです。
たとえば日本近海では、「カツオがどの海域で生まれ、いつ回遊を始め、どのような経路・過程をたどるのか? 熱帯域とのかかわりはどうなっているのか?」といった科学的知見が不足しています。このため、対策を議論することも困難なのです。
また、カツオ資源にかかわる関係者の多さも課題となります。漁業や資源に関する課題であれば、国・行政や漁業関係者が対応すべきであるというのが一般的な考え方かもしれません。しかし、現代の社会経済の仕組みの中では、様々な関係者が間接的にカツオ資源とかかわっています。間接的な関係者は課題について無自覚なことが多く、それが課題の深刻化を招く原因にもなります。
味の素(株)が取り組むカツオ生態調査の意義と状況認識
- WCPFCにおける資源評価のプロセスを改善するためには、漁業データを中心とする統計的手法だけでなく、カツオの生物学的、生態学的知見の蓄積が必要。
- 熱帯海域と日本近海(亜熱帯~温帯海域)のカツオ資源の関係を明らかにすることが重要であり、黒潮本流源流域は熱帯~亜熱帯海域をつなぐ重要な海域。味の素(株)の調査活動はこの海域で実施している。
- 日本へのカツオ回遊にかかわるこの重要海域は、インドネシア~フィリピン~台湾~日本と連なる沿岸・近海海域であり、WCPFCにおける議論において日本の懸念に理解を得るための重要な関係国。味の素グループの重要な事業活動国でもある。
- 熱帯域の漁業活動以外にも、気候変動、漁業従事者不足、不採算など日本沿岸・近海漁業をとりまく環境はさらに不安定、不確実となることが予想され、合理的で経済的で持続可能な漁業に向けた改善を図ることが重要。特にその影響が出やすい南西諸島海域でのカツオ生態に関する詳細な知見は改善取り組みに直接の貢献が可能。



調査手法と主な成果
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南西諸島海域で大規模標識放流を継続
→ポスターなどを通じて漁業者に呼びかけ、再捕の協力を仰ぐ
-
アーカイバルタグ(記録型電子標識)を用いた最先端調査
→日本近海への北上回遊ルートが推定できた
→鉛直行動、回遊行動、摂餌行動などの生態の詳細がわかってきた
→WCPFCの資源評価モデル改善への知見蓄積に貢献アーカイバルタグ 調査から推定されたカツオの北上ルート -
ピンガー(超音波標識)を用いたさらなる知見の蓄積
→沿岸漁業の具体的改善に有効な関連データの蓄積が期待される
左がピンガー(超音波標識)、
右は受信機で、魚礁などに設置する受信機を漁礁に設置する様子 -
台湾との協働への展開
→これまでの標識放流データから、与那国島沖で放流した標識魚が台湾海域へも遊泳していることがわかった
→2016年1月から、台湾水産庁、研究機関、漁業者との標識放流魚の再捕・報告についての協働を開始台湾の漁業者へポスターを通じて
広報活動を実施
これからの調査の方向性〜“オールジャパン”の取り組みへ
標識放流共同調査で得られた成果は、国際会議などの場で積極的に発表し、世界へと発信しています。これにより、国際的な資源管理ルール策定に貢献できるものと考えています。
また、調査の体制も幅が広がりつつあります。台湾との協働に加えて、東京海洋大学がカツオ近海生態調査に参加することとなりました。調査活動や解析評価、広報活動がさらに広がり、カツオ資源の持続可能性に向けた“オールジャパン”での取り組みが進むものと考えています。
