挑戦のそばに

陸上/山縣亮太選手マネージャー
瀬田川歩
前編

陸上 山縣亮太選手マネージャー 瀬田川歩(セイコー社員)

山縣亮太選手と瀬田川歩さん(セイコー)

陸上 山縣亮太選手マネージャー 瀬田川歩(セイコー社員)

スポーツを支える人、舞台裏にスポットを当てる『挑戦のそばに』。今回は、陸上短距離で日本を代表するスプリンター山縣亮太選手、女子100m・200mの日本記録保持者の福島千里選手のマネージャーを務める瀬田川歩さん(セイコー)。選手が競技に集中できる環境を作り出すため、スケジュール管理から備品調達まで様々な仕事をこなす瀬田川さん。その忙しさも、「選手と一緒に見られる光景があるから」苦にならないと語ります。選手とともに歩むマネージャーから見た、“選手を支える意義”を伺いました。

多数のタスクの中でも「やりたいことをやっているから刺激的で楽しい」

瀬田川歩

信頼し尊敬できる友人と共に、世界を目指して挑戦を続ける。良くても悪くても結果を受け入れ、悔しさから喜びまで分かち合う。実際、社会へ出ると、そんな仕事に巡り合うことは滅多にありません。陸上100mで世界のファイナリストを目指す山縣亮太選手。その挑戦を裏で支える瀬田川歩マネージャーは、そんな夢溢れる職業についた一人です。

陸上選手のマネージャーと言っても、業務内容は多岐にわたります。「私の業務は、大きく2つ。1つは、記録を計測したり映像を撮ったりする練習のサポートや、大会エントリーにホテル・移動手段の手配など“競技に関わること”。もうひとつが“競技に関わらないこと”で、マスコミとのやり取りやスポンサーとの調整、日本陸上競技連盟との折衝などです」。

日本の陸上選手の場合、複数人が所属する実業団チームに所属するケースが多いです。しかし、山縣選手が在籍するセイコーは、ひとりのマネージャーが練習サポートからイベント内容の調整まで行うため、その業務は多忙を極めます。

「私がやらないのは、練習内容を考える、栄養について管理する、治療・ケアをすることでしょうか。もちろんたくさんの方にお力添えをいただいているのですが、できる範囲では何でもやるスタンスです。基本的には何でも屋ですね(笑)」。しかし、その大変さを聞くと、瀬田川マネージャーはこう答えます。「やりたいことをやらせてもらっている気持ちが大きいですし、事務作業ばかりでなく人とのお付き合いがある仕事なので、刺激的で楽しいです」

何がやりたいのか自問し、行動した先に見つけたやりがい

山縣亮太選手 瀬田川歩

選手と1対1で向き合うマネージャー。お互いに信頼関係がなければ、続かない仕事と言えるでしょう。しかし、それも瀬田川マネージャーが現職に就いた経緯を聞けば、理解できる気がしました。中学・高校と陸上選手だった瀬田川さんは、慶応義塾大学入学とともにマネージャーへ転身。約150人の選手を約10人ほどのマネージャーで見る中、頭角を現してきたのが山縣選手。4年生時には瀬田川さんが主務、山縣選手が主将として部を引っ張りました。

山縣亮太選手 瀬田川歩

転機が訪れたのは、2015年。就職活動の時です。瀬田川さんは一般企業への就職が内定。一方の山縣選手はセイコーホールディングス㈱入社が決まるも、そこには陸上部がなく、陸上選手を抱えるのは初の試み。「きっと山縣選手が活動するためのノウハウを持った人がいるのだろう」と思っていた瀬田川さんは、卒業直前の1月になってもマネージャーが決まっていないと聞き、「もしかしたら自分ならマネージャーをできるかもしれない」と考えて、山縣選手に相談して自ら名乗り出ました。

そして卒業後から山縣選手マネージャーとしての活動が始まり、現在はセイコーホールディングス(株)の社員としてマネージャー業を続けています。大学卒業から現在まで、マネージャーとして生きる決断に不安や迷いはなかったのでしょうか。

「不思議ですが、社会人になってからもマネージャーを続けることに不安はありませんでした。もちろん一般企業に就職すれば、ある程度決められたステップと収入があるのでそう言った意味では迷いはありました。しかし、どちらがやりたいか考えると、共に頑張ってきた親友がプロとして活動する時、一番近くでサポートできて、世界で戦ったり日本記録を出せる現場に携われる。そんな機会は他だと絶対にないし、それは誰もが得られるチャンスじゃない、と思ったんです」。そして掴んだ現在の職業は、苦労や試行錯誤を繰り返しつつも充実感に溢れています。

瀬田川歩

「やりがいはたくさんありますね。例えば、会社の人と一緒に一喜一憂できたり、サポートしていただいている企業さんから応援してもらったり、そんな色んな信頼関係を直接感じられるのもやりがいのひとつです。そして何より、選手が結果を出した瞬間は何にも代えがたい。トレーナーやケアする人たちは、試合直前まで選手のサポートができるかもしれませんが、私たちマネージャーは二次的・三次的なサポートしかできません。レース中に追い風作るために後ろから団扇で扇いでいいならやりますけどね(笑)、直接的な助力行為ができないんです。だから、一緒に戦ってきた仲間が結果を出した瞬間は、その苦悩も知っているからこそ共感できる部分が大きい。それが最大のやりがいです」。

選手とともに歩み、共感する。そこにあるのは、信頼関係を越えた“絆”なのかもしれません。

2019年8月

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