2012年5月28日
味の素(株)と三井記念病院の共同研究成果
「アミノインデックス技術」により、内臓脂肪型肥満の判別可能性を確認
学術ジャーナル「Clinical Obesity」オンライン版に論文掲載
 味の素株式会社(社長:伊藤雅俊 本社:東京都中央区)は、三井記念病院(東京都千代田区)の山門實総合健診センター所長を中心としたグループと共同で、メタボリックシンドローム(生活習慣病)において重要な役割を担う内臓脂肪蓄積と血中アミノ酸濃度バランスの変動に関する研究を推進してきました。このたび、山門所長らは、内臓脂肪量に応じて血中アミノ酸濃度バランスが変化していること、および、血中アミノ酸濃度を変数とした多変量解析により、BMI、ウエスト周囲径では見つけづらく、測定には高度な測定器が必要な内臓脂肪蓄積者の発見への応用が可能であることを大規模臨床試験により明らかにしました。この研究成果は、内臓脂肪蓄積による血中アミノ酸濃度バランスの変化とメタボリックシンドローム検査への応用の可能性に関する論文として現地時間2012年5月22日に学術ジャーナル「Clinical Obesity」(*)に掲載されました。

(*) 「Clinical Obesity」:
国際肥満研究学会 International Association for the Study of Obesity(IASO、本部:ロンドン)
の公式学術ジャーナルで、肥満や肥満関連疾患に関する質の高い臨床研究、応用研究についての論文を掲載する専門学術誌。

 当社では、血中アミノ酸濃度バランスの変動を統計学的に解析・指標化し、健康状態や疾病のリスクを明らかにする「アミノインデックス技術」の研究開発を行ってきました。血中アミノ酸濃度は、生体の恒常性維持機能により一定に制御されていますが、種々の疾患によりバランスが崩れ、健康な人と比較して変化していることが、これまで多くの論文で報告されています※1。特に、アミノ酸代謝とがんに関する研究を進め、現在6種類(胃、肺、大腸、前立腺、乳腺、婦人科)のがんの早期発見の可能性が明らかとなっています。

【論文概要】
 内臓脂肪蓄積者の血中アミノ酸濃度が変化することはこれまでも報告されていましたが、いずれも基礎的な研究段階にとどまっていました。本研究では、実際の人間ドック利用者1,449名の血中アミノ酸濃度バランスを測定することにより、メタボリックシンドロームにおいて重要な役割を担っている内臓脂肪蓄積状態の判別の可能性を検証することを目的とした臨床研究を実施しました。
 メタボリックシンドロームの診断は、内臓脂肪の蓄積の有無を必須項目としています。その一つの方法として、CTで臍(へそ)の位置の断面像を撮影し、内臓脂肪にあたる面積(内臓脂肪面積)を算出します。一般的には
100cm以上で内臓脂肪の過剰蓄積とされ、動脈硬化、脳卒中、心筋梗塞等のリスクが上昇することが知られています。今回の研究では、実際の人間ドック利用者の中で、内臓脂肪面積が6cmから388cmまでの方々の血中アミノ酸濃度バランスと内臓脂肪量の比較を行いました。

 その結果、
   1) BMIやウエスト周囲径は、内臓脂肪量よりも皮下脂肪量に強く相関することから、内臓脂肪型肥満であるにも関わらず判別しづらいのに対して、数種類の血中アミノ酸濃度は皮下脂肪量よりも内臓脂肪量に強く相関し、内臓脂肪蓄積の判定に利用し得ることが示されました(図1)。
   2) 血中アミノ酸濃度バランスを多変量解析することにより得られた判別関数は、BMI等が必ずしも高くない「隠れ肥満」の人を高い精度で判別することができ、内臓脂肪面積が100cm以上の状態の群をROC曲線下面積※2で0.81の精度で判別できることを示す結果が得られました(図2)。

  図1 血中アミノ酸濃度の分布

BMI、ウエスト周囲径と内臓脂肪 面積、皮下脂肪面積の関係を左に、各アミノ酸濃度と内臓脂肪面積、皮下脂肪面積の関係を右に示した。
BMI、ウエスト周囲径は内臓脂肪 面積よりも皮下脂肪面積に強く相関するが、血中アミノ酸濃度は内臓脂肪面積により強い相関を示した。

「健常」、「見かけ肥満」、「隠れ肥満」、「肥満」の各定義は以下の<参考情報>に記載。


  図2 「アミノインデックス技術」による内臓脂肪型
    肥満の判別


日本人には、BMIやウエスト周囲径では見つけづらい内臓脂肪型肥満が多数いることが知られている。「アミノインデックス技術」により、適正体重か過体重かに拠らず、内臓脂肪型肥満であることを感度良く見つけ出すことが可能であることが示された。ROC曲線下面積で0.81の精度。「隠れ肥満」の検出感度は、ウエスト周囲径の46%に対して、「アミノインデックス技術」では73%と高感度。内臓脂肪面積が100cm以上かそれより少ないかで内臓脂肪型肥満か否かを区分し、BMIが25以上かそれより少ないかで過体重か否かを区分した。

 今回の研究で得られた知見を応用することで、「アミノインデックス技術」によって、1回の採血で簡便に、高い精度でメタボリックシンドロームの早期発見ができる可能性があります。また社会問題化しているメタボリックシンドロームの予防の機会を増大し、糖尿病や脳卒中、心筋梗塞による死亡者の低減と、その治療に関わる医療費の低減にもつながると考えられます。今後、当社では「アミノインデックス技術」に関して、疾患の対象を拡充していくと共に、血中アミノ酸濃度バランスが変動する機構の解明、ならびにコホート研究※3等、さらなる研究を継続していきます。

 当社は「おいしさ、そして、いのちへ。」のスローガンのもと、グローバル健康貢献企業を目指しています。
「アミノインデックス技術」が、人々の健康な生活に貢献し、栄養サポート、運動、美容などにも領域を広げ、生活習慣病のリスク低減や医療費削減の一助となることを目指します。

<参考情報>
日本人(アジア人)には「隠れ肥満」が多い

  

 

 

論文の題名と著者
Plasma amino acid profile is associated with visceral fat accumulation in obese Japanese subjects
Minoru Yamakado1, Takayuki Tanaka2, Kenji Nagao2, Yuko Ishizaka1, Toru Mitushima3, Mizuki Tani1, Akiko Toda1, Eiichi Toda4, Minoru Okada3, Hiroshi Miyano2, Hiroshi Yamamoto2
1. Center for Multiphasic Health Testing and Services, Mitsui Memorial Hospital, 2. Institute for Innovation, Ajinomoto Co., Inc., 3. Kameda Medical Center Makuhari, 4. Clinical Laboratory, Mitsui Memorial Hospital

※1 杤久保修・安東敏彦 「アミノ酸と生活習慣病 最新アミノグラムで探る『いのち』の科学」
女子栄養大学出版部 (2010) を参照。
当社でこれまでに発表した「アミノインデックス技術」に関する論文;
1. Noguchi, et al. (2006) Am J Clin Nutr 83: 513S-519S.
2. Zhang, et al. (2006) Hepatol Res 34: 170-177.
3. Kimura, et al. (2009) Curr Opin Clin Nutr Metab Care 12: 49-53.

これまでに発表された「アミノインデックス技術」を用いたがんの診断に関する論文;
1. Okamoto, et al. (2009) Int J Med Med Sci 1, 1-8
2. Maeda, et al. (2010) BMC Cancer 10, 690
3. Miyagi, et al. (2011) PLoS One 6, e24143
     
※2 ROC曲線下面積
ROC(受信者動作特性)曲線は、ある検査によって正しく診断される確率をあらわす指標で、その曲線下面積は、0.5〜1の値を取り、理想的な検査では値が1になります。一般に0.7以上の場合には有効な検査、0.8以上の場合には優れた検査とみなされます。
     
※3 コホート研究
疫学的研究法の一つで、ある集団を将来にわたって追跡調査を行い、後から発生する疾病を確認する研究手法です。例えば血中アミノ酸濃度バランスの解析結果から疾患リスクが高いと判別された被験者群と、疾患リスクが低いと判別された被験者群というように分類し、将来の疾患発生率の比較を行い、血中アミノ酸濃度バランスとの間にある因果関係を調べるような研究を指します。

報道関係の方向けお問い合わせ先:pr_info@ajinomoto.com
 
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