180分の改革
冬季オリンピック5大会連続出場を果たし、4つのメダルを獲得。2017-18シーズンにワールドカップ個人総合優勝を達成し、世界一となったノルディックスキー複合の渡部暁斗選手。日本スキー界に名を残す偉大な存在は、来年2月に行われるミラノ・コルティナ2026冬季オリンピックを集大成に、現役引退を発表。「季節外れの満開の桜を咲かせて終わりたい」と、オリンピックへの全力挑戦を宣言しました。その準備は、すでに綿密に進められています。
次のオリンピックで引退を決めた渡部選手は、「悔いが残らないように一日一日を過ごしていきたい」と考え、今年の春、ひとつの改革を決意しました。
「ジャンプとクロスカントリー間の180分を最高にしたい。そこにフォーカスして、この1年間積み上げていこう」
トリノ2006冬季オリンピックから5大会連続でオリンピック出場を果たすも、まだ届かない金メダル。最も望む色のメダルを手にするため、競技間の180分間で最高の準備をしようと決めたのです。

今までも試合当日の栄養戦略プランを定め、それをベースにワールドカップなどを戦ってきた渡部選手。「これまではゼリーを1日4本飲んでいましたが、年齢的にも多く感じる瞬間があり、そのわりに空腹感が残るから固形物を入れようか」など見直しが始まりました。
同様のプランで2大会メダルを獲っているため、それがひとつの正解なのはわかっています。でも、「もう一度ゼロから考えてみよう」となったのです。
「今まで良かったから次もいい、ということはない。現状維持は後退と同じ。前進し続けないと維持もできないから、あえてチャレンジを選択しました。手探りの部分はありますが、工夫を重ねて良い準備ができています。味の素KKさんからも食事面・栄養面で、必要以上と言ってもいいぐらいサポートしていただいているので、還元しなければならないと思っています」
それは、常に進化を追い求める渡部選手らしい判断でした。
長いキャリアの根底にある「自分が変わる楽しさ」
荻原健司さんに並び、日本人最多となるワールドカップ通算19勝を誇る渡部選手。その功績が評価され、今年3月には日本人5人目となるスキー界で最も権威ある賞『ホルメンコーレン・メダル』を受賞しました。
「レーススタイルや競技に取り組む姿勢が評価してもらえたと、自分では思っています。ワールドカップでの2位獲得数が、おそらく僕は歴代1位。それだけ、正々堂々と戦った上で“負け”ている。あまりカッコ良くないですけど、負け方にも“美学”はあると思う。見ていて面白いレースがしたいし、そういうレースを繰り返してきたから『良い選手である』と評価されたと捉えています」。
地元長野でのオリンピックを9歳で観戦し、「試合そのものよりオリンピックの熱気や盛り上がりを感じ」、スキーを始めた渡部選手。これだけの選手になれた理由は「自分が変わる楽しさが根底にある」からだと話します。
「始めた頃はいつまで続けようとか、何かを成し遂げようとか、あまり考えていませんでした。ジャンプを跳んだりスキーで滑るのが楽しいとか、そんな気持ちが一番大きかった。それを忘れず今まで来られたのは、自分が一番誇れるところだと思っています」
結果を出すのが楽しいのではなく、一人のスキーヤーとして、変化や向上・改善できた瞬間が最も楽しい。「その先にワールドカップ優勝やメダル獲得があって、それを見た人たちの喜んでくれる姿が嬉しいんです」。それが、長年競技を続けてきた原動力だと、本人は表現します。
一番やりたいことができているのは、今
その集大成は来年2月。ミラノ・コルティナ2026冬季オリンピックでやってきます。先に引退を宣言したのは、自身を鼓舞する意味もありました。
「表明して気が楽になったのはありますね。自分でも線引きをしっかりしたことで、“あとはやるだけだ”という気持ちになりました。応援の力がより多くもらえると思いますし、シーズンを戦うのが、もっと楽しみになりました」
常に大切な誰かを想い戦ってきた渡部選手にとって、引退後を語るのは「逆に応援してくれている人に対して失礼」にあたるのかもしれません。
「引退後のことは4年間ぐらい考えてきました。でも、色々考えて“今が一番やりたいことをやらせてもらえているんだ”とわかりました。だからこそ最後まで、本当にやりきったって心から言えるように、今はシーズンに集中したい。後は終わってから考えようと思います」
「競技人生の始まりから終わりまでを堪能することができたと素直に思えました。このままただ花びらが散るのを寂しく待つつもりはなく、2月のイタリアで季節外れの満開の桜を咲かせて終わりたいです」
集大成に向けて、覚悟を決めた渡部選手。これから彼は、”今まで支えてくれた人々と一緒に最高の景色を見る”という最も重要な挑戦に向けて、日々を積み重ねていきます。
味の素㈱は、TEAM JAPANゴールドパートナー(調味料、乾燥スープ、栄養補助食品、冷凍食品、コーヒー豆)です。





