スポーツの舞台裏に迫る『挑戦のそばに』

今回は右代啓祐選手。一人の選手が2日間で10種目をこなす過酷な十種競技において、日本史上最高の選手であり、2011年には壁とされていた8000点台を突破(8073点)。日本選手権では過去10年間で6連覇含む8回優勝と、現役ながらすでに伝説とされるスーパーアスリートです。しかし、「大学時代まではたいした選手じゃなかった」と語る右代選手の、努力なしにはあり得なかった頂点への歩みに迫ります。

肉体的にも精神的にも成熟した“キング・オブ・アスリート”

“キング・オブ・アスリート”、陸上十種競技の優勝者は、最大級の敬意を込めてそう呼ばれます。その内容は、聞くだけでも『超ハード』。1日目に行われるのが100m、走幅跳、砲丸投、走高跳、400m。2日目は110mハードル、円盤投、棒高跳、やり投、そして最後に1500m。この10種目の各記録を得点に換算し、優勝者を決めるのが十種競技です。
2日間にわたる戦いで試されるのは、競技力だけではありません。どんな天候にも対応するタフネス、体調管理、集中力の持続、少しぐらい失敗しても切り替えられる前向きな気持ち、あらゆる要素を揃えなければ結果は出せません。まさに肉体的にも精神的にも成熟した“アスリートの王様”。それが十種競技の王者なのです。
この競技で、日本史上最強の選手と言われるのが右代啓祐選手。自己ベスト8308点は現在の日本記録。アジア大会でも2大会連続で金メダルを獲得、アジアの“キング・オブ・アスリート”の称号を手にしました。その功績が評価され、2016リオでは日本代表選手団の旗手も担当。十種競技の魅力を右代選手は、こう語ります。
「2日間、最後まで集中を切らさず、10種目を正確にこなしていくのが非常に大事な競技です。その戦いの中で選手同士の仲間意識が生まれ、選手と観客を巻き込んで試合を作る、そんな瞬間があります。選手同士でお互い励ましあいながら、人間のギリギリのさらに先まで追い込むので、終わった後は動けなくなりますが、どんな記録だったとしても、言葉にできないぐらいの達成感があります」
最終競技の1500mを走る時、観客がトラックの脇まで下りてきて応援したり、終了後に敵味方関係なく全選手で手をとりあったり、陸上競技の中でも扱いは特別。ひとりで乗り越えられない苦難も、全員で乗り越えていく。それが十種競技最大の魅力と言えるでしょう。

コンディショニングの重要性とサポートへの感謝

身体にも大きな負担がかかる十種競技。それだけにコンディショニングは競技における、もっとも重要な要素のひとつです。
「能力が上がればパフォーマンスもあがり、体への負荷は大きくなります。だからリカバリーはとても大切。競技と競技の間の栄養の取り方など、様々な工夫をしています。例えば大事な試合の1時間前にアミノバイタルを摂って、競技と競技の間で時間が空いたときにおにぎりを食べるなど、展開にあわせて補食を変えています」と、常に摂取するものがパフォーマンスに直結することを右代選手は話してくれました。
しかし実は、右代選手も若い時はあまり体調管理を丁寧にしていなかったとのこと。「年齢が20代後半から30代に入るにつれて、食べるタイミングや食材選びなど、栄養の取り方はかなり気を配るようになりました。リカバリーには栄養と休息が必要。その軸がぶれなければ誰より元気な体で競技に入れるので、おろそかにできない。誰よりも最先端のことを取り入れて、若い選手をリードしてこそ、勝ち続けられると思っています」。
食事はお米よりおかず中心、良質な油を料理に使う、朝晩必ず体重計に乗るなど、体にいいことは積極的に取り入れる右代選手。「常にひとつに固執するのではなく、自分に良いか悪いかを選択するようにしています。その中でトレーナーさんに意見を聞いたり、自分ができないことは思い切りサポートしてもらう。その代わり、自分はしっかり結果で応える。そういったサポートしてくれる方々のおかげで、何度も日本一になれたと思っています」と、周囲への感謝を表しました。