ピュアセレクト®マガジン vol.07 「パチャママ農園」 ピュアセレクト®マガジン vol.07 「パチャママ農園」 vol.07 2022 WINTER 「パチャママ農園」

私たちの食卓に季節を運び、彩りをそえてくれる旬の食べ物たち。自然の中でたくましく育ち、いきいきと輝く恵みは、まさにピュアそのものです。
でもその背景には、てまひまをかけ、創意工夫をして、ピュアにものづくりと向き合っている生産者さんたちがいます。このピュアセレクト®マガジンでは、そんな方々を訪ね、日々の仕事に対するピュアな想いを伺い、みなさんにお届けします。
豊かな自然の中へ一緒に旅をするような気持ちで、ぜひお読みください。

山口祐加さん

こんにちは、自炊料理家の山口祐加です。今回のピュアセレクト®マガジンでは茨城県下妻市でパチャママ農園を営む中山大輔さんを訪ねました。ご夫婦揃って南米の国・ボリビアで井戸掘り職人と保健師として働かれたのちに、新規就農で農家になられたというユニークなお二人。異国で感じたことと農家を目指した理由、農業の楽しさと大変さについてもお話を伺いました。

農家さんが手間隙をかけて育てた野菜を見ると、すくすく育つ子どもを見るような嬉しい気持ちになります。 農家さんが手間隙をかけて育てた野菜を見ると、すくすく育つ子どもを見るような嬉しい気持ちになります。

都内からローカル線を乗り継いで訪れたのは茨城県下妻市。筑波山の麓にあるこのエリアは平野と温暖な気候が特徴で、農業向きなのだそう。パチャママ農園という変わった名前の農園を営むのは中山大輔さんと妻の美由紀さん。農薬、化学肥料、除草剤を使用せず、自然と寄り添いながらお野菜を作られています。ではさっそく畑へ行ってみましょう!

畑を訪れた2月下旬は、冬野菜が終わり春野菜の準備をする期間で野菜は少なめでしたが、赤軸ほうれん草にミニにんじん、ブロッコリーや大根など勢いよく育つ野菜たちの元気なこと。農家さんが手間隙をかけて育てた野菜を見ると、すくすく育つ子どもを見るような嬉しい気持ちになります。

畑からお家に移動して、お料理しながら農家になるまでのお話を伺いました。 畑からお家に移動して、お料理しながら農家になるまでのお話を伺いました。

中山さんの畑は10カ所に点在していて、車で少しずつ移動しながら次のところへ。次の畑は中山さんがこの冬いち推しのブロッコリーとケールの交配品種「アレッタ」が植っていました。脇芽をポキッと折るとブロッコリーの穂先とケールの葉っぱが一緒になったかわいらしい姿がお目見え。今日は中山さんがアレッタを使ってパスタを作ってくださるそうで楽しみです。それにしてもこの畑の数をほぼお一人で面倒見ているなんて信じられません。

畑からお家に移動して、お料理しながら農家になるまでのお話を伺いました。

ボリビアの井戸掘り職人から下妻の農家へ ボリビアの井戸掘り職人から下妻の農家へ

ボリビアの井戸掘り職人から下妻の農家へ

パチャママ農園さんのことを下調べしていたとき、「元井戸掘り職人と元保健師のボリビア好きコンビ」という文字が目に飛び込んで来ました。なんて面白いキャリアなのだろうと、興味津々。なぜボリビアに行くことになったのか、大輔さんがゆっくりとした語り口で話してくださいました。

「中学生の時にテレビで青年海外協力隊のドキュメンタリー番組を見て、面白い取り組みだな、いつか参加したいなと思っていました。時は経ち高校卒業後、実家の家業が土木建設業だったこともあり、私もそちらの道に進もうと土木系の専門学校に入学しました。その後親の会社ではない土木系の会社に就職して、道路建設の仕事などをしていました。6年ほど働きましたが、本当に忙しくて辞めたいなと思っていた時に青年海外協力隊のことを思い出したんです。とりあえず試験だけでも受けてみようと思ったらあっさり受かってしまいました。

土木や建設関係の技術指導でボリビアへ行くことになったのですが、現地では井戸掘りの技術指導をすると聞いて驚きました。今まで井戸掘りの仕事したことがなかったのですが、行けばなんとかなると言われて現地へ行きました。ボリビアで私が働いていたポトシという街は標高4000mもあり、到着後すぐに高山病になってしまい大変でした(笑)。妻は同じタイミングで保健師として青年海外協力隊に応募していて、事前研修で出会ったんです。

ボリビアは第一次産業が盛んで、一家揃って農業に取り組んでいる人たちが多い国です。陽気で家族を大事にする彼らと一緒に過ごすうちに、助け合う心や家族愛の強さに大きく影響を受けました。それまで働いていた会社を辞めてボリビアへ来たこともあり、帰ったら何か自分たちで始めたいと思っていて、農業をやってみたいと思い立ちました。」

中山さんの流れに身を任せて、置かれた場所を面白がり、楽しむ力が魅力的だなと感じました。ちなみに農園の名前にもなっている「パチャママ」とは、南米アンデスの現地語で「母なる大地」を意味する言葉で、現地の先住民たちが昔から信仰している豊穣を司る大地の神のことだそう。現地の人は外でお酒を飲む際に、一滴のお酒を地面に垂らして神様にお供えしてからお酒を飲む粋な習慣もあるそうです。

農薬を使わず育てた野菜を通販で直接お客さんに届ける 農薬を使わず育てた野菜を通販で直接お客さんに届ける

農薬を使わず育てた野菜を通販で直接お客さんに届ける

中山さんはボリビアにいる頃から地元の下妻で就農することを考え、有機農法の世界で有名な茨城県土浦市の久松農園のブログに出会います。ブログを読んでいるうちに、採用情報を見つけて連絡してみたところ無事採用。帰国後、久松農園で一年半の農業研修を経て新規就農し、9年が経ちました。野菜作りでこだわっていることについて聞かせていただきました。

「新規就農するなら慣行農法ではなく、農薬や化学肥料を使わないやり方でやってみたいと思っていました。久松農園で習った米ぬかを主に使用し、植物由来の自然肥料だけで野菜を育てています。温度調整が可能なハウス栽培ではなく、自然のままにじっくりと時間をかけて栽培する『露地栽培』で旬の野菜を育てています。自分が食べてみておいしいと思った品種や、あまり見慣れない変わった西洋野菜などを積極的に取り入れています。

販売先はもともと直売所などに卸していましたが、価格合戦に消耗してしまい、自分たちで直販してみようと通信販売に取り組み始めました。コロナ禍で通販の売り上げが伸びたこともあり、今現在は収穫したすべての野菜を通販で販売しています。珍しい野菜もあるので、パートさんに野菜の説明を書いてもらって野菜と一緒に同梱するなど工夫もしています。おかげさまでリピートの方も多く、自分で描かれた水彩画の絵葉書で感想をくださるお客さんもいて嬉しい限りです。最近は近所の人から野菜を買いたいと言われることが増えたので、DIYで無人販売所を作りたいと思っています。リクエストカードなどを置いて、買った人とやりとりできると楽しそうですよね。」

夫の大輔さんがおおらかに育て、妻の美由紀さんがちゃきちゃきと配送・事務をサポートするパチャママの野菜たちは、どれも素朴で味が柔らかい、まるでお二人のような野菜だなと感じました。作った野菜が通信販売だけで売り切れるのも、お二人のお人柄を見ていると納得です。

野菜が新鮮であれば、簡単な調理で十分おいしい 野菜が新鮮であれば、簡単な調理で十分おいしい

野菜が新鮮であれば、簡単な調理で十分おいしい

野菜を作ってくださった方の前で料理を作らせていただくのは、少し緊張しますが同時に嬉しさも感じながら調理をさせてもらいました。
私が作ったのはキャロットラペです。千切りにしたにんじんを塩揉みして、水気を絞った後にマヨネーズ、オリーブオイル、レモン果汁でさっと和えます。思わず「甘い!」と言ってしまうほどにんじんが甘くて、おいしいこと。野菜が新鮮だと、味付けも工程も少なくて済むのです。

中山家の料理担当でもある大輔さんが作ってくださったのはアレッタのパスタと蒸しにんじん。アレッタのパスタはペンネと一緒にアレッタを茹でて、フライパンに移してからめんつゆ、バター、ニンニク、塩コショウで味付け。蒸しにんじんは、シンプルに蒸してマヨネーズ、ニンニク、味噌、酢を混ぜ合わせたソースにつけていただきます。

パスタはアレッタのほろ苦さが効いていて、とてもおいしい。大輔さん曰く「いつもはアレッタを炒めて焼き目をしっかりつけてパスタにするんだけど、これもこれでいいね」とのこと。蒸しにんじんは一口食べると舌で潰せるほど柔らかく、香りがよくて何より甘い!取材チームからも「何もつけないでこのままでも十分甘くておいしい」と声が上がりました。
ソースは味噌とマヨネーズのコクにニンニクの辛みと香りが効いている上に、酢が味を引き締めていて甘いにんじんと相性ぴったり。お酒のアテにも良さそうです。

自分で植えたタネが育って、収穫できることが最高に面白い 自分で植えたタネが育って、収穫できることが最高に面白い

自分で植えたタネが育って、収穫できることが最高に面白い

最後に、農業の大変さと面白さについてお話聞かせていただきました。

「自然相手に仕事をしているので、うまく育たない野菜があったり、頑張って育てても虫がついてしまったりと大変なことはたくさんあります。でも自分でタネを撒いて、双葉が芽吹いて、すくすくと育って実が成って、収穫した時は最高に面白いですね。なかなか思うようには行きませんが、自分が考えた計画通りに育っていると楽しいなと思います。農家は誰からも縛られず、自分で考えて行動し、自由に時間を使えるのがいいところだと思います。畑の数が多い分どうしても様子が気になってしまいますが、家族もいるので日曜日は必ず休むことにしてバランスを取っています。」

畑でたくさんの野菜を育てながら、家でも3人のお子さんを育てるのは、私からするとすごく大変そうに感じるのですが、中山さんは自然体でのびのびとされていて、きっと生まれながらに生き物を育てる才能が備わっている方なのだなと思いました。中山さんに育ててもらった幸せものの野菜たちを買わせてもらい、夕日に照らされる筑波山を眺めながら家路につきました。

ピュアセレクト®マガジンの農家さん取材は今回で最後になります。去年の夏からさまざまな農家さんの畑へ伺い、季節の息吹を感じながらお話を伺う時間は本当に楽しく、学びが多い時間でした。ピュアセレクト®マガジンの最終回は、ついにピュアセレクト®の工場へ行きます。 次回もお楽しみに!