スポーツの舞台裏に迫る『挑戦のそばに』

2012ロンドン、競泳100m背泳ぎで銅メダルを獲得した寺川綾さん。現役“卒業”後は、水着デザイナーやスポーツキャスターなどとして活躍。選手時代の経験を元にした「アスリートの気持ちに寄り添う」取材で、様々な競技の魅力を世間に伝えています。今回は、素敵な笑顔を忘れない寺川さんから見た、報道する難しさ、スポーツが感動を呼ぶ瞬間などについて伺いました。

興味からやりがいへ

2016年からTV番組のスポーツキャスターを務める寺川綾さん。アスリートから報じる側への転身。戸惑いはなかったか聞くと、「まだ慣れないです(笑)」と屈託のない笑顔で笑いました。そんな自然体の寺川さん。彼女が取材で心がけているのは、「アスリートの気持ちに寄り添う」ことだと言います。
高校生だった2000年に日本代表入りし、女子競泳背泳ぎのトップ選手として長く活躍してきた寺川さん。2013年の現役“卒業”後は、所属するミズノで水着のデザイン、水泳教室などに参加。そして今、大きなウェイトを占めるのがスポーツキャスターの仕事です。
「私はずっと“できません”って断ってたんです(笑)。テレビも苦手で、どちらかというと避けて通ってきたので。でも、所属していたミズノの方々から『そんなチャンス自体、もらえる人が少ないのだから、チャレンジして様々なことを勉強してみれば』と言われて、ご縁をいただいた形です」。
選手からメディアへの転身。今までは、質問に答えるだけで良かったのに、テレビという時間が限られた中で、大切な情報を詰め込んで伝える。これまでと全く違う環境の中、手探りで始めた仕事は、たくさん苦労もありました。しかし、経験を重ねた今は、やってきて良かったと思えるライフワークになっています。
「もうキャスターの仕事のない生活が逆に考えられないというか、それが日常になっているので、やりがいを感じています。私は水泳に育てていただいて、水泳の世界しか知らなかった。それが引退してから、たくさんのスポーツの方とお仕事させていただいている。様々な競技を知り、たくさんのアスリートの話を聞けるのが、こんなに楽しいのかと今は感じています」。
新たな環境に身を置き、寺川さん自身の中にもまた新たな発見がありました。

アスリートの本心を自然に引き出し、その声を聴く

そんな寺川さんは、自身がアスリートだった経験からも「選手を傷つけない聞き方が、すごく大切だと思う」と語ります。
「現役時代にたくさん取材していただいて、“こういう風に言われるの嫌だな”とか“答えたくないのにな”とか、嫌だった思い出もいくつかあります。だから私が取材する時は、いかに選手に気持ちよく本心を話してもらえるかを考えています。質問案通りに聞かないから指示出しされるんですけど、見ないふりしたり(笑)。皆さんが聞きたい答えを、その選手が傷つかないように引き出せばいいなと、葛藤しながらやっています」。
自分なりの配慮で進める取材。それはプロのキャスターとは違った、元選手である彼女ならではの思いやりかもしれません。そして特に、新型コロナウイルスに悩まされたこの数か月、難しい状況の中で一生懸命こらえる選手たちの姿を見て、様々な想いが巡りました。
「今までは当たり前のように試合があって2020に向けていくところが、ゴール目の前で、急になくなった。今はスポーツどころじゃないと感じている方もいらっしゃるはずだし、スポーツのあり方を考えさせられるシーズンでした。でも、私は思うんです。“こんな時だからこそ、スポーツなんじゃないかな”って」
「やっぱり誰か活躍したとか、海外に行った選手が頑張っていると、暗いニュースが多い中でも、明るい光が射す。渦中の選手は色々なことに気を遣いながら本当に大変だと思いますが、頑張って欲しいです」。
選手のことを一番に考え、彼らの声を聴き続けてきた寺川さん。だからこそ綴られるその言葉からは、心からアスリートを応援したいという気持ちが溢れていました。