スポーツの舞台裏に迫る『挑戦のそばに』

スーパーGT参戦中のレーシングチーム「R&D SPORT」に所属する山内英輝ドライバー。新型のSUBARU BRZを採用した2021年にはシリーズチャンピオンに輝き、悲願のドライバータイトルも獲得。歓喜の涙を流しました。そこまでの過程には、チームから信頼を得る努力はもちろん、「ドライバーとしての覚悟を決めて挑んだレース」など、数々の挑戦があったと言います。今回は、レーシングドライバー山内さんの人生に迫ります。

『このドライバーを勝たせてやりたい』そう、思ってもらわなければならない

1998年、10歳でレーシング・カートのデビューレースで優勝を飾った山内選手。
99年には、SLヤマハカデットクラス全国大会で1位を獲得。
さらにステップアップを重ね、2005~06年からフォーミュラ・トヨタにシリーズ参戦。「F3」カテゴリーでシリーズチャンピオンなどに輝き、2011年から国内最高峰のレース「スーパーGT(GT300)」に参戦しています。
一見すると“運転するだけ”のようにも見えるドライバーの仕事内容。でも、実際はメカニックなどのチームスタッフと意見を出し合いながら“速いマシン”を作るのも、運転するのと同じぐらい重要な役割です。
「ドライバーとしては結果を出す、タイムを出すのが最も大切なポイントです。ただ、予選ではタイム、決勝になったらメカニック含めた全員で戦うので、レースでのバトルにおける技術差は出さなければいけない。マシンをより速くするためにどうすれば良いか、意見を出し合って決める。その2つが重要視される部分です」

日頃の小さなコミュニケーションこそが欠かせない要素

細かいセッティングや使うパーツの選択などを、チーム全体で話し合って決めていく。
トップレベルのドライバーは技術差があまりないため、良いチーム作りができないと結果は残せないと、山内選手は説明します。
「本当にタイヤのネジ1つ締め忘れただけで、生死に関わる事故につながるので、チームの輪はすごく重要。メカニックさんたちをリスペクトして、我々ドライバー側も『こいつを勝たせてやりたい』と思ってもらわなければならない。そこにはすごく気を遣っていますね。全然大したことじゃないですけど、ご飯を食べに誘ったり、声を掛けたりして、チームがより強くなるように心がけています」
シビアなプロの世界でも、日頃の小さなコミュニケーションこそが欠かせない要素なのです。

自身のドライバー人生をかけた戦い

今までのドライバー人生の中でも、山内選手にとって一番の挑戦だったのが、2018年のスーパーGT 第6戦GT300スポーツランドSUGOでのレースでした。
「そのレースまで、2018年は全然結果が出なかったんです。思考としては、エアロ(空力)があればあるほどコーナリングは早くなるんですけど、減らすとトップスピードが早くなる。僕たちの車はトップスピードが遅かったので、空力を減らしてコーナリングを他で補う戦略でしたが、トラブル続きでした。でも、そのレースで本当にこれ以上言ったらクビになるんじゃないかっていうぐらい、『僕たちはこう戦いたい』って強く主張して、その時だけ、全体的に変えてもらったんです」
このシーズン、第3戦以外はトラブル続きだったチーム。後がない状態で、決断したのは大幅な戦い方の変更でした。
「『これで結果出なかったら…』みたいな雰囲気でしたけど、その時にポールポジションを獲って、練習から予選・決勝まで全てパーフェクトウィンという、これ以上ない結果を出せた。あれがなかったら、僕は今ここにいなかったかもしれない。ある意味、人生をかけた戦い。僕にとっては生涯の中で、一番覚悟が必要だったレースです」
決勝では、2位に19秒差をつけ、セーフティカー導入後も、圧巻の走りを見せての完勝。レース後に山内選手とパートナーの井口卓人ドライバーは、二人で涙して抱き合い、喜びを分かち合いました。
プロとして覚悟を決めて、結果を残してきた山内選手。2021年には念願のチャンピオンに輝きましたが、翌シーズンは2位で終了。今年は再び、頂点を目指します。
「チームとしての目標はやはりシリーズチャンピオン。去年は2位だったので、王座奪還を果たせるように、今年1年頑張りたいと思います。個人的には今出場しているクラスで、最多ポールポジションという記録まであと1歩なので、歴史に名を刻めるように狙っていきたいと思います」