対談インタビュー 松田丈志×アスリート VICTORY ROAD

鳥海連志(車いすバスケットボール)が語る金メダルへの道
「本当に負けず嫌いなんです」

勝利のために。トップアスリートは試合に勝つため、世界に勝つため、自分に勝つために、日々たゆまぬ努力を続けている。本連載「ビクトリーロード」では、さまざまなアスリートがこれまで歩んできた、そしてこの先に思い描く「勝利への道筋」をひもとく。聞き手は、自身も競泳選手として北京2008オリンピック、ロンドン2012オリンピック、リオデジャネイロ2016オリンピックで4つのメダルを獲得してきた競泳の元日本代表選手で、現在はコメンテーターなど幅広いジャンルで活躍し、味の素(株)の栄養プログラム「勝ち飯®」アンバサダーの松田丈志が務める。

第2回の対談相手は、車いすバスケットボールで活躍する若き精鋭、鳥海連志。17歳の時、日本チーム最年少の選手としてリオデジャネイロ2016パラリンピックに出場した。

自他ともに認める、負けず嫌い。車いすバスケットボールを始めた当初から、悔しさをバネにして成長する喜びを積み重ねてきた。鳥海の持ち味は、抜群のチェアワーク(車いす操作)とそのスピードだ。そびえ立つような海外選手の間をすり抜けゴールへと突進していくプレーで、近年急増する車いすバスケットボールファンを魅了している。

「東京2020パラリンピックでの金メダル」。

目標を口にしたからには、絶対にこの手でつかむ。松田に語った、鳥海の決意とは――。

初めて出場したリオ2016パラリンピックで「燃え尽きた」

松田:そもそも車いすバスケットボールを始めたきっかけは何ですか?

鳥海:中学校の女子バスケットボール部監督の先生が、車いすバスケットボールの審判をやっていて、やってみないかと誘われたんです。

松田:地元、長崎ですよね。それまではスポーツはやっていなかった?

鳥海:中学ではテニスをやっていました。でも、父も母も兄も全員バスケをやっていた中で、車いすバスケットボールに出会ってドハマリしました。

松田:ドハマリした理由はなんだったんですか?

鳥海:小学校ではサッカーなど一緒にやっていましたが、どうしてもできないことがあって、友だちが遠慮していることを感じることもありました。でも、車いすバスケットボールだったら、遠慮なしに選手としてスポーツができた。それが良かったんです。

松田:やっと出会えた、みたいな感覚だったんですか?

鳥海:自分は本当に負けず嫌いなんです。初めて練習を見に行かせてもらったとき、競技用の車いすに乗せてもらいました。初めてなのに、先輩のスピードやシュートの正確性についていけないことにすごく悔しさを抱きました。その悔しさが、今につながっています。

松田:そこからはもう、一心不乱に実力を伸ばしていったのですか?

鳥海:本当に練習にのめりこみました。クラブチームの練習が週に3回あって、もう1つ長崎にあったクラブチームの練習にも週2回ほど行って。ほぼ毎日バスケットができるような環境を作ってもらっていました。

松田:そして、高校3年でリオ2016パラリンピックに出場しました。どんな経験でしたか。

鳥海:ひと言で言うと、本当に悔しい大会でした。選ばれた時点で「自分でいいんだろうか」と感じていました。実感がないまま現地に入ったのですが、意外と、他の大会と変わらないと感じて。だからこそ、悔しさがズドンと入ってきたのかなと思います。

松田:純粋に実力の差を感じたということ?

鳥海:海外との実力差は本当に大きなものがありました。終わってから、燃え尽きたように、バスケットのことを考えられないくらい、底に落ちてしまったんです。

松田:「落ちてしまった」というのは?

鳥海:何だろう。それまで競技に懸けていた思いや時間があっけなく終わってしまった感じがして。楽しいし、バスケが好きっていう気持ちはあるのに……うーん、難しいですね……。

松田:いや、わかります。オリンピックなどの勝負の瞬間というのは、けっこうサラッとくるんですよね。自分ではいろいろなことを考えて準備をしても、意外とスッと始まってスッと終わってしまう。僕も、最初に出場したアテネ2004オリンピックで同じようなことを感じたかな。最初の大会ってイメージができないじゃないですか。一生懸命、準備をするんだけれど、やってみなきゃわからない。でも、スポーツなので勝者と敗者、メダルを取る人と取れない人がいて。勝負の「あっけなさ」って、ありますよね。

チームの一体感をどう勝負に生かしていくか

松田:一方で、自分に足りないところ、ポジティブに言えば「伸びしろ」も感じたと思うんですが、一番感じたのは?

鳥海:シュートの精度ですね。試合の入りや、大事な場面での得点力というのが自分には全然なかった。あとは、勝負どころでの力強さ。ワンプッシュの爆発力であったり、パス、シュートの精度、全ての正確性や爆発力というのを、本当に見せつけられました。だからこそ、日本人である僕たちはそれを上回っていかないといけないということを、本当に感じました。

松田:その後、代表での役割やポジションも徐々に確立されてきたんでしょうか?

鳥海:代表の及川晋平ヘッドコーチと毎日、SNSを使ってやり取りをしています。コートに立つ5人の中での自分の役割、この場面での役割はどうだろう、というようなことを毎日話していくなかで、気付きだったり、勘だったり、コツだったりというのは徐々につかめてきたかなと。

松田:毎日やり取りしているんですか!? それはすごいな。チームの一体感がありますね。

鳥海:よく代表選手同士の会話の中で、「クラブチームよりクラブチームらしいね」って言い合っています。

松田:いいですね。代表チームでの活動は楽しいですか?

鳥海:楽しいです。合宿で紅白戦をするんですが、そこでファイトしあうのも好きですし、終わった後に相手チームの選手が「あのプレーはいやだったよ」とか、お互いを伸ばし合うようなコミュニケーションがすごくあって、そこが好きです。

松田:今年8月には世界選手権がありました。でも、残念ながらそこでもリオ2016パラリンピックと同じ9位でした。

鳥海:世界選手権では、予選リーグの入りはすごくよかったんです。チームを盛り上げる雰囲気があって、リオ2016パラリンピックで負けたトルコにも快勝できました。戦略も含め、自分たちのシュートの成功率や力強さに、自分の中では大きな手応えを感じました。でも、決勝トーナメントで負けてしまった。決して気を抜いたわけではありませんでしたが、へし折られた。世界はやっぱり甘くない、と痛感しました。

松田:10月には、アジアでの世界大会があります。世界選手権の経験を踏まえて、どんな大会にしたいですか?

鳥海:やっぱり優勝です。しっかりと勝ちきること。そこを目標としています。

フィジカルのために「110パーセント」の食事量を目指す

松田:食事や体作りについても聞かせてください。日本体育大学に進学してから一人暮らしを始めたんですよね。

鳥海:はい。食事への意識が変わったのは一人暮らしを始めてからですね。高校までは実家で暮らしていて、母が料理を作ってくれて、出してもらったものを食べていました。一人暮らしだと、何を作るか、どういう栄養を取るか、タイミングはどうするか、それら全てを自分で管理しなくてはいけないので、やはり意識が変わりました。

松田:栄養面でのアドバイスや商品提供など味の素さんのサポートがあると聞いていますが、自炊はしていますか?

鳥海:「Cook Do®」をよく使います。

松田:何よりです(笑)。3食作っているんですか?

鳥海:夜はクラブチームのメンバーと一緒に外食することが多いのですが、家にいる時間はなるべく作るようにしています。

松田:僕はほぼ自炊をしないので、練習をしながら食事を作っているアスリートは本当にすごいと思います。世界の舞台に立って、食事や栄養管理の必要性を感じたのかな。一番気をつけていることは?

鳥海:「110パーセント」です。お腹がいっぱいな状態を100パーセントとして、そこから10パーセント増量すること。フィジカル的にもこれから上げていかなきゃいけないので、しっかり食べることを意識しています。

松田:おお、僕なんてどんどん太っていっちゃうから60パーセントくらいにしないといけないのに。うらやましい(笑)。食べる内容は意識している?

鳥海:合宿中はバイキング形式なので、できるだけ多くの食材で、栄養バランスを取ることを意識しています。そのうえで、110パーセント。あと、僕は食べるのが遅いんですよね。(合宿では)食事の時間も決まっているので、練習が終わったら早く着替えて、早く準備して、早くご飯を食べて、というところも心がけています。

松田:それだけしっかり食事をとって練習していたら、体は変わってきたんじゃないですか?

鳥海:リオ2016パラリンピックの頃と比べて、5キロ増えました。

松田:筋量で5キロはすごい! プレーも変わりましたか?

鳥海:海外の選手に比べると体重が軽いので、吹っ飛ばされてしまうことが多かったんですけれど、最近はそれほど当たり負けしなくなってきました。もちろん技術が上がってきたこともあるので、単純に体重だけではないのですが、そこは実感します。

松田:いわゆる「補食」はどう活用していますか。

鳥海:「アミノバイタル®」を練習の前後に摂っています。あとは、遠征に行く際はフライトの機内が乾燥していて体調のケアが難しいので、そういうときに「アミノバイタル®」プロを飲んでいます。

コミュニケーションがいいプレーにつながっていく

松田:体作りと同時に、メンタルトレーニングもしていると聞きました。どんなことをやっているんですか?

鳥海:毎日、自分が感じた“感情”を振り返って、ノートやパソコンに記録しています。例えばファウルじゃないと思ったのに、審判に笛を吹かれてしまってイライラしてしまったとします。その後、その感情を次のプレーにどうつなげていったかについて、記録しておくんです。

松田:データとして残しているんだ。効果は感じますか?

鳥海:気持ちが切り替えられるようになりました。

松田:団体競技では重要ですね。水泳は1つのレースで完結するので、1レースのなかで一喜一憂することってあまりないんですよ。

鳥海:松田さんに、ぜひお聞きしたいことがあるんです。大きな大会で、メダルが懸かった試合前の感情はどんな風にコントロールしているのですか?

松田:鳥海選手はどういう感じですか?

鳥海:自分が思っていることと、コートに立つメンバー、ベンチにいるメンバーの「共通意識」がないと、いいプレーは生まれない。だから、自分はコミュニケーションを多く取るように心がけています。人間観察というか、周りの感情の動き、雰囲気を感じることが、いい試合の入り方につながると感じているんです。

松田:うん。それでいいんじゃないかな。僕は、リオ2016オリンピックのリレーの時は32歳で、一緒に泳ぐ3人は10歳くらい若かった。1人は金メダル経験がありましたが、他の2人はメダルを取ったことがなかったので、この2人をどうケアしていくかをすごく意識していました。彼らが考えている「本当はこうしたい」という言語化されていない部分が、話をしているなかでぽろっと出てくる瞬間があるんです。それに、話し合うことで緊張がまぎれますよね。自分とだけ向き合っていると「どうしよう、どうしよう」と視野が狭くなってしまう。今、手応えを感じているその入り方で、すごくいいんじゃないかと思います。

鳥海:ありがとうございます。試合前だけでなく、選手ミーティングを開いたり、キャプテンが各部屋を回って何か悩んでいないか、どんな感情かを探りに来てくれたりもするんです。世界選手権のときにも、そういうコミュニケーションは心強かったですね。

松田:僕も代表チームでキャプテンをやった時に、みんなの話を聞くことを心がけていました。たとえば、悩みが練習場所やスケジュールのように変えられる可能性があるものなら、チームスタッフに掛け合って改善していける。そういうことでチームとしてのまとまりは出てくるんですよね。ディスカッションして、どんどんお互いに言い合って、いいチームを作っていったら、もっともっと強くなるんじゃないかなと感じました。

鳥海:そうですね。自分は今、本当にいろいろな経験を通じて、楽しみながら日本代表の合宿や遠征ができているなって思います。

松田:あらためて、東京2020パラリンピックに向けた目標は?

鳥海:金メダルを目標にしています。本当は、そういうことを言葉にするのはあまり好きじゃないんです。でも、そこを目標にしているからこそ、「金メダルを取ります」と言っていかなければいけないと思っていますし、口にしたことで、日ごろの意識や競技に懸ける思いにつながっていく。ぶれずにいきたいなと思います。

松田:期待しています。頑張ってください!

(文中敬称略)
※味の素㈱は、東京2020パラリンピックオフィシャルパートナー(調味料、乾燥スープ、アミノ酸ベース顆粒、冷凍食品)です。

写真提供:AFLO、© Moto Yoshimura/Getty Images
文:宮崎恵理
撮影:松尾憲二郎

プロフィール

鳥海連志(ちょうかい・れんし)

1999年2月2日生まれ。長崎県出身。地元・佐世保WBC(車いすバスケットボールクラブ)で競技を始める。リオ2016パラリンピックに、日本選手団の最年少である17歳7カ月で出場した。当時17歳で日本代表の最年少メンバーとしてプレーした。大会後、長崎県立大崎高等学校を卒業し、日本体育大学への入学を機に上京。以降はパラ神奈川SCに所属し、日本代表チームでも引き続き主力メンバーとして活躍している。金メダル獲得を目指す東京2020パラリンピックでも大きな期待が集まる。

松田丈志(まつだ・たけし)

宮崎県延岡市出身。4歳で地元・東海(とうみ)スイミングクラブに入会し水泳を始める。北京2008オリンピックにて200mバタフライで銅メダルを獲得。この活躍が認められて宮崎県民栄誉賞と延岡市民栄誉賞を受賞。ロンドン2012オリンピックでは200mバタフライで銅メダル、400mメドレーリレーで銀メダルを獲得。リオ2016オリンピックで800メートルリレーのアンカーとして銅メダルを手にしたのち引退。現在は、コメンテーターなど幅広いジャンルで活躍。味の素(株)の栄養プログラム「勝ち飯®」アンバサダーという一面も。

鳥海連志選手を大解剖!食にまつわる14の質問
Q1
好きな食べ物・嫌いな食べ物は何?
好きな食べ物は母親の作るギョウザ。嫌いなものは、100%からの10%。
Q2
子供の頃の好きな食べ物・嫌いな食べ物は何?
変わらないですね。ギョウザが好きでした。嫌いだったのは野菜でしたかね。今は大丈夫です。
Q3
懐かしの味といえば?
おじいちゃんとおばあちゃんが漁師なんですよね。アジのフライだったり、伊勢えびを茹でてくれるんですけれど、こっちじゃ食べられないんですよね。高いし(笑)。なので、懐かしいです。すごいうまいです。
Q4
鳥海選手の得意(もしくは作ってみたい)料理は?
「Cook Do®」を使った料理ですね。
Q5
忘れられない、思い出の食事は何?
小学校の頃に、父が仕事でいなかったんですよね、家に。母と兄と3人で暮らしているときに、よく母も仕事しながら家事もして、子供たちの面倒も見ながら、とても大変だったと思うんですけれど、料理にはしっかりと向き合ってくれたというか、しっかりと食べさせてくれて。チャーハンが多くてですね、3人でチャーハンを食べていたのがすごく印象に残っていますね。
Q6
大会で勝った時のご褒美飯は?
焼肉ですね。
Q7
一番好きなおにぎり具材は?
塩が一番好きです。シンプルに。
Q8
朝食はパン派?ごはん派?
ごはん派です。
Q9
好きな味噌汁の具材は?
豆腐。
Q10
(大会での遠征中)「勝ち飯®」献立で、一番気分が上がる献立は何?
スープ系は味の素さんからいただいたもので、すごく活用していますし、大会後半になってくると、栄養が偏ってきたりするので、「鍋キューブ®」だったりも活用させてもらっています。
Q11
ゲン担ぎ飯は何?
やはり白飯ですね。日本人なので。
Q12
お弁当の好きな具は?
アスパラガスをベーコンやお肉で巻いたやつ。
Q13
給食で好きだった食べ物は?
ちゃんぽんですね。おいしかったです。
Q14
大学の学食で好きなメニューは?
からあげ定食。
記事一覧に戻る