スポーツの舞台裏に迫る『挑戦のそばに』

東京2020パラリンピックで、走幅跳と100mのT12(視覚障がい)クラス、ユニバーサルリレーに出場した澤田優蘭選手。銅メダル(※)獲得の嬉しさと、本領を発揮できなかった悔しさ。そしてガイドランナー塩川竜平さんと共に掴んだ感謝を手に、彼女は「パラスポーツの盛り上がりを、このまま高めていきたい」と未来に歩みを進めます。今回は、一度陸上から離れながらも、復帰して日本代表として活躍する澤田優蘭選手に、人生の物語を聞きました。
※4×100ユニバーサルリレー種目にて

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目が悪いとスポーツを楽しめないんだ、と嫌いになった

澤田選手が陸上を始めたのは、中学生の時。短距離と走幅跳に興味を持った彼女は、真剣に競技に取り組み始めます。ただ、中学2年生の時に、視野が狭くなる病気が進行。当時は、走ることに恐怖心を覚えることもあったと言います。
「私の病気は網膜色素変性症という進行性の病気です。6歳の頃までは病気の症状はなく、おそらく1.5位の視力があったと思います。その後、年齢とともに視力は低下していったのですが、小学生の頃は日常生活に支障がないくらいの症状だったため、知覚障がいの認識もなかったですし、少し人より目が悪い程度。中学校まで、陸上をする上では支障を感じていなかったんです」。
病気が分かった時には、やはり複雑な心境がありました。「中学生の頃はスポーツを嫌いになりましたね。目が悪いとスポーツを楽しめないんだな、と思いました」と、当時を振り返ります。ただ、彼女の心を、スポーツを楽しみたいという衝動、出会った先生の熱い気持ちが動かします。
「高校になって盲学校に入り、私よりもっと目の見えにくい方が盛んにスポーツをやっているのを見て、衝撃を受けたんです。そこから障害者スポーツ大会に半ば強制的に出たら、見えなくても意外に走れると気付いた。それなら、もう一回チャレンジしてみたいと思ったんです。あと、私にパラスポーツをやってみないかと声をかけてくれた先生が陸上競技経験者で、私が本気でやりたいのを親身にサポートしてくれたのも大きかった。それが2007年で、たまたま翌年に北京2008パラリンピックがあったので、そこを目指して再スタートしました」。

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悩んで決意した引退。それを復帰に導いた仲間の存在

パラ競技開始から、僅か1年。見事に北京2008パラリンピックに、日本選手団最年少となる17歳で出場した澤田選手。ただ、当時はまだパラスポーツ人口が決して多くなかった日本。世界に出てみて、競技レベルの高さに驚きました。「まさにアスリートがそこに立っていました。自分は出ることが精一杯、自己ベストが出ればいいぐらいの気持ちだったので、それがすごく衝撃的でした。観客の前で堂々と記録を出す選手を間近で見て、私もこうなりたい。今度はメダルを目指してトップアスリートとしてここに立ちたい、そんな気持ちになりました」と彼女は話します。
しかし、4年後のロンドン2012パラリンピックには出場できず。大学に進学し、陸上を続けていた澤田さんですが、視力の低下が進行。一人で走りにくくなり、急にブレーキをかけて負傷するなど、思うようにパフォーマンスが発揮できない状態に悩みました。さらに当時、競技していたT13クラスの走幅跳がなくなるか揺れ動いたのもあり、大会には出られませんでした。
そして、澤田選手は大学卒業後、一度競技を離れます。それは、モチベーションを向ける先が難しくなり、悩み抜いた末に出した答えだったのです。
それでも、陸上競技に戻ってきた澤田選手。きっかけになったのは、以前の仲間の活躍でした。
「2015年にアジア大会が韓国で行われたのですが、その時にちょうど2009年のユースの大会で一緒に出ていた仲間が活躍していて、テレビでも報道されたんです。2020年、東京2020パラリンピックの開催も決まり報道も増えてきて、一緒に世界を目指そうと約束した仲間が活躍している。それを見て、『やっぱり私はここで戦いたい』という気持ちが湧いてきて、すぐに復帰を決めました」。
そのためにも重要だったのが、自身の目の代わりを担ってくれる存在。それは、ガイドランナー塩川竜平さんとの出会いにより解決します。
「2012年くらいまでは、T13クラスでやっていたのですが、視力の低下もあり、T12クラスに競技クラスを変更して競技を再開したんです。最初はアシスタントしてくれる人さえいれば出場できる、走幅跳だけに取り組んでいました。一方の短距離は、走るならガイドランナーが必要。でも、身近にそんな環境もなかったので、100mは走らなかったんです。しかし、体幹やフィジカルを鍛えるためにパーソナルトレーニングをしたいと先生に相談したところ、紹介していただいた接骨院でガイドランナーの経験を持つ塩川さんに出会った。流れの中で、トレーニングを見てもらいつつガイドしてもらうという感じで、私たちの挑戦がスタートしたんです」
強力なサポートを得て、彼女は再び未来を目指すことになったのです。

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