ナムル、ナムル、ナムル
1 2 3 4 5
 


「ナムルの味をみれば、嫁の料理の腕がわかる」という韓国のことわざがあります。

ナムル料理は手間がかかり、作る人の心遣いが味を左右することから生まれたことわざです。山や野原で採れるナムルの材料は、下ごしらえをすべて手で行なうため大変です。下ごしらえに包丁を使ってしまうと、豆もやしは風味がおち、せりは香りが半減してしまいます。下ごしらえはもちろんのこと、さまざまな調味料を使ってよくあえなければならないナムルは、作り手の腕がそのまま表れる料理なのです。さまざまな調味料とは、ねぎ、にんにく、ごま油、塩、しょうゆなどを指します。どのナムルも調理法は似ていますが、味付けはバラエティ豊かです。ナムルはそれぞれの素材が持つ香りを失わないように仕上げなければならないので、作り手にとっては手間のかかる料理。とても繊細な料理といえるでしょう。

辞書でナムルという単語をひくと“食用の草、葉、根っこ、野菜などの総称、または、それをあえたおかずを意味する”と書かれています。このことからもわかるように、ナムルとは“ゆでて、あえておかずにする材料自体”と、“その材料で作ったおかずのすべて”を意味しています。ナムルの材料はそれぞれの素材に合わせて、塩もみ、ゆでる、炒める、蒸すなどの下ごしらえをします。素材の名をつけて“何々ナムル”と呼びますが、サン・ナムル(山菜のナムル)とドゥル・ナムル(野草のナムル)といった呼び方もあります。ご飯を主食とする韓国で、ナムルは毎日の食卓に欠かせない料理のひとつ。春になると、山や野原で手軽にナムルを採り、あえたものを食卓で楽しみます。日差しの温かい秋の日には、冬に備えて庭でナムルを干したりもします。かつてはナムルが、新鮮な野菜の少ない冬の間の大切なビタミン供給源になっていました。干したナムルをゆでたり、かるく炒めたりして、寒い季節も野菜をたっぷり楽しむのです。

普段はおかずとして1〜2品が食卓に並ぶナムルですが、お正月やおめでたい日に欠かせない行事食のナムルもあります。1年の豊作を感謝する日や満月に願いごとをする秋夕(チュソツ=陰暦8月15日)お正月(陰暦1月1日)にも、ナムルは欠かせない料理になっています。おめでたいときのナムルに三色ナムルがあります。ゴサリ(わらび)、トラジ(ききょうの根)、ほうれん草の、茶、白、緑の3色を取り合わせたものです。干したゴサリはサッとゆでて水で戻し、茎を取り除いて細く裂いて塩もみをし、苦味を取ります。味がよくしみこむように調味料で和えた後、ごま油をかけて炒めます。ほうれん草は塩水でゆでて4cm長さに切り、ねぎ、にんにくなどと一緒に調味料であえます。トラジは塩、ねぎ、にんにくを入れてかるく炒め、水を少し加えて火が通るまで蓋をして蒸らします。こうして作った三色ナムルを一皿に盛り、ごま塩を振って仕上げるのです。ナムルが欠かせない日がもうひとつあります。新年が明けて初めての満月の日(陰暦1月15日)の「上元(サンウォン)の日」です。韓国では豊作を祈願する日で、この日に食べるナムルは「ポルムナムル」といい、これを食べれば夏バテをしないといわれています。ポルムナムルは秋に干しておいたホバク(韓国かぼちゃ)やなす、大根の葉、チュイナムル(シラヤマギク)、トラジなどのナムルを盛り合わせたもの。この日は、米、麦、豆、アワ、キビなどの五つの穀物で五穀飯(オゴパプ)を炊き、9種類または12種類を取り合わせたポルムナムルを一緒に食べます。
毎日の食卓にも、さまざまな行事にも欠かせないナムルは、韓国で長年親しまれてきた料理です。それぞれの素材の個性を楽しむナムルは、天然のビタミンやミネラルも豊富。ほろ苦い山菜も、肝臓をおぎなって疲労を回復させるのです。ナムルは韓国人たちが親しんできた、ビタミンをおぎなう健康食といえるでしょう。

Top 次へ>  

バックナンバー