パク・シヒョンさんのスントゥブ(おぼろ豆腐)チゲ
パク・シヒョンさん(54歳)に会ったのは、冷たい秋風に思わず肩をすぼめてしまうような寒い日でした。主婦のパク・シヒョンさんが住んでいるのは、マンションが立ち並ぶ新興団地です。家の中に入ると、ベランダには輪切りの韓国かぼちゃや薄切りにした大根が、平らなザルいっぱいに広がっていました。近づいて見ると、しいたけがもうすでに秋の日差しを受けて、ちょうどよい具合に乾いています。こんなにたくさんどうなさるのですか?と尋ねると、ジャンアチ(しょうゆ漬けやみそ漬け。大根、きゅうり、にんにくなどを切干にして漬けこむ。)を作るつもりだとおっしゃいました。
「ジャンアチの素材は本当にたくさんありますよ。今が一番おいしい旬の大根や、夏の終わりに収穫した青唐辛子、唐辛子の葉、ワタリガニなど…それはそれはたくさんあります。韓国料理自体、素材の種類が豊富ですよね。ご飯に、スープ料理もしくはチゲ、キムチ、そしておかずを何種類か揃えないといけないのですが、普段から合間を見て、常備菜を作っておかないとそれは大変なことになります。その季節の旬の材料でジャンアチを二種類ほど作っておくと、あとはチゲなどを作るだけで充分献立がととのいます。」
春には青にんにくやにんにくの芽でジャンアチを漬け、夏には青唐辛子や玉ねぎ、秋には大根や身が詰ったワタリガニを漬けるそうです。
ほどよい塩味のジャンアチが常備菜だとすると、あつあつのチゲはメインメニューといえます。チゲは鍋のまま食卓にのせて、家族全員が囲んで食べる料理です。
特に気温が低くなってきて冷え込む日には、あつあつのチゲがますます恋しくなります。風が吹きつける寒い外から帰って食卓に座り、グツグツ煮えたチゲから立ちのぼる湯気に全身がフ〜ッとほぐれる心地よさ。チゲはそんな心温まる料理なのです。「私はスントゥブ(おぼろ豆腐)チゲをよく作ります。豆腐が身体によいということもありますが、のどごしがやわらかくて好きなのです。はまぐりやえびなどの魚介類があるときはそれを入れ、これといったものがないときはキムチだけ少し入れるのもおいしいですよ。火を止める前に卵をひとつ割り入れ、ごま油を数滴落とすと香ばしいスントゥブチゲが出来上がります。」
食卓に揃った家族がめいめい熱いチゲをよそい「あぁ、おいしい」といいながら食べる様子を見るのが一番幸せだとパク・シヒョンさんは言います。結婚を控えた息子さんが、これから幸せな家庭を築いてくれることが一番の願いだそうです。
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