気になる輸入食品のリスクや検査、そして輸入食品との付き合い方

食料自給率が低い傾向にある日本にとって無くてはならないのが輸入食品です。「輸入食品は国産品よりも安全性で劣るのでは?」と考える消費者も少なくありませんが、実際はどうなのでしょうか。輸入食品のリスクから安全性を確保するための検査から、輸入食品との付き合い方まで、厚生労働省医薬食品局食品安全部監視安全課輸入食品安全対策室の近藤卓也氏にお伺いします。

第1章 輸入食品とは?

遠洋マグロは輸入食品なのか?

食料自給率がカロリーベースで40%を下回っている現代の日本において、輸入食品は私たちの生活に欠かすことのできない存在となっています。
輸入食品とは、文字通り「輸入された食品」を指しています。「輸入」とは、税関手続きを経て、外国の貨物を日本に引き取ることです。また、「食品」とは人の口に入るすべての飲食物を意味し、肉や魚、野菜、果物、飲み物、加工食品に使用される原材料や香辛料など、色んなものが含まれます。つまり、輸入食品を定義すると、「外国から日本に引き取られたあらゆる食品」ということになります。

では、日本から何千キロも離れた遠洋で捕獲されたマグロは、輸入食品になるのでしょうか。
この場合、マグロ漁船の船籍(人の戸籍に相当する、船舶の所属地を示す籍)が判断基準となります。日本の船籍を持つ漁船であれば、捕獲した水産物は外国の貨物ではなく、税関手続きも不要なため、輸入食品ではないということになります。一方、これが外国船籍の漁船であれば、税関手続きが必要になり、たとえ同じ漁場で捕れたマグロであったとしても、輸入食品になります。

遠洋マグロは輸入食品なのか?

輸入食品のリスクとは?

輸入食品のリスクとは?

「輸入食品は、国産品よりも安全性で劣るのでは」という声を聞くことがありますが、実際のところ、輸入食品のリスクの種類が国産品とそれほど大きく違っているとは思いません。
たしかに、輸入食品には日本では発生し得ないリスクも考えられます。たとえば、ある特定の地域でのみ生育できるカビが存在し、そのカビ毒が食品に混入する可能性もあるわけです。しかし、そういった特殊なケースを除けば、国産品であれ輸入品であれ、リスクの種類にあまり違いはないと言えます。

食品の安全において重要なのは、どこの国の食品であるかではなく、衛生管理がいかに適切に行われているかどうかです。輸入食品の場合、生産現場が海外であるために管理の状況が直接把握できず、それが消費者のみなさんの不安感につながっているものと思います。 ただ、食品を輸入することは経済活動であって、その食品が日本国内で販売できなければ、事業として成立しません。日本で販売するためには、日本の法律に合った安全な食品を作ることが不可欠であり、国内企業と同様に、海外の事業者も食品の安全確保に向けた努力を行っています。 また、このような民間レベルの取り組みに加え、国としても、安全な食品の輸入を実現するため、輸入段階での監視を行うとともに、相手国政府との協議や現地調査を実施し、管理体制の不備などを指摘・改善しながら、政府レベルで問題解決の推進を図っています。

第2章 輸入食品と国の取り組み

政府による3重のチェック体制

我が国では、農林水産省、厚生労働省、そして財務省の3つの省庁が食品の輸入に関わり、それぞれが異なる法律を所管しています。
まず、農林水産省が所管する「植物防疫法」と「家畜伝染病予防法」があります。こちらは、野菜、果物、食肉などの貨物が対象となっているもので、輸入時に持ち込まれる可能性のある病気や害虫から、国内の農作物や家畜などを守っています。

さらに、あらゆる食品の衛生規制を行う厚生労働省の「食品衛生法」があり、最後に財務省の「関税法」にしたがって税関手続きが行われます。
関税法には、「関係法令がある場合、その法令への合格を税関に証明し、その確認を受けなければならない」という内容の条文があります。そのため、たとえば食肉を輸入する場合、農林水産省の家畜伝染病予防法と厚生労働省の食品衛生法で合格を得なければ、通関できないしくみになっています。このように、3つの省庁による3重のチェック体制を構築することで、国として、輸入食品の安全確保に取り組んでいます。

食品等の輸入手続き

政府による3重のチェック体制

コンピュータによる届出システム

販売する食品を輸入する時には、食品衛生法第27条により、厚生労働大臣への届出提出が義務づけられています。届出事項は、輸入者の氏名・住所や原材料、製造方法など、多岐に及びます。この届出の窓口となっているのが、全国の空港と海港(船舶が外国貿易のために使用する港湾)に配置されている32ヶ所の検疫所です。検疫所ではすべての届出を1件1件審査し、検査が必要な貨物と不要な貨物に分類しています。
輸入食品の届出件数は、2010年度の実績で約200万件に達しています。非常に膨大な件数ですが、最近では輸入の届出のコンピュータ化が進み、厚生労働省でも「FAINS(ファインズ)」というオンラインシステムを導入しています。

FAINSには一次審査機能があり、届出された貨物について、検査の必要性の有無を確認することができます。また、海外で何らかの問題が生じた場合には、該当貨物を特定する情報を用いて届出情報にフィルターをかけ、該当貨物かどうかを判別することも可能です。
FAINSの利点は審査の高速化だけに留まりません。複数の省庁にまたがる複雑な届出手続きが一度の入力・送信で済むようになったことで、輸入業者側の業務効率化にも貢献しています。

※FAINS:Food Automated Import notification and inspection Network System(輸入食品監視支援システム)

食品等の輸入の届出

食品等を輸入しようとする者は厚生労働大臣に届出なければならない(食品衛生法第27条)

届出事項
・輸入者の氏名、住所
・食品等の品名、数量、重量、包装の種類、用途
・使用されている添加物の品名
・加工食品の原材料、製造又は加工方法
・遺伝子組換え又は分別流通生産管理の有無
・添加物製剤の成分
・器具、容器包装又はおもちゃの材質
・貨物の事故の有無

第3章 検疫所とは?

検疫所の概要

検疫所は、主要な空港、海港(船舶が外国貿易のために使用する港湾)を中心に、北は北海道から南は沖縄まで、全国に108ヶ所配置されています。このうち輸入食品の届出窓口は32ヶ所に開設され、なかでも横浜と神戸の検疫所内に設置された輸入食品・検疫検査センターは、それぞれが高度な検査の拠点として活躍しています。この検査センターには、残留農薬の分析に不可欠なガスクロマトグラフ(質量)分析計や高速液体クロマトグラフ(質量)分析計、遺伝子組換え食品の検査に用いる分析機器など、非常に高度な検査機器が整備され、精密な検査に対応できるものとなっています。
検疫所での監視を担当しているのは、食品衛生監視員と呼ばれる専門スタッフです。監視員は一定要件を満たした有資格者(国家資格)で、医師や獣医師、薬剤師、栄養士、農学士など、専門性の高い方たちです。現在、約400人の食品衛生監視員が全国の検疫所で監視業務に携わっています。

食品等輸入届出窓口配置状況

食品等輸入届出窓口配置状況 SP画像

食品等輸入届出窓口配置状況

サンプルによる検査の実施

検疫所で食品の検査を行う際、外国から来た貨物をすべて開封して検査をするわけにはいきません。そのようなことをすれば、食べるものがなくなってしまいます。そこで検疫所では、検査の種類にしたがって統計学的に貨物を評価できる検体数を決め、食品のサンプルを採取します。この作業を「サンプリング」と呼んでいます。
サンプリングでは、一定の法則にしたがい、貨物から無作為に採取を行ないますが、その前提条件として、貨物の中身の均一性がある程度確保されていることが必要です。貨物の中身がバラバラでは、いくらサンプルを採取しても、検査したサンプルしか評価できず、貨物全体を正しく評価できません。検査で安全性が確認できない状況になってしまうと、最悪の場合、食品衛生法の第8条によって「特定の品目の輸入を止める」という事態も考えられます。幸い、この第8条が実際に適用された例はまだありませんが、これからも事業者の方々に食品を適切に生産、管理していただき、このような事態が起こらないことを願っています。

第4章 輸入食品の安全性に関する3種類の検査

輸入するたびに検査を実施する「検査命令」

検査が必要であると判断された場合、どのような検査が行われるのかを紹介します。検査には次の3種類があります。
1つ目の検査は「検査命令」と呼ばれ、文字通り、検査の実施を命令するというものです。食品衛生法上、問題のある可能性が高い輸入食品については、厚生労働大臣の命令により、輸入するたびに検査を実施することになっています。
検査命令の対象貨物については、「A国から輸入してきたB」というように、「輸出国(A国)」と「品目(B)」の組み合わせにより、あらかじめ決められています。2012年4月現在、全輸出国で17品目、特定の国に関しては26ヶ国1地域で99品目が検査対象になっています。代表的なものとしてはフグがあげられます。ご存じの通り、フグには毒があるので、輸入できるフグか否かを確認するため、検査を必ず行うこととしています。

継続的に監視する「モニタリング検査」

検査命令の対象とならない貨物についても、継続的に衛生状況を監視する必要があります。たとえば、気候条件が違う日本と海外では、同じ作物でも発生する病害虫の種類は変わってきます。農薬の有効性は病害虫ごとに異なるため、同じ農薬でも使用量に差が生じ、結果として残留基準に合わない産物となるかもしれません。このような問題を確認するためには、継続的かつ広範囲な監視が必要になります。そこで検疫所では、検査命令以外の食品について、衛生実態の把握を目的に、年間計画に基づいて継続的な監視を実施し、効率良く食品の安全性の確認を行っています。これが「モニタリング(監視)検査」と呼ばれる2つ目の検査です。モニタリング検査で農薬などの違反が確認された場合は、検査命令の必要性を確認するため、モニタリング検査の頻度を上げる検査強化措置も行っています。2012年度は約9万件のモニタリング検査が実施されます。

検査の実施を求める「指導検査」

食品を取り扱う業者には、生産現場から加工、流通まで、すべての過程において適切な衛生管理を行う責任があり、その管理には検査の実施も含まれます。検疫所では、輸入業者がその責任をきちんと果たしているかどうか確認を行っており、検査による確認が必要と判断された場合には、自主的な検査の実施を指導しています。これが「指導検査」と呼ばれる3つ目の検査となります。

以上3種類の検査を紹介しましたが、問題が確認される可能性に応じて、検査が強化されます。通常レベルの「指導検査」と「モニタリング検査」、その上の「検査命令」、さらに、検査で安全性が確認できないと判断された場合には、「包括輸入禁止」として、輸入そのものの停止措置がとられることになります。

検査の実施を求める「指導検査」

第5章 輸入食品との付き合い方

輸入食品は本当に安全なのか?

2008年1月、中国産の冷凍食品による薬物中毒事案が発生し、輸入食品に対する不安が日本中に広がったことは、みなさんの記憶にあるところだと思います。
消費者の方が最も知りたいのは、「輸入食品は本当に安全なのか?」ということでしょう。安全性に関する議論は非常に難しいものですが、現在、日本国内において輸入食品に起因する問題が頻繁に発生し、食品衛生を脅かすような状況にはなっていません。このことから、一定の安全性は確保されているものと考えています。また、中国産の冷凍食品の事案を踏まえ、輸出国の日本大使館に食品安全に関する専任スタッフを配置したほか、検疫所でも加工食品の農薬検査を推進するなど、国としてもさまざまな対策を講じています。
そもそも、100%安全な食品というものは存在しません。なぜなら、食品はきちんと管理をせずに放置すれば、自然に腐敗などが進んでしまうものだからです。そのため、生産段階から加工、流通、さらにご家庭でそれを食べる段階まで、それぞれの関係者が責任をもって適切に管理する必要があります。そして、その管理の積み重ねの結果が、食品の安全性を確かなものにするのです。
食品を購入した後は、食品を適切に管理する責任が消費者の方に生じます。たとえば、「10℃以下で保存」という表示がある場合、購入した方は10℃以下で保存する必要があります。その責任をきちんと果たさなければ、国産品であっても、輸入品であっても、食品の安全は確保できません。大切なのは、自らも管理するという気持ちを忘れないことだと思います。

情報の取捨選択をすることが大切

生産現場からご家庭まで一貫して安全性を確保するという流れの中で、消費者の方も自分自身を守れるよう、食の安全に関する知識を身につけておく必要があります。現在、食の安全について、テレビや新聞、雑誌などで頻繁に取り上げられています。また、国としても、政府公報などによる情報提供に加え、ウェブサイトでも積極的な情報発信を行っているので、昔と比べると、情報を得られる機会は多くなっています。
同時に「100%安全な食品は存在しない」という意識を持つことも大切です。その上で、食の安全について情報を取捨選択し、実生活の中でその情報をどのように使っていくのか、そういったことがとても重要なのではないかと思います。

情報の取捨選択をすることが大切

取材は2012年6月に実施しています。内容は適宜確認・更新しております。(最終更新時期:2019年3月)

 「輸入食品監視業務」(厚生労働省ホームページより)

 関連リンク:味の素グループの中国産の冷凍食品や野菜の品質管理