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2016年6月28日
アミノ酸シスチンとテアニン摂取による抗がん剤の
消化器症状の副作用軽減メカニズムを解明
~2016年6月23日 第25回国際がんサポーティブケア学会で発表~

 味の素株式会社(社長:西井孝明 本社:東京都中央区)は、アミノ酸の一種であるシスチンとテアニン(以下「アミノ酸シスチンとテアニン」※1)の医療現場での活用を目指し、基礎から臨床まで研究を進めています。当社が研究支援を続けてきた仙台オープン病院 院長 土屋 誉 医学博士のグループは、2014年にアミノ酸シスチンとテアニンの摂取により、抗がん剤による下痢や口内炎などの消化器症状の副作用を軽減し、治療の完遂率を有意に改善することを確認しました。当社のイノベーション研究所は、このメカニズムを解明し、その研究成果を2016年6月23日(現地時間)、オーストラリアで開催されたがん支持療法で世界最大の学会である第25回国際がんサポーティブケア学会で発表しました。

 近年、経口の抗がん剤の進歩により、入院せず仕事や日常生活を続けながら抗がん剤治療を実施できるようになりました。しかし、抗がん剤の多くはその投与により腫瘍だけでなく正常な腸管上皮細胞の細胞死を引き起こし(直接的影響)、腸管のバリア機能を低下させます。これにより、体内に侵入した腸内細菌が炎症反応※2を誘発することで、更に腸管上皮細胞の増殖の抑制および細胞死を引き起こし(間接的影響)、下痢、口内炎などの消化器症状の副作用が発生すると考えられています。そのため抗がん剤の減量や投与の中止につながることも多く、副作用の軽減が抗がん剤治療の課題となっています。

 今回発表した当社の研究では、抗がん剤TS-1※3の主成分であるフルオロウラシル(5-FU)※4を投与し、下痢などの消化器症状の副作用を起こしたマウスにおいてアミノ酸シスチンとテアニンの摂取による腸管上皮細胞と下痢の症状の経時的変化を観察しました。アミノ酸シスチンとテアニンを与えていないマウスの腸管上皮細胞では、5-FUを投与した翌日には抗がん剤による細胞死が観察され(直接的影響)、投与した4日後には炎症反応による細胞死が観察されました(間接的影響)。一方、アミノ酸シスチンとテアニンを与えると、土屋医学博士のグループによるヒト試験の結果と同様に、マウスでも下痢の症状が改善されました。このマウスの腸管上皮を調べた結果、抗がん剤による細胞死(直接的影響)は抑制せず、間接的な影響である腸管上皮細胞の増殖の抑制および細胞死を改善すること(細胞死の減少/増殖亢進)が示されました。

腸管上皮細胞での死細胞数の継時的変化
Values are expressed as mean ±SD
* P<0.001 compared to 5-FU injection group by Student’s t-test.

 今回、アミノ酸シスチンとテアニンの摂取により抗がん剤投与時の腸管上皮細胞の細胞死(間接的影響)を抑制することが判明し、下痢などの消化器症状の副作用の軽減に幅広く利用できる可能性が示唆されました。なお、アミノ酸シスチンとテアニンの摂取は生体内で抗酸化作用※6や免疫調節作用を持つグルタチオン※7を増加させ、炎症反応を抑制することが報告されています。

 当社はアミノ酸の基礎から臨床までの研究を継続して行い、医療現場での課題解決を通して、「健康な生活」に貢献していきます。

補足データ
<抗がん剤誘発性下痢モデルマウスへのアミノ酸
シスチンとテアニン投与の効果(下痢スコア)>
5-FU投与群では投与後6日目から8日目にかけて下痢スコアが上昇(下痢症状が悪化)したことが観察されました。一方、5-FU+アミノ酸シスチンとテアニン群では実験期間中、一貫して下痢スコアの上昇は見られないことから、5-FU誘導性の下痢が抑制されたことが確認しました。
(下痢スコア)
0:正常、1:軟便、2:軟便(少々水分を含む)、3:下痢(固形の便)、4:下痢(水状の便)

用語の説明
※1:アミノ酸シスチンとテアニン:
  1) シスチンは肉類に比較的多く含まれているアミノ酸で、非必須アミノ酸であるシステインがSH基で2個結合(S-S結合)したもの。
2) テアニンはお茶の葉に含まれているうま味アミノ酸で、非必須アミノ酸であるグルタミン酸の誘導体。摂取すると体内でグルタミン酸とエチルアミンに分解される。
3) アミノ酸シスチンとテアニンの摂取は強い運動負荷時の免疫抑制の改善、風邪症状の抑制、手術後の過剰な炎症を抑制することが示されている。

※2:炎症反応
  細菌の体内への侵入等の外部からの刺激を受けた際に免疫応答が働き、その結果生体に現れる生理的な応答反応。過剰もしくは継続的な炎症反応は免疫応答を異常な状態にして、組織の回復を遅延させる。

※3:TS-1
  消化器がん(胃がん、結腸・直腸がん)、頭頚部がん、非小細胞肺がん、手術不能または再発乳がん、膵臓がんに用いられる抗がん剤。副作用として MochizukiらBr J Cancer (2012) 106(7) 1268-1273 では口内炎、食欲不振、下痢、倦怠感等が示されている。

※4:フルオロウラシル(5-FU)
  核酸の合成を阻害してがん細胞に細胞死を引き起こすフッ化ピリミジン系の抗がん剤。TS-1に含まれる抗がん剤の活性本体。

※5:クリプト
  小腸や大腸の内腔表面にある小さな管状のくぼみ。ここには常に分裂して腸管内腔表面に上皮細胞を供給する役割を持つ増殖細胞が存在する。

※6:抗酸化作用
  生体の酸化ストレスを無毒化すること。活性酸素が体内で大量に作られ、さまざまな細胞内器官に障害が起きる状態、あるいは生体内で活性酸素の解毒が追い付かない状態をバランスよく正常化する働き。

※7:グルタチオン
  1) 3つのアミノ酸、グルタミン酸・システイン・グリシンがこの順に結合した物質。生体内で重要な抗酸化物質である。日本では医薬品として発売されている。
2) グルタチオン産生能力の向上効果について
当社および大阪府立公衆衛生研究所との共同研究により、シスチンとテアニンの経口投与によりグルタチオン合成の上昇が観察され、さらに免疫機能も増強することを明らかにしている(Kuriharaら J Vet Med Sci. 2007 69(12):1263-70. TakagiらJ Vet Med Sci. 2010 72(2):157-65.)。

*「第52回日本癌治療学会」(2014年8月)で発表
 http://www.ajinomoto.co.jp/company/jp/presscenter/press/detail/2014_09_01.html

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