対談インタビュー 松田丈志×アスリート VICTORY ROAD

「苦手を塗りつぶして武器にする」瀬戸大也
(競泳)が語る金メダルへの道

勝利のために。トップアスリートは試合に勝つため、世界に勝つため、自分に勝つために、日々たゆまぬ努力を続けている。本連載「ビクトリーロード」では、さまざまなアスリートがこれまで歩んできた、そしてこの先に思い描く「勝利への道筋」をひもとく。聞き手は、自身も競泳選手として北京2008オリンピック、ロンドン2012オリンピック、リオデジャネイロ2016オリンピックで4つのメダルを獲得してきた元日本代表選手、現在はコメンテーターなど幅広いジャンルで活躍し、味の素(株)の栄養プログラム「勝ち飯®」アンバサダー松田丈志が務める。

第1回目は、松田と同じ競泳界から瀬戸大也。初めて日の丸を背負った国際舞台で手にした勝利と、リオデジャネイロ2016オリンピックでの不本意な敗北。決して忘れられない2つの思いが、今の彼を突き動かす原動力だ。

家庭を築いたいことで自身の“身体”に対する意識は大きく変わり、トレーニングへの取り組み方も変化しつつある。大きな目標を達成するために必要なのは、“理想の自分”を知り、それを体現するための身体を手に入れること。東京2020オリンピックを2年後に控えた今、競泳界の有力な金メダル候補に挙げられる瀬戸は順調な歩みを進めている。

「絶対に金メダル」

そう力強く話す彼の思いに、よき“先輩”である松田が迫る。

あの試合で勝てたから、自信を持つことができた

松田:大也と初めて会ったのは……。

瀬戸:最初のコンタクトは2002年のパンパシフィック水泳選手権です。当時8歳だった僕は、憧れの丈志さんが泊まっていたホテルで“出待ち”をしました。一緒に写真を撮ってもらったんです。

松田:いやあ、さすがに覚えてない。でも8歳で国際大会を見に来て、選手のホテルまで乗り込んでくるんだから根性が座っていますよ(笑)。

瀬戸:丈志さんが僕のことを知ってもらえたのはいつ頃ですか?

松田:福岡で全中(全国中学校水泳競技大会/09年大会)があったでしょ?雑誌の記録ページに名前があったから存在は知っていたけど、あの大会で大也たちが泳ぐ姿を実際に見て「とんでもない若手が出てきたな」と思った。

瀬戸:自分が初めて日本代表に入ったのが13年バルセロナでの世界水泳選手権で、宿泊先で同部屋だったのが丈志さんなんですよね。かなり緊張しました。

松田:初めて一緒に生活してみて、「自分を持っている選手だな」と思ったよ。本番が近づくほど集中力を高めていく様子が伝わってきたし、爆発力があるなと思った。実際、俺は準決勝で負けちゃったのに、大也はいきなり金メダルを持って帰ってきたでしょ。

瀬戸:いやいや(笑)。僕にとっては、あの大会が「忘れがたい勝利」なんです。初めての日本代表で勢いしかなかった自分が、あの試合で勝てたことで自信を持つことができました。レースが終わって深夜1時くらいにホテルの部屋に戻った時、寝ないで待っていてくれた丈志さんが「おめでとう!」と言ってくれたんですよね。あれ、めちゃくちゃ嬉しかったです。

久しぶりに「負ける気がしない」と思えた

松田:あのレース、勝てる予感みたいなものはあった?

瀬戸:大会直前の合宿でタイムが上がってきて、「これなら勝てるかも」という雰囲気はありました。200m個人メドレーの準決勝でベストタイムを出すことができたので、400m個人メドレーの当日も朝起きたときから「イケそうな気がする!」と思っていたんです。

松田:ここぞという場面での集中力と爆発力は、本当にすごいと思う。

瀬戸:いやいや。あの時はただ、とにかく楽しくて「早く泳ぎたい!」という感じでした。僕自身、あの大会を機に「世界で戦う」というはっきりとした意識を持てた気がするし、合宿やレース当日までの過ごし方や身体の作り方、「自分をどういう状態に持っていけば勝てるのか」がなんとなくわかった気がします。身体はどんどん変わってくるから同じやり方はできないけれど、あの時の感覚をベースにしたい、あの頃の新鮮な気持ちを忘れちゃいけないと思っています。

松田:じゃあ、初めての大舞台に対する緊張はほとんどなかったんだね。

瀬戸:代表選考が懸かった日本選手権のほうが、いつも緊張します。ロンドン2012の選考会で苦い経験をしているので。

松田:確かに、大也の場合は選考会よりも“夏に調子を上げる”という流れができているよね。

瀬戸:「あとはやるだけ」という状態になれば、どんな大きな舞台でも楽しめる気がします。やっぱり、そういう状態になると結果が出ますよね。

松田:この間(5月24日)のジャパンオープンもすごかった。特に優勝した400m個人メドレーは「また急に調子を上げてきたな」という感じ。あの時期に4分8秒98というタイムを出せるなら、夏には自己ベスト更新も見えてくるんじゃないかなと。

瀬戸:あの日は24歳の誕生日だったんですが、なぜか、久しぶりに「負ける気がしない」という感覚がありました。今年は、自己ベスト更新と長水路での日本記録更新を目標にしています。それに向けて、すごくいいレースができたと思います。

“苦手”に対して積極的に取り組む

松田:ちなみに、初めてのオリンピック(リオ2016)でも緊張はしなかった?

瀬戸:緊張して眠れないのかなと思っていたんですけど、前日も普通に爆睡しました(笑)。

松田:やっぱりすごい(笑)。レースの出来としてはどうだったんだろう?400m個人メドレーは銅メダルという結果だったわけだけど。

瀬戸:やっぱり、まだまだ未熟だなと思いました。僕の場合、調子がいい時は予選からタイムが良くて、そのままの勢いで決勝を戦うというのがスタイルだと思っていたんです。だから、オリンピックでも予選から勝負に出ました。でも、あの大会はやっぱり特別で、雰囲気が違う。金メダルを狙うならもっと戦略的に戦わないといけないし、予選はもう少し抑えるべきだったと思います。

松田:その経験によって、練習方法や考え方が変わったところは?

瀬戸:とにかく、どんな舞台でもちゃんと力を発揮できるだけの地力をつけようと考えるようになりました。一番大きく変わったのは、“苦手”に対して積極的に取り組むこと。それまでは「このくらいでいいかな」と思うところがあって、それが自分のダメなところだと気付きました。本当につい最近のことなんですけど、4月の日本選手権以降、“苦手を塗りつぶす”ことでそれを自分の武器にしようと考えています。

松田:具体的には?

瀬戸:僕の場合、いいタイムが出た時ほど、次のタイミングでガクンと落ちることが多くて。だから、いいタイムが出た次の1本こそ、もう一度気持ちを入れて泳ぐ。最近では“準備”にも気を使っています。練習が始まる1時間前に来て、ストレッチと筋力補強のトレーニングをする。最後は必ずクールダウンをする。性格的には面倒くさがりなので、まずは、そういうところからきっちりやるように。

松田:やっぱり、地道な努力こそすごく大事だと思うよ。

瀬戸:はい。そういう意識を持つことで、全体的な練習の質が上がってきた気がします。やっとアスリートらしくなってきました(笑)。

松田:集中力や爆発力という武器はそのままに、それ以外のところも伸ばしていく、と。

瀬戸:そうですね。苦手な部分を塗りつぶせた人が東京で金メダルを取れると思っているので、本当にやりつくして、東京2020のスタート台に乗ったときに「これ以上やれることはない」と思えれば、自分は絶対に負けないと思います。

知識よりも意識が大切

松田:練習の質が上がってきたことで、身体作りに対する意識も変わってきた?大也には“感覚派”みたいなイメージがある気がするけれど、実はトレーニングの内容やコンディション管理について、専門的なスタッフと細かくやり取りをすることも好きだよね?

瀬戸:自分はあくまで“泳ぐ専門”だから、その他の部分では専門家の力をお借りしたほうがいいと思っています。普段から国立科学スポーツセンターという素晴らしい環境で練習させてもらっているので、やっぱり、使えるものをフルに使って、自分のプラスにしたいなと。

松田:僕も見てきたけれど、泳ぎの分析やテクニックの1つ1つにすごくこだわっているよね。じゃあ、例えば食事の面では?

瀬戸:はい。最近は「ビクトリープロジェクト®(※)」のスタッフさんにアドバイスをいただきながら……というか、ほとんど奥さんがコミュニケーションを取ってくれているので、僕自身はあまり詳しくありません(笑)。基本的には「好きなものを食べる」というスタンスは変わらないので、奥さんがかなり気を使ってくれています。

※ビクトリープロジェクト®・・・2003年より実施している、味の素㈱の食とアミノ酸技術を活用したアスリート支援プロジェクト。近年では、栄養管理のアドバイスや合宿時のメニュー開発、海外遠征先での食事提供など、多岐に渡ったトップアスリートの強化支援に取り組んでいる。

松田:泳ぎについては?

瀬戸:映像を分析してくれるスタッフさんがいるので、かなり多くのアドバイスをいただいています。そういう意味では、最近になって少しずつ“自分の泳ぎ”が確立されてきたと実感するようになりました。大切なのは、理想的な身体を作って、その身体に合う理想的な泳ぎを見つけること。だから、自分なりのこだわりは必要ですよね。それを形にするために、本当にたくさんの人にサポートしてもらっています。

松田:そういうふうに、細かいことを意識するようになるだけで全然違うでしょ?

瀬戸:特に食事については、もともと副菜が苦手で「食べなくてもいいかな」という感じでした。だけど、最近はしっかり食べるようになりましたし、食べる量や内容を意識するようになったことで、体重の変動もなくなりました。

松田:泳ぎと一緒だね。“苦手”を1つずつ潰していく作業。

瀬戸:はい。知識よりも意識が大切だなと思います。知識はそれぞれの専門家に頼ることができるけれど、意識については本人がしっかりしないと何も変わらない。僕自身、家庭を持ったことで「自分だけの身体じゃない」と感じるようになりましたし、改めて、サポートしてくれるたくさんの人の期待を裏切りたくないと強く思うようになりました。食事については、奥さんがいつも美味しいご飯を作ってくれるので……幸せです(笑)。

松田:ただのノロケ話じゃん(笑)。そういう食事のサポートが、今のパフォーマンスにつながっているという実感は?

瀬戸:ありますね。アスリートにとって、ご飯はガソリンみたいなものなので。すごく大事です。丈志さんも現役時代はめちゃくちゃ食べていましたよね?そのイメージで、栄養はやっぱり大切なんだなと、自分なりに考えながらやっています。

絶対に金メダル。それしか考えていない

松田:大也の場合、やっぱり“最大のライバル”の存在が大きいよね。

瀬戸:やっぱり自分には永遠のライバルが国内にいるので。ライバルがすぐ近くにいることは、すごく大きな励みになります。頑張っている姿を見れば「自分も!」と思うし、どのレースも絶対に手を抜けないというか、国内から世界戦みたいな雰囲気ですからね。メンタル的にはキツい部分もあるけど、ライバルがいることで自分のレベルも上がっていく。すぐ近くにライバルがいるからこそ成長できると感じています。

松田:かなり長くライバル関係にあるのに、普段から仲がいいもんね。

瀬戸:この間も、オフの旅行計画を一緒に立てていました(笑)。ジャパンオープンは同部屋でしたし、いつもくだらない話をしていますよ。だから、僕自身は同部屋でもまったく気になりません。

松田:最後に、2年後に迫ってきた東京2020大会に向けての意気込みをお願いします。

瀬戸:リオ2016大会では自分の未熟さを痛感して、悔しい思いをしました。でも、それによって新たな4年が始まったと思いますし、いい方向に向かっていると思います。勢いだけでは勝てないのがオリンピック。東京では落ち着いて、4年間どういうことを自分がやってきたのかをもう一度おさらいして、自分が思ったとおりに進めていかないといけません。残された時間も、自分の気持ちをしっかりとコントロールしながらやるべきことを1日1日しっかりと積み重ねて、東京では絶対に自分が金メダルを取るレースをしたいと思っています。

松田:目指すは、やはり金メダル。

瀬戸:絶対に。それしか考えないで生活しています。それくらいの強い気持ちがないと、オリンピックの金メダルには届かないと思いますから。

(文中敬称略)
※味の素㈱は、東京2020オリンピックオフィシャルパートナー(調味料、乾燥スープ、アミノ酸ベース顆粒、冷凍食品)です。

写真提供:AFLO
文:細江克弥
撮影:坂本清

プロフィール

瀬戸大也(せと・だいや)

1994年5月24日生まれ。埼玉県出身。早稲田大学在学中の2013年、第15回世界水泳選手権バルセロナ大会の男子400m個人メドレーで優勝し、同種目で日本人選手として初の金メダルを獲得。15年の第16回カザン大会でも優勝し、連覇を達成した。16年にはリオ2016オリンピックに出場し、男子400m個人メドレーで銅メダルを獲得している。大学卒業後の17年4月からはANAと所属契約を結び、社会人スイマーとして活躍。来たる東京2020オリンピックでもメダル獲得が期待されている。

松田丈志(まつだ・たけし)

宮崎県延岡市出身。4歳で地元・東海(とうみ)スイミングクラブに入会し水泳を始める。北京2008オリンピックにて200mバタフライで銅メダルを獲得。この活躍が認められて宮崎県民栄誉賞と延岡市民栄誉賞を受賞。ロンドン2012オリンピックでは200mバタフライで銅メダル、400mメドレーリレーで銀メダルを獲得。リオ2016オリンピックで800メートルリレーのアンカーとして銅メダルを手にしたのち引退。現在は、コメンテーターなど幅広いジャンルで活躍。味の素㈱の栄養プログラム「勝ち飯®」アンバサダーという一面も。

瀬戸大也選手を大解剖!食にまつわる17の質問
Q1
好きな食べ物・嫌いな食べ物は何?
肉系が1大好きなので、ステーキだったり、焼肉だったり。オフなんかは食べる頻度は多いですね。試合が近くなるとあまり食べないですけど。嫌いな食べ物は基本ないですが、パクチーはあんまり好きじゃないです。食べろって言われれば食べれますけど。
Q2
お気に入りの焼き肉店は?
ステーキみたいな感じなんですけど、知り合いの方がやっている表参道とか三田にあるお店で。肉の塊みたいなやつ。
Q3
子供のころの好きな食べ物・嫌いな食べ物は何?
ちっちゃい頃から好き嫌いはなかったです。ちっちゃい頃から肉系は大好きでしたね。ブレないですね(笑)。お肉大好き。母親の手料理は、たまに食べたくなります。オムライスとか好きでした。でも、ロールキャベツがすごく美味しかったな。たまに家に帰るとロールキャベツを作ってくれますね。
Q4
では、懐かしの味はロールキャベツ?
でも母親の手料理で好きなのは、オムライスです(笑)。なんだろう。オムライスは好きな味。ロールキャベツは懐かしいというか。
Q5
奥さんが作る手料理で一番の好物は?
2つあるんですけど。餃子と春巻き。両親が中国の方なんで。中華系の料理はやっぱり美味しんですよね。
Q6
瀬戸選手の得意(もしくは作ってみたい)料理は?
料理しないです。この前、つけ麺は作りました。茹でただけですけど。タレはできたやつが。作ってみたいのは、パカッとなるオムライスです。
Q7
大会で勝った時のご褒美飯は?
焼肉です。ブレずに。
Q8
一番好きなおにぎり具材は?
梅干しですね。日本でやる試合の時って、結構お弁当を頼むじゃないですか。選手は。自分はそれが嫌で。自分が勝負の日に、何が出てくるかわからないのが。レースの日は自分でコンビニに行って買うんですけど、必ず梅。梅がないとマジかーってなります。酸っぱいのも大好きだし、甘いのも大好きだし。
Q9
朝食はパン派?ごはん派?
練習の日はご飯で、休みの日はパンです。ご飯の時の方が、エネルギーが入っていく気がするんで。最近美味しかったのは、フランスパンにチーズ乗せて、ドライトマトとか作ってくれていて、スライスしたやつを上に乗っけて。美味しかったです。
Q10
好きな味噌汁の具材は?
お麩が好きです。お麩と、ねぎも超大好きです。ねぎ系だったらなんでも!ねぎ、お麩、わかめ、玉ねぎ入っていたらもう最高!
Q11
遠征中に出される「勝ち飯®」献立で、一番気分が上がる献立は何?
ガリバタチキンと、チゲスープが大好きで。試合に行って、味の素さんのサポートブースがあったら、もうチゲ。チゲさえあったらいいくらいです。ストックしておくんですよ。自分の試合の日、勝負の日は、それで固めます。
Q12
海外遠征前、日本で食べる最後の食事といったら?
家の100メートル先にある蕎麦屋が美味しくて。でも、勝負飯はやっぱり奥さんのご飯にしたいですけど。
Q13
奥さんの料理で、試合前に食べたいのは?
これから遠征行って、試合行くぞとなったら手羽先が食べたいですね。辛いタレで美味しいんです。
Q14
ゲン担ぎ飯は何?
そこまでこだわってないんですけど、やっぱり肉料理が。
Q15
奥様とのデートの時に食べる食事(ジャンルでも可)は何?
肉ですね(笑)。
Q16
お弁当の好きな具は?
お弁当は作ってもらってないんですけど。子どもの頃なら……梅おにぎり。梅干しほんと大好きです。給食の時も、嫌いな人からもらっていました。
Q17
給食で好きだった食べ物は?
……梅干し(笑)。本当に大好きですね。練り梅とかも。あんまり加工されていない方が好きですかね。
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