スポーツの裏側にある魅力に迫る『挑戦のそばに』。
18歳でトリノ2006 冬季オリンピックに出場して以来、5大会連続で冬季オリンピックに出場。4つのメダルを獲得し、ノルディック複合のトップランナーとして長年活躍してきた渡部暁斗選手。
2017-18シーズンのワールドカップ個人総合優勝など数々の偉業を達成してきた彼は、子育てと競技の両立、社会課題への取り組みなど、常に新たな可能性を模索し続けてきました。そして、自身が「集大成」と語るミラノ・コルティナダンペッツォ2026冬季オリンピックまで、まだ見ぬ新しい自分を求めて競技を続けます。
今回は、人生を通してスキーを愛し続ける、渡部選手の想いに迫ります。
※味の素(株)は、TEAM JAPANオフィシャルパートナー(調味料、乾燥スープ、栄養補助食品、冷凍食品、コーヒー豆)です。

甘かった考えも少しずつ前へ
10代の頃から、スキーノルディック複合の日本代表選手として活躍してきた渡部選手。
自身5度目となった北京2022冬季オリンピックは、悲願の金メダル獲得を目指し、“W杯の過程の中にあるオリンピック”から、大会中心に意識を変えて臨みました。
結果は個人ラージヒルと団体で、2つの銅メダル。頂点には届かなかったものの、
本人はこの結果をポジティブに受け止めています。
「目指す色ではなかったですが、2つのメダルを獲得できて良い大会になりました。集大成にしようと思って臨んだので、当時は『もうこれが最後だ』という気持ちでした。ただ、自分の中で100%納得した感覚がなかった。それが、ノルディック複合という競技をまだ続けている理由かなと思います」
そして続く2022-23シーズン。ひとつの挑戦を掲げた年でした。北京前に生まれた長男に加えて、2人目の子どもが誕生。家族との時間を大切にしつつ、子育てに積極的に参加しながら活動するアスリートのモデルケースを示したい。そんな想いがあったのです。

家族の時間を作って寄り添うことは必要
ただ、迎えたシーズンでは、世界選手権個人ノーマルヒル15位、ラージヒル18位と不振に苦しみ、3月には残りのワールドカップを欠場し、シーズンを終了することを決断した。
「練習量が減って生活スタイルが変わっても、できるだろうと考えていました。いや、本当に甘かったですね」と、振り返ります。
「反省中です。僕たちの競技は、最短でも5か月くらい家を空けなければいけなくて、競技と家庭との両立ができたとは口が裂けても言えない。
良く言って『積極的に参加』くらいですね。遠征中にテレビ電話しても、やはり家族で一緒にいる時間、子どもとの時間を作って寄り添うことは必要だなと感じました」
スキー競技は熟練でも、親としては誰もが最初は初心者。大事なのは学び続けることだと捉えて、前進を続けます。
「家庭とのバランスも最初は手探りで何もわからない状態だったので、そこに比べれば今の方がまだうまくやれているとは思います。せめて日本にいる間は、トレーニングと家族の時間をバランスよく取りながら続けていきたいと思っています」

変わる勇気を持って踏み込めば、新しい自分が見える
ミラノ・コルティナダンペッツォ2026冬季オリンピックを自身の集大成と位置付けている渡部選手。
「怪我などなく順調に行けば、あと3年は競技を続けたいと思っています。引退はずっと考えていて、コロナ禍ではスポーツをやるべきかどうかの葛藤もあった。割と前から“1年1年が勝負”と思っていて、2026年を区切りのタイミングに決めたという形です」
高校時代からトップアスリートとしての人生を綴ってきた渡部選手。その中で最大の挑戦は、「自分をより深く理解すること」だったと言います。
「最初は、ただ結果を出すだけがスポーツだと思っていたんです。でも、その過程や、記録を出せた時、出せなかった時の気持ち、競技外の取り組みなど、自分と向き合う時間が多かった。スポーツを通して自分を知っていくのが、ある意味最大の課題で、1番の挑戦だったかなと思います」
「慣れたことばかりやっていては、1歩先にいる違う表情の自分を見に行けなかったりする。変わる勇気が持てないとずっと同じところに居続けてしまいますけど、そこから勇気を持って一歩踏み込めば新しい自分をどんどん見ることができる。
それは時と場合によってすごく怖いことで、精神的にも大きな挑戦でした」
自分のことを理解して、アスリートであると同時に1人の人間として成長する姿を示したい。大切なものを大事にしながら、目標に向けて全力で挑戦したい。その先に競技生活のゴールがあると、渡部選手は考えています。
「具体的に3年後の目標を言うなら、金メダルを獲りたい。そこは変わりません。そのプロセスの中で、今までと違う自分を見せられたらと、思っています。それが、子育てへの積極参加だったり環境問題への取り組みだったりします。ただ結果を出すだけのアスリートではなく、一歩踏み込んだアスリート像を体現しながら努力していきたいです。選手として競技力を向上させながら、人間としても大きく成長して臨めたらと、今は思っています」。
※味の素(株)は、TEAM JAPANオフィシャルパートナー(調味料、乾燥スープ、栄養補助食品、冷凍食品、コーヒー豆)です。
