

自信を持って作ったものを、
売る仕事をしたい
ピュアセレクト®マガジンの記念すべき第一回目は、千葉県芝山町で有機農園を営む住田学(すみだ がく)さんのところへ伺いました。成田空港から車で10分ほど走ると、あっという間に景色が変わり、のどかで気持ちいい風が吹く畑に到着。颯爽と軽トラに乗って現れた住田さんは、気さくな方ですぐにこちらの心がひらけました。
すみだ農園では、年間約60種類の野菜を農薬や化学肥料は一切使用せず栽培されています。初夏のこの時期、旬を迎えるのは枝豆、トマト、きゅうり、大長なすなど。どれも色鮮やかで、ピンとハリがあり、見るからに元気でおいしそうな野菜ばかりです。
トマトのハウスに入ると、空気いっぱいにトマトの青々しい香りが漂います。私、実はトマトが嫌いなのですが(!)住田さんのトマトを食べてみると、爽やかでさっぱりとした口当たり。人生で初めてトマトがおいしいと思いました。


住田さんが農園を始めたのは今からおよそ10年ほど前、40歳の頃。それまで大企業で営業の仕事をしていた住田さんは、人生の折り返し地点に立ち「自分が自信を持って作ったものを人に売る仕事をしたい」と会社勤めをやめ、農家に転身しました。
「会社をやめた頃は、次何をするか決まっていませんでした。妻と幼い子供二人がいましたが、それなりに給料が高い会社で働いていたので貯金で半年くらいのんびりしようと思っていたんです。けれど1ヶ月くらい家にいると、つまらなくなってくるんだよね。(笑)何かやりたくてしかたなくて。
それで次の仕事を考える中で、サーフィンも好きだったから漁師になろうと思いました。
それで『漁師就業支援フェア』に行ってみたんだけれど、どこのブースに行っても『40歳から漁師を始めるのは体力的にも考えて遅い』と渋い顔をされました。
その帰りに同じ会場で見かけたのが『農家就業支援フェア』。
こちらに行ってみると『40歳から農家を始めるのは全く遅くない、やれますよ』と言われて農業が面白そうだ、と思い始めたんです。
自分が農家をやるならば、いろんな野菜を作ってお客さんに直接売りたい気持ちが強くありました。そこで国が認めた有機JASを売りにして野菜作りをしようと、その当時少なかった有機の農業研修所に2年通い始めたんです。」


当時はまだ珍しかった直販スタイルを最初から構想していた住田さん。
しかし20年近く会社勤めをしてから農家を目指し始めたため、お客さんも一から集める状況でした。けれどここで営業マンとして15年以上働いてきた経験が存分に活きてくるのです。
「実習で作る野菜を研修所から安く譲ってもらって、昔の会社の仲間や、学校の同級生に『来年から農家を始めるから試しで食べてね』と無料で送っていました。
そして気に入ってもらえたら、年間契約で野菜を買ってもらい開業資金にしました。
お金を払ってもらった手前、絶対においしいものを作らないといけないですからね(笑)。」
①自分が納得するモノを作る、②自分で売る。この二つを本当に大事にしていた住田さんだからこそ辿り着いた、シンプルで健やかな農場経営のかたち。
おいしい野菜を顔が見えるお客さんに届けたいというピュアな気持ちがひしひしと伝わります。


自分の家族に食べてもらうように、
安心して食べてもらいたい
- 第二の人生で農家を始めた住田さん。どんなこだわりを持って野菜作りをしているのでしょうか?
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「僕は自分の家族に食べさせる延長で農家をやっているので、農薬は使わずに野菜を作っています。知っている人に食べてもらうのだから、安心して食べてもらいたいですよね。でもやはり虫は賢いので、どうしても上手に作れないことはあります。
例えば、とうもろこしは虫がすごくつきやすいんです。だからとうもろこしの頭の部分だけカットして出荷しています。お客さんは僕が有機栽培で育てていることを知っているので説明すれば理解してくれます。誰も彼もに食べてもらいたいとは正直思っていません。理解してくれる人に食べてほしいと思っています。」自然に寄り添った育て方をしていると、どうしても人間の力が及ばないところがある。そのことを作る側も受け入れ、買う側も理解することは、自然とともに生きる上で大事なことだと感じます。


- 40歳で新しい仕事に挑戦した住田さん。農家を始めるに際して漠然とした不安はなかったのでしょうか?
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「僕、何事もなんとかなるなと思っているタイプなので、不安はなかったですね。野菜作りって大変でしょ?と聞かれたりもするんだけど、僕も経験していた満員電車に乗って通勤することに比べればそんなに大変じゃないです。
野菜はちゃんと種を蒔いて、ちゃんと管理してあげれば大体育つんです。人間ができることは野菜の様子を見ながら補助することだけです。子育ても似たようなものですよね。苗ひとつにしても、人ひとりにしても、最終的には自分でなんとかするんです。」


自分の頭で考えて、
うまくいった時が面白いですね
「10年の間、ほぼ毎日野菜を見ていると、野菜によって成長スピードが異なり、調子がいいのか悪いのかがわかるようになってきます。今の畑の状況から結果が予測できるようになるんです。だから常に畑の様子を見て『もっとおいしい野菜がなるにはどうすればいいか』と、葉の色や枯れ方、苗の立ち具合、果実の色などを見て、工夫するのも農業の面白いところです。この辺りは新規就農の農家が多いから、野菜作りで気づいたことは秘密にせずにどんどん教えあっていますね。」
様子は見るけど、余計な手は加えない。本当の子育てのように気をかけて育つ野菜だからこそ、あれだけのびのびとしていておいしいのかと腹に落ちました。そんな住田さんが感じている、農家のやりがいはどんなことでしょうか?
「やりがいを感じるのは、自分がこうやって作ったらうまくいくかな?と仮説を立て実際に栽培してみてうまく行った時ですね。例えば株間が50cmで育てるのが一般的だけれど、70cmで作った方が良さそうだと考えてやってみる。それが当たっていて、例年に比べて多く収穫できて、かつおいしいと思う。そしてお客さんからもおいしかったと言われたときに感動します。誰かから教わったことではなくて、自分の頭で考えて、うまく行った時が面白いですね。まっさらな畑に種を撒くとことから、自分で育てて、それを売ってお金になる仕事ってなかなかないんですよ。」


新鮮な野菜を、シンプルに食べる。
これ以上ないぜいたく
住田さんの畑の小屋には畑が一望できる野外台所があり、鳥の声を聞きながら収穫したての野菜たちを料理することに。私はポテトサラダを作り、住田さんは大長なすを使って「なすのパン粉揚げ、マヨポンソース」を作ってくださいました。
「この食べ方は昔から好きで、コクがあるマヨネーズとさっぱりポン酢の相性がいいんです。なすを半分に切って、卵と小麦粉、パン粉につけて揚げてから、マヨネーズとポン酢をかけるだけ。簡単でしょ」と微笑む住田さん。
一口食べると、なすのジューシーな食感とパン粉のサクサクが口の中で重なり合い、マヨポンのこってり&さっぱり味がたまらない!ピュアセレクト®の軽やかな口当たりがしつこくなくて、無限に食べられるおやつのようなメニューです。
私が作ったポテトサラダは、ジャガイモを茹でてから粉吹き芋にし、マヨネーズで味を整えます。そこに塩揉みしたきゅうりと玉ねぎ、茹でたにんじんを加えてざっくりと和えたごろごろのポテトサラダ。最後に黒胡椒をアクセントに効かせて完成です。
新鮮な野菜をおいしい調味料でシンプルに食べる。これ以上ない贅沢な食べ方だなと心から思いました。


好きなことをやる。
見返りを求めたくないから
最後に、住田さんの働き方に対する考え方がとても心に残りました。
「僕は誰かのために自分を犠牲にして働くよりも、自分がやりたいことを仕事にする方がいいなと思っています。例えば子供のためにすごく苦労をしてお金を稼いで教育に使ったとします。自分のために使いたいお金と時間を我慢して子どもに使ったら、きっと見返りを求めてしまうと思うんです。面白くない仕事でも、子供のために頑張り続けなければならないと思い込んで、結果子どもも苦しくなってしまう。 僕もあのままサラリーマン続けていたら、過度に見返りを求めていたと思います。だから、自分たちも好きなことやるから、子供も好きなことをやってねと話しています。」
自然の中に身をおいて、種から自分で育てて、おいしい野菜を作り、顔が見える人に売る。ごくシンプルで誤魔化しがきかない、原点回帰的な働き方がとても魅力的に見えました。初めて会うのに、もう何回も畑に遊びにきているかのような親近感を持たせてくれる住田さん。お人柄そのものがかたちになったような、生き生きとした野菜は本当においしく、食べ続けたくなる安心感がありました。