SCIENTIST 三重大学杉田正明教授 アミノ酸の上手な摂り方がコンディショニングに役立つ

PROFILE

国立大学法人三重大学教育学部教授(兼)大学院地域イノベーション学研究科教授。専門分野は、トレーニング科学、運動生理学、バイオメカニクスなど。博士(学術)。
文部科学省トップアスリートにおける強化・研究活動拠点の在り方についての調査研究に関する有識者会議委員、日本オリンピック委員会(JOC)情報・医・科学専門部会科学サポート部門長、日本スポーツ振興センター(JSC)JISSスポーツ科学研究部アドバイザリーボード委員、日本陸上競技連盟科学委員会委員長など極めて多彩な活動に携わっている。

運動生理学を志したきっかけ

小・中学校でサッカーを、中学生からは陸上の中長距離種目もするようになりましたが、高校生のとき「なぜ一生懸命やっているのに自分だけタイムが伸びないのか」と漠然とした疑問を持つようになりました。大学時代フルマラソンに出場した際に、サブスリーは出せたものの、31kmまではある一定ペースで走れていたのに、それ以降突然カラダが動かなくなりました。このように、自分自身で体内のエネルギーが枯渇し、グリコーゲンも使い果たしてしまったことをリアルに体験したことなどが、この学問に興味を持ち出したきっかけです。

競技者を「現場」で支援する道を選択した「ターニングポイント」は北米・
コロラド州ボルダーでの経験

この学問を研究することを決意した上で、自分が今後、科学者として目指す方向性は、「現場」で競技者をサポートするということです。当時から運動生理学の研究者が様々な研究を行っていましたが、実際にアスリートを現場で支援する活動はまだまだ活発とはいえない状況であり、自分が現場に出掛けて行って役立つことができればと思いました。その後の私の生き方を決めた「ターニングポイント」は、1993年に日本陸上競技連盟が行った、北米コロラド州ボルダーでの1ヶ月間のマラソン・長距離の強化合宿に帯同した時です。多くの選手たちから研究室で研究していた自分の知識や経験の範疇を超える多種多様な質問を受けることとなり、現場に関わる研究者として、もっといろいろと勉強しなくてはならないと痛感しました。

アスリートには氾濫している情報を「選ぶ」力が求められている

今、競技者は、競技力向上のために役立つ情報を探そうしたら、数限りなく入手することができます。いわば、情報が「氾濫」していると言えるでしょう。そのため、エビデンスに基づかない様々な情報を断片的に入手し、理解せず鵜呑みにしてしまうアスリートも残念ながら散見されます。情報の中には信頼できる「知らないと損」的なエビデンス情報も多くあるのに、取り入れることができていないケースも見受けられます。また、口コミや「体感」することで安易に受け入れてしまう傾向が強くありますが、専門家に相談するなど気をつけた方がいいと思います。競技力向上を狙うようになればなるほど、「特効薬」になる何かが欲しくなるものですので注意してほしいと思います。エビデンスがあり、信頼できるかどうかを「見抜く」力を身に付け、良いものだと理解したら、継続して使ってみることが大切です

スポーツとは、カラダを動かすことで達成感や満足感がダイナミックに感じられるもの

スポーツとは、喜怒哀楽の全てが詰まっていて、全力で立ち向かえば、全てが感じられるものです。スポーツをすることによって、多くの仲間と出会うとともに、その結果として勝ち負けや記録などがついてきますから、それに付随して得られるものが必ずあるはずです。私が勧めているのは、いろんなことを手がけるのではなく、ひとつのことを深く継続してやることです。継続は力なりで、そうすることによって、その成果として何かしら有益なことが自分に跳ね返ってくるものです。もちろん複数のスポーツを楽しむこともいいと思います。自分のカラダを思いっきり動かすことで、達成感や満足感がダイナミックにリアルに感じられるようになる、それがスポーツです。感じる力、考える力、コミュニケーション力、生きる力を養ってくれる素晴らしいものです。

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運動生理学とは具体的にどんなこと?

運動生理学とは、運動時のカラダになぜこんな現象や変化が起こるのか?という変化そのものやそのメカニズムを明らかにする学問です。例えば、効果的なトレーニング効果を検討するために、運動の強度・頻度・実施時間などの組み合わせを検討することや、アミノ酸などの栄養素の摂取などの要素も組み合わせてその効果を研究し、実学として具体的な方法とその有用性を指し示すことです。
競技力を向上させるためには、データをしっかり取りためていくことが重要です。体重、体脂肪、体温や心拍数等を毎日こまめに記録することに加えて、定期的に行う血液検査の数値(ヘモグロビン、総蛋白、鉄、フェリチン、肝機能など)など、さまざまな指標となる数値があります。これらを継続してみることによって、点でしかなかったデータが、線になり、やがて面になり問題点や課題などがより明らかになっていきます。このような変化を追跡していくことで、今の状態がポジティブかネガティブかなど、客観的に把握することに役立ちます。あるマラソンのトップアスリートは、トレーニング時は常に心拍計をつけ、自分自身の体調をきちんと理解し、競技力を高めることに役立てていました。

運動生理学者の現場での支援には、コミュニケーション能力が欠かせない

以前、「科学は強化の後追い」「最後は、数字じゃない」と言うスポーツ指導者の方とお目にかかったことがあります。スポーツ現場に、我々運動生理学の研究者が出て行っても、無条件で受け入れていただけるわけではありません。言動を常に見られており、対話を重ねて、だんだんと信頼を得るようになって、その結果、「支援者」としてようやくみてもらえるようになるのです。もちろん科学者としての豊かな見識と経験知を備えることは必要ですが、競技力向上に役立つと考えられる運動生理学的データや知見を理解していただくためには、まずはコミュニケーションを上手に取ることだと常に意識しています。そのために私がモットーとしているのは「人として誠実に、謙虚に、そして明るくふるまう」ということです。そして「科学者ぶらない」ことが重要です。道具の運搬や整理など、自分でもできることは積極的にするようにしています。いくら良い知恵や技術を持っていても、人として受け入れられるか、そのことをまず第一に考えておかないといけないと思っています。
さらに欠かしていけないのは、自分自身の体調管理です。私は長年アスリート支援に携わっていて、国内外の数多くの合宿や大会の遠征などに帯同していますが、常に自分の体調には気を配り、一度も自身の身体に変調を来たしたことはありません。コンディショニング支援のプロとして携わっているのに、自分の体調が管理できない、そんな人が選手やチームをサポートできるわけがないと思うからです。

「スポーツ」が上達しやすい人とはこんなタイプ

自分にとって大切と思ったことを、素直に、ひたむきに、そして愚直に一生懸命実践する人です。諦めてしまったら、チャレンジしなくなったらそこで成長は止まってしまいます。
俗に「天才」と言われているアスリートでも、一見すれば何もしなくても素晴らしい出来栄えを披露しているように見えるかもしれませんが、選手は血のにじむような努力をひたむきに繰り返した結果、「天才」と言われるほどのパフォーマンスが発揮できるようになるのです。

運動におけるコンディショニングの重要性

コンディショニング、つまり体調管理は、リカバリー(回復)とトレーニングと常に連動し影響し合っている要素であり、非常に重要です
夏場のスポーツにおいて起きやすい現象として脱水がありますが、このときの尿比重を測定すると非常に高くなっています(濃くなっています)。運動によりカラダから水分は確実に抜けていくので、早め早めに水分補給しておくことが重要であると同時に、運動後の給水も常識となっています。疲労回復にも大きな影響を与えることを理解してほしいですね。
怪我や負傷しないための栄養摂取もコンディショニングには欠かせません。怪我をしやすい人は、自分に何が不足しているから怪我をしてしまうのか、一度冷静に考えてみましょう。例えば、たんぱく質の摂取が自分の体重に対して足りているのかどうかを調べてみることも賢明な方法です。食べた食事の内容や材料の種類・量などから、どの程度摂取したのか、計算することもできます。
また、自分のカラダに細胞がどのくらいあって、それぞれのパーツがどれくらいの頻度で入れ替わるかを意識しておくこともポイントです。例えば、骨は全量が入れ替わるには90日もかかりますが、小腸の上皮細胞は2日です。つまり腸の調子があまりよくないなら、それをいたわるような食事やサプリメントの摂取を含めた体調管理をするとよいと思いませんか?「栄養とは、自分のカラダをつくるもの」であることを常に意識しておくとよいでしょう。

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コンディショニングに役立つアミノ酸

BCAAなどのアミノ酸が競技力向上に貢献する科学エビデンスがありますが、摂り方によってその効率性が異なることを意識しておきましょう。
運動後にBCAAを摂ることが一般的になりつつありますが、アスリートならば、水と一緒に摂るよりも、糖質(果汁やスポーツドリンクなどもおすすめ)とともに摂っておくべきですが、残念ながらあまり徹底されていません。運動後の体内のエネルギー源は枯渇してしまっていることから、糖質は一刻も早く摂取しなくてはならない栄養素であることを理解していれば、自然と実践できることです。
私が2003年に発表した、腕を伸ばす運動(エキセントリック運動)を行って筋肉が疲労している時にBCAAなどのアミノ酸11.2gを摂取した研究結果では、2日後に明らかに回復が短縮していました。この結果から、日々トレーニングを行うアスリートは、アミノ酸を効率的に活用したほうがよいと思われます。

等速性収縮運動(関節を一定速度で筋肉運動を行う)後の筋力の推移
等速性収縮運動(関節を一定速度で筋肉運動を行う)後の筋力の推移
アミノ酸摂取群 プラセボ群 (sugitaら、2003)

※ピークトルク:個人の筋力をみるための指標で、関節をどの程度ねじる力があるかをトルクといい、単位はNm(ニュートンメーター)で示す。この試験では、トレーニング前のピークトルクに対する相対値(%)として算出した。

2001年に発表したデータでは、BCAAなどを含むアミノ酸、異なる量を30日間継続して摂取することによって得られる結果が異なっていました。男子陸上選手がアミノ酸6.6g摂取した群で貧血の指標であるヘモグロビン・赤血球数や筋肉損傷の指標であるクレアチンキナーゼ※で明らかな差が得られました。また女子選手(長距離走)が9.0gを60日間摂取すると、AST(肝機能指標の一つ)クレアチンキナーゼの値が低下し、肝機能の改善や、筋肉の炎症からの回復に役立つ結果となりました。
※クレアチンキナーゼ(CK): 筋肉が収縮する時のエネルギー代謝に関わっている酵素で、筋肉が損傷すると筋細胞から血液中に流入するため、血中濃度が上昇する。

アミノ酸摂取量の変化による貧血指標の変動
ヘモグロビン値赤血球数
実験開始時 2ヵ月後
アミノ酸摂取量の違いによるのCKの推移
アミノ酸摂取量の違いによるCKの推移
実験開始時 2ヵ月後 (Ohtanら、2001)
アミノ酸を60日間摂取した際の肝機能(AST)、筋肉炎症指標の推移 AST CK
+開始前に対してp<0.05 #30日後に対して p<0.05 (大谷、2003) ※AST:肝機能検査の1つで最も一般的なもの。肝臓が障害を受けると値が上昇する。

高温多湿(気温28℃、湿度70%)でエルゴメーターで運動した際に、15分ごとにBCAAを含むアミノ酸入りドリンク300mlを摂取し、トータルで2,400ml飲んだ際の実験結果があります。心拍数、自分でその運動がどの程度の強度であったかを6(非常に楽である)~20(非常にきつい)の範囲の数字で示す「主観的運動強度(RPE)」やカラダの疲労度の指標である血中乳酸濃度(La)などで統計的な有意差が得られました。これらの結果から、暑熱環境における運動による疲労の軽減にもアミノ酸は有用であると考えられます

運動中の平均RPE(脚)の比較運動中の平均Laの比較 アミノ酸摂取群 プラセボ摂取群 (杉田未発表資料)

杉田正明教授研究室について

トレーニングやコンディショニングおよびリカバリーについて総合的に研究しています。それらの研究のために、様々な検査装置や低酸素室などを備え、様々なトレーニング(含・低酸素トレーニング)実験やサプリメントなどの効果についても研究を行うなど、競技力向上に資する実践的な研究を推し進めています。卒業後は大学院に進んで研究を続ける学生たちも見られますが、教育学部であることから教員となるケースも多くなっています。2015年4月から大学院地域イノベーション学研究科も兼務し、博士後期課程の学生も受け入れ可能となりました。
「杉田正明教授研究室」ページはこちらから http://masaaki-sugita.com/

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