Vol.4 2021 LATE  AUTUMN 「ヨダファーム」 Vol.4 2021 LATE  AUTUMN 「ヨダファーム」 vol.04 2021 LATE AUTUMN 「ヨダファーム」

私たちの食卓に季節を運び、彩りをそえてくれる旬の食べ物たち。自然の中でたくましく育ち、いきいきと輝く恵みは、まさにピュアそのものです。
でもその背景には、てまひまをかけ、創意工夫をして、ピュアにものづくりと向き合っている生産者さんたちがいます。このピュアセレクト®マガジンでは、そんな方々を訪ね、日々の仕事に対するピュアな想いを伺い、みなさんにお届けします。
豊かな自然の中へ一緒に旅をするような気持ちで、ぜひお読みください。

山口祐加さん

こんにちは、自炊料理家の山口祐加です。第4回目のピュアセレクト®マガジンのトマトは主役です。トマトは食卓を華やかにし、甘味と酸味のバランスが良い味は和洋中どんな料理にも合う食材ですよね。ピュアセレクト®のCMにも登場するほど、マヨネーズとも相性抜群です。そんな愛され者のトマトを60年育ててきた農家さんが山梨県の「ヨダファーム」さんです。

トマト専業農家として愛情込めて作られているトマトは、真っ赤に熟し、旨味がぎゅっとつまっています。今回は娘婿としてヨダファームに入り、お義父さんお義母さんの農作業を手伝う傍ら、クラウドファンディングに挑戦するなど精力的に活動される功刀(くぬぎ)隆行さんにお話を伺いました。農家として働く楽しさ、大変さをすべてひっくるめた「農家のおもしろさ」についてじっくり伺いました。

品種を変えずに60年。桃太郎トマトのスペシャリストに 品種を変えずに60年。桃太郎トマトのスペシャリストに

品種を変えずに60年。
桃太郎トマトのスペシャリストに

東京から電車に揺られて、黄金色の田んぼに秋を感じながら2時間ほど行くと山梨県中央市に到着。ヨダファームに着くと、娘婿の功刀隆行さんがにこやかな顔で出迎えてくださいました。功刀さんの表情や振る舞いにはあたたかい人柄が滲み出ていて、こちらの緊張がするするとほどけていきました。

ヨダファームはサッカーコート半面ほどのハウスで2000本のトマト育てている、トマト一筋の農家さん。訪問した10月中旬は、11月に出荷するトマトがこれからまさに赤く染まろうとしているところでした。私たちのために、と収穫せずに残しておいてくださった、熟したミディトマトをもぎって食べると、さっぱりとした甘さが滲み出てきて、まるで噛むジュースのよう。噛むたびにじゅわじゅわとうま味が広がり、弾力がある食感に大感動!中玉の桃太郎トマトも試食させてもらいましたが、瑞々しくてマヨネーズがよく合う味わいです。

以前の取材で「私、実はトマトが苦手」と書きましたが、今回のトマトも専業でされているというだけあって、ジューシーで青さがほとんどないトマトでした。これなら私もおいしく食べられます、と言ったら「そう言ってくださるお客さん、多いんですよ」とうれしそうに話してくださいました。トマト嫌いを克服させてくれるトマト農家さん、さすがです。

現在ヨダファームは売上のほとんどをトマトが担っているそう。なぜトマト一筋で農業をすることになったのでしょうか?

「私の義理の父である依田克己の先代からトマト専業になりました。というのも、この土地はトマト作りの要になる日照りと水に恵まれた場所です。四方を山に囲まれている甲府盆地では山が雲の進入を防いでいるため、晴天の日が多く、日本一の日照時間を誇ります。また、八ヶ岳を流れてきた地下水はミネラルを多く含んでいて、水量も豊富なことからトマトの栽培に向いています。

主力になる商品は、最初からトマトの中でも有名な品種の「桃太郎トマト」を栽培しています。品種を変えずにやっているのは、毎年経験値をしっかりと貯めて、生育方法を工夫していきたいからです。農家は毎年一年生という言葉があるくらい、天候や苗の状態など同じ条件が揃うことは二度とありません。なので、何度も品種を変えてしまうと積み上げてきた経験が上手く活かせないのです。もっと甘いトマトに切り替えたほうがいいかもしれない、と思ったこともありますが、桃太郎トマトから変わらず、あるいは変われず(笑)今に至ります。」

安定した品質のおいしいトマトを作るため、土での栽培から水耕栽培へ

一途に桃太郎トマトを育てて60年のヨダファームさん。並々ならぬこだわりを持ってトマトを栽培されています。おいしいトマトを作る秘密を教えてもらいました。

「おいしいトマトを作るためにこだわっていることは、①種、②ハチによる受粉、③水耕栽培3つです。

①種について
私たちのトマトはみずみずしくおいしい実をつける種と、暑さや寒さに強く、病気や害虫に負けない強い種の二種類を育てて、新芽が出た頃に二つを合体させて一本にする『接木』を行います。細い新芽を一本ずつカミソリで切って、接木していく作業はものすごく時間がかかります。うまく繋がってくれないこともありますが、おいしいトマトを作るために手間は惜しみません。

②ハチによる受粉
トマトを実らせるための受粉は、ハウス内で飼育しているハチを媒介に行っています。ハウスで栽培していますが、できるだけ自然に近い状態で栽培するために取っている方法です。自然交配させることで、人工受粉させる際の農薬を減らすことができます。

③水耕栽培
トマト栽培を始めた当初は土を使って栽培していましたが、病害虫がつきやすいのが悩みでした。それらの対策に農薬を使って土で栽培するよりも、品質を安定させつつ安心して食べてもらうために水耕栽培へ移行しました。
水耕栽培で育てるトマトは、水をたくさんあげれば大きく育つ特性がありますが、やりすぎると味が薄くなってしまいます。大きい方が高く売れやすい傾向はありますが、私たちはサイズよりも、甘さと酸味のバランスが良い味を重視しています。また、水耕栽培は生育管理のしやすさが利点です。毎日トマトの状態を確認し、温度・栄養・水分を調整することで、安定的においしいトマトができます。水耕栽培でもおいしく育つんだ!と知ってもらえたらうれしいです。」

今回初めて水耕栽培の畑を見学しましたが、土に似たクッションに細い根がびっしりと力強く伸びていました。トマトの苗がぐんと成長する時期に「どれだけ根を多く生やせるか」がおいしさの要になってくるそうで、その際に少しの期間水やりをせず多少ストレスを与えることで栄養分が蓄えられるのだとか。水が与えられないと、トマトの苗は直径1mm水管に侵入し、10cm近く根を伸ばして水を求めるそう。目や耳がないのに、水の場所がわかるなんて不思議。野生の感覚の鋭さに静かな感動を覚えました。

農作物の売り方はもっと工夫できる。新しい価値づけへの挑戦

さて、今回お話してくださった功刀隆行さんはヨダファームの娘婿になって5年。それまではJA(農業協同組合)で13年間働いており、最後の3年間はヨダファームとJAのWワークをしていたそう。JAで働いていた立場から、一農家へ。そこから見えてきたものとはなんでしょうか。

「今日お話ししていることは、すべて義理の父の克己さんと先代が実践してきたことです。最初から桃太郎トマト一本に絞り、こだわりすぎなくらい丁寧に栽培しています。でも、このこだわりは家族と克己さんの飲み仲間くらいしか知りません。大事に育てたおいしさを、もっといろんな方に知ってもらいたいんです。質の良いトマトが作れている自負はあるけれど、売り方の面でまだまだ工夫が必要だと思っています。

そこで私が主に担当しているのは、商品のPRや新しいお客さんに知ってもらうための取り組みです。味はA品と同等なのにも関わらず規格外になってしまうトマトが全体の10%〜15%あります。それらは畑の肥やしにしているので無駄ではないのですが、味はおいしいので売らないのはもったいないと思い、トマトケチャップを開発したり、地元の酒蔵と組んでトマト塩麹を作ったりと商品化をはじめました。
売り方はクラウドファンディングを活用し、おかげさまで最新のプロジェクトは704名の方に470万円分の支援いただきました。クラウドファンディングやポケットマルシェなどの直販でお客さんと交流すると、農家側の想いが伝えやすく、お客さんの感想も直に伺えて参考になります。」

一緒にお話ししていると、功刀さんの気さくで実直な人柄に惹かれてたくさんの人が支援したくなる理由がよくわかります。売り方の工夫はグラフィックデザインにも反映されていて、最近では「トマトを贈答用に使って欲しい」とデザイナーに依頼して化粧箱を作ったそうです。トマトは見た目もかわいらしくどんな料理にも合うことから、プレゼント向きなのも納得。帰り道に畑のお野菜をお土産でいただいたので、私は後日友人へのプレゼントに化粧箱に入りのトマトを注文させてもらいました。

毎年違う条件の中で、工夫をこらしてトマトを作るおもしろさ

最後に農家のおもしろさについて教えていただきました。

「農業は自然相手なので、毎年何が起こるかわかりません。近年は特に気候の変化が激しく、今年も病気になってしまったトマトの苗がいくつもありました。種を植えてから収穫まで辿り着くことが結構大変です。だからこそやりがいがありますし、自分たちで創意工夫しながらおいしい食べ物を作ることが農業のおもしろさだと思います。もちろん、お客さんから『おいしい』と言われるのは、とてもうれしいです。半年間で21回購入してくれる人もいるほどリピーターも多く、自分たちが気づかないような味の変化に気づいてもらえると驚きと喜びがあります。
それから、先ほどもお話ししたように農業は売り方でもっと工夫ができると思います。量を作らないと生活できない状況を改善し、価値をわかっていただけるような伝え方をして、少ない数でもこだわって育てていきたいですね。」

取材当時、10月時点のポケットマルシェで買える11月分は完売、12月分の予約販売を受け付けていました。功刀さんの地道なPR活動がファンを増やし、2ヶ月待ってでも買いたいと思う人がたくさんいることは、本当に素晴らしいことです。
取材中、お義父さんが様子を見にいらっしゃり、庭で育った柿をくださいました。言葉数が少ない職人気質の雰囲気を持った方で、この方が一生懸命作ったトマトを一つ残さず売りたいという功刀さんの想いに共感しました。農家さん自身が手間暇かけて作った農作物を、きちんと価値づけして真っ当な価格で売っていく。市場価格もあるため簡単なことではないと思いますが、心から応援したいと感じました。

ピュアセレクト®マガジンは毎月1回、連載が続きます。
次回もお楽しみに!