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2013年6月19日
味の素社、アミノ酸シスチンとテアニンの
炎症反応による体温上昇の抑制効果と、
シスチンによる炎症抑制メカニズムを解明
2013年7月4日(木)・5日(金)日本外科代謝栄養学会第50回学術集会にて発表

 味の素株式会社(社長:伊藤雅俊 本社:東京都中央区)は、アミノ酸の一種であるシスチンとテアニン※1を摂取することにより、過剰な炎症※2反応による体温上昇(発熱)を抑制する効果と、体内で炎症反応が抑制される作用メカニズムを初めて解明しました。
 今回の研究とこれまでの知見から新たに確認されたのは、シスチンとテアニンがグルタチオンの合成を介して炎症反応とそれによる体温上昇を抑える効果と、シスチンが免疫担当細胞※3内で抗炎症性サイトカイン※4を増やし、炎症反応を抑える作用メカニズムです。当社は、これらの研究成果を2013年7月4日(木)から東京で開催される日本外科代謝栄養学会第50回学術集会で発表※5します。

 一般的に、激しい運動や外科手術の後には、身体を治そうとする生体反応として炎症反応が起こることが知られています。この炎症反応が過剰に起こった場合、体温上昇や、免疫機能※6低下による感染症リスクの高まりなどにより、体調回復が遅れてしまうことがあります。
 これまでの研究※7で、シスチンとテアニンには、外科手術後の早期回復やインフルエンザ・風邪などの感染症リスクの低減効果があることが確認されています。
 今回の研究結果を含め、これら体内におけるメカニズムが明らかになったことにより、将来的に、シスチンとテアニンが外科手術後の早期回復のみならず、長期療養型の病院や介護施設でのインフルエンザ・風邪予防を目的として、広く活用されることが期待されます。

 当社は100年にわたるアミノ酸研究で培った知見と技術を活かし、医療現場における課題解決にさらに大きく貢献できるよう、研究を継続していきます。

 なお、7月5日(金)に同学術集会において、当社は日本外科代謝栄養学会との共催でランチョンセミナーを開催し、土屋誉先生(仙台市医療センター 仙台オープン病院副院長 消化器外科・一般外科 主任部長)により「アミノ酸(シスチンとテアニン)の抗炎症・免疫増強作用」について、ご講演頂きます。
 2011年に、同学会で土屋先生が発表した、外科手術の前後におけるシスチンとテアニンの抗炎症・免疫増強作用に関する演題は、日本外科代謝栄養学会より優秀発表としてASPEN(米国経腸栄養学会)へ推薦され、ASPENの機関誌であるJPEN (Journal of Parenteral and Enteral Nutrition) 誌へ投稿され、受理されました。※8


<用語説明>
※1 アミノ酸シスチンとテアニンとは
1) シスチンとは
肉類に比較的多く含まれているアミノ酸で、非必須アミノ酸であるシステインがSH基で2個結合(S−S結合)したもの。

2) テアニンとは
お茶の葉に含まれているうま味アミノ酸で、非必須アミノ酸であるグルタミン酸の誘導体。摂取すると体内でグルタミン酸とエチルアミンに分解される。

3) アミノ酸シスチンとテアニンの配合物を使用する理由
免疫機能の調整で重要な働きをするグルタチオン(グルタミン酸、システイン、グリシンの3つのアミノ酸が結合した生体内で合成される抗酸化因子で加齢やストレスで減少)の合成を上昇させることを目的に配合。

※2 炎症とは
感染、外傷や熱傷など、生体が外部から何らかの刺激を受けた際に免疫応答が働き、その結果生体に現れる生理的な応答反応で、過剰もしくは継続的な炎症反応は免疫機能を低下させ、回復を遅延させる。

※3 免疫担当細胞とは
免疫に関与する細胞の総称。抗原を認識し、特異的に反応する能力をもつ。

※4 抗炎症性サイトカインとは
免疫システムの細胞から分泌されるタンパク質で炎症を抑制する働きをもつものの総称。

※5 日本外科代謝栄養学会第50回学術集会での発表演題
1) 【登録番号10041LPS誘導性炎症モデルにおけるアミノ酸シスチン・テアニン投与による体温上昇抑制効果(柴草哲朗、栗原重一、千葉康雅、土屋誉、田中賢治、小山淳)

2) 【登録番号10047】シスチンはインターロイキン-10産生の増強を介してLPSが誘導する炎症反応を抑制する(田中賢治、栗原重一、柴草哲朗、千葉康雅)

【発表演題10041、10047
・発表セッション名 : 要望演題1 侵襲、炎症、免疫
・発表会場 : 第2会場/中会議場(3)・(4)
・発表日 : 2013年7月4日 9時30分〜10時40分

※6 免疫機能とは
免疫とは自身の正常な細胞である自己と異常な細胞やウイルス・細菌などの非自己を区別して、非自己を攻撃、殺傷、排除することで、その働く力を免疫力という。

※7 これまでの研究とは
1) 東京大学と共同での臨床研究
駅伝選手やボディビル選手を対象とした臨床研究で、アミノ酸シスチンとテアニンが強度な運動による炎症反応と免疫機能低下を抑制する成果を取得。
<参考文献> Biosci Biotechnol Biochem (2009) 73: 817-21
J Strength Cond Res (2010) 24: 846-51
J Int Soc Sports Nutr (2010) 7: 23

2) 仙台オープン病院と共同での臨床研究
胃の部分切除(手術)患者を対象とした臨床研究で、アミノ酸シスチンとテアニンを術前・術後に10日間摂取することで、手術に伴う過剰な炎症反応と免疫機能低下を抑制し、早期体調回復に有効である成果を取得。
<参考文献> JPEN J Parenter Enteral Nutr (2013) 37: 384-91
*アミノ酸シスチンとテアニンの効果は、医療現場でも高く評価され、仙台オープン病院では、手術後の早期回復を目的として、手術入院患者向けクリニカルパスにシスチンとテアニンが導入されています。


3) 厚生労働省の班研究の一環として、65歳以上の施設入所高齢者での試験
アミノ酸シスチンとテアニンが、加齢に伴い免疫機能が低下した高齢者におけるインフルエンザワクチンの有効性を高める成果を取得。
<参考文献> Geriatr Gerontol Int (2008) 8: 243-50

4) 健常男性ボランティアでの試験
アミノ酸シスチンとテアニンの摂取により、風邪の罹患率の低下、風邪の諸症状である発熱や悪寒の発症率の低下、および炎症に由来する諸症状(鼻水・喉の痛みなど)を抑制する成果を取得。
<参考文献> J Amino Acids (2010) 2010: 307475

※8
Perioperative oral administration of cystine and theanine enhances recovery after distal gastrectomy: a prospective randomized trial <JPEN J Parenter Enteral Nutr (2013) 37: 384-91>


■参考資料
研究成果<1>
LPS※1を、炎症を起こす薬剤としてラットに投与して発熱を起こし、その発熱に対するシスチンとテアニン摂取の影響を調べました。その結果、シスチンとテアニンを摂取していないラット(コントロール)、摂取したラットともに、LPS投与後に体温の上昇が見られましたが、シスチンとテアニンを摂取したラットでは、摂取していないラットに比べて体温の上昇が小さいことが分りました(図1)。
LPSは、細胞内の酸化ストレス※2を増大させ、炎症性サイトカインを発現させることで体温上昇を引き起こすと考えられています。一方で、生体内の主な抗酸化反応を担い、3個のアミノ酸(グルタミン酸、システイン、グリシン)からなるグルタチオンの合成は、酸化ストレスやサイトカインの発現が抑制されることが明らかとなっています。
シスチンとテアニンは、グルタチオンの合成を増強することから、シスチンとテアニンはグルタチオンの合成を介して、細菌感染時の過剰な炎症反応を抑制し、高熱の発生を抑え、身体の回復を早める可能性があることが分かりました。


研究成果<2>
まず、単一アミノ酸シスチンを経口摂取したマウスにLPSを投与し、炎症反応を引き起こす炎症性サイトカインIL-6※3の血中レベルを測定しました。その結果、シスチンを摂取したマウスでは、摂取していないマウスに比べて、LPS投与によって産生されるIL-6が少ないことが分りました(図2)。
次に、LPSを添加した免疫担当細胞の一つである単球細胞THP-1※4でも、マウスと同様にLPSによって産生されるIL-6量を調べたところ、シスチンを添加した単球細胞では、添加していない単球細胞と比べてIL-6産生を抑制することが分りました(図3)。
さらに、シスチンを添加した単球細胞THP-1で、炎症反応を抑える抗炎症サイトカインIL-10※5の産生量を調べたところ、シスチンは単球細胞からのIL-10産生を増強することが分りました(図4)。
また、このシスチンによる単球細胞からのIL-10産生増強をなくしてしまうと、シスチンによるIL-6産生を抑制する効果の消失が認められました。
これらの結果は、シスチンが単球細胞からの抗炎症性サイトカインIL-10の産生量を増加させることで、炎症を引き起こすIL-6の産生を抑えて、過剰な炎症反応、さらには高熱の発生を抑制している可能性を示しています。






<用語説明>
※1 LPSとは
リポ多糖Lipopolysaccharideの略で、エンドトキシン(内毒素)の一種。炎症性サイトカインの分泌を促進し、発熱作用を引き起こす。

※2 酸化ストレスとは
活性酸素が産生され障害作用を発現する生体作用と、生体システムが直接活性酸素を解毒したり、生じた障害を修復する生体作用との間で均衡が崩れた状態のこと。

※3 IL-6とは
インターロイキン(interleukin-6は、炎症性サイトカインの一種で、T細胞や単球、マクロファージなどの免疫担当細胞から産生される。
インターロイキンとは・・・一群のサイトカインで、白血球によって分泌され細胞間コミュニケーションの機能を果たすもの。
サイトカインとは・・・免疫システムの細胞から分泌されるタンパク質で種々の細胞間相互作用を媒介するもの。

※4 単球細胞THP-1とは
免疫担当細胞の一つ。
急性単球系白血病の1歳患児から確立されたヒト単球系培養細胞株。

※5 IL-10とは
インターロイキン(interleukin-10は、抗炎症性サイトカインの一種で、活性化B細胞や単球、マクロファージなどの免疫担当細胞から産生され、炎症性サイトカイン産生をはじめとする免疫機能に対し抑制性に作用する。

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