2011年9月8日
味の素(株)と神奈川県立がんセンター
「がんにおける血中アミノ酸濃度バランスの変化と
がん早期発見への応用可能性」について
オンライン学術ジャーナル「PLoS ONE」に論文掲載
 味の素株式会社(社長:伊藤雅俊 本社:東京都中央区)は、神奈川県立がんセンター(神奈川県横浜市)の宮城洋平 臨床研究所がん分子病態学部・部長、岡本直幸 同がん予防情報学部・部長を中心としたグループと共同で、5種類のがん(肺がん、胃がん、大腸がん、乳がん、前立腺がん)における、がん患者の血中アミノ酸濃度バランスの変動に関する研究を推進してきました。この度、宮城部長らは、がん患者では健康な人と比較して血中アミノ酸濃度バランスが有意に変化しており、その変化は早期がん患者から認められること、および血中アミノ酸濃度を変数とした多変量解析により、がんの早期発見への応用が可能であることを、多施設における
大規模試験で明らかにしました。
この研究成果は、オンライン学術ジャーナル「PLoS ONE」(*)に、現地
時間2011年9月7日に掲載されました。
URL:http://www.plosone.org/article/info%3Adoi%2F10.1371%2Fjournal.pone.0024143
(*)「PLoS ONE」:NPO法人Public Library of Science(PLoS、本部:米国サンフランシスコ)によって運営されているアクセスフリーの米国オンライン学術ジャーナルで、生物学、医学分野の論文を中心に掲載する主要な総合媒体。

 当社では、血中アミノ酸濃度のバランスの変動を統計学的に解析・指標化し、健康状態や疾病のリスクを明らかにする「アミノインデックス技術」の研究開発を行ってきました。血中アミノ酸濃度は、生体の恒常性維持機能により一定に制御されていますが、種々の疾患においてバランスが崩れ、健康な人と比較して変化していることが、これまで多くの論文で報告されています※1

【論文概要】
 がん患者において血中アミノ酸濃度が変化することは、これまでにも報告されていましたが、いずれも小規模な研究にとどまっていました。本研究では、複数の病院や人間ドックから早期がん患者を含めて大規模に臨床症例を集め、血中アミノ酸濃度バランスを測定することにより、がん患者と健康な人とを判別する可能性を検証するための症例対照研究を実施しました。
 今回の研究では、がん種ごとに130〜200名、合計928名のがん患者と、各がん種ごとに対照として650〜1,000名、合計4,618名の健康な人の血中アミノ酸濃度バランスの比較を行いました。
 その結果、
   1) 健康な人に比べ、がん患者では血中アミノ酸濃度バランスが有意に変化していること、およびがん患者における血中アミノ酸濃度バランスの変化には、がん種間で共通するアミノ酸群の変化と、がん種により特徴的に現れるアミノ酸群の変化があることが示されました(下図)。
   2) 血中アミノ酸濃度バランスの変化は、早期がん患者でも認められることが明らかになりました。
さらに、多変量解析の一つである判別分析を行うことにより得られた判別関数は、がん患者と健康な人を、ROC曲線下面積※2で0.75以上の精度で判別できることを示す結果が得られました。なお、この判別関数を用いると、早期がん患者でも判別できることが示されました。


 今回の研究で得られた知見を応用することで、「アミノインデックス技術」によって、血液で簡便に高い精度で複数のがんの早期発見ができる可能性があります。また日本人の死亡原因の1位であるがんの早期治療の
機会を増大し、がんによる死亡者の低減と、その治療に関わる医療費の低減にもつながると考えられます。
今後、当社では「アミノインデックス技術」に関して、疾患の対象を拡充していくと共に、血中アミノ酸濃度バランスが変動する機構の解明、ならびにコホート研究※3等、さらなる研究を継続していきます。



論文の題名と著者
Plasma free amino acid profiling of five types of cancer patients and its application for early detection
Yohei Miyagi1*, Masahiko Higashiyama2, Akira Gochi3, Makoto Akaike1, Takashi Ishikawa4, Takeshi Miura1, Nobuhiro Saruki5, Etsuro Bando6, Hideki Kimura7, Fumio Imamura2, Masatoshi Moriyama8, Ichiro Ikeda9, Akihiko Chiba1, Fumihiro Oshita1, Akira Imaizumi10, Hiroshi Yamamoto10, Hiroshi Miyano10, Katsuhisa Horimoto11, Osamu Tochikubo12, Toru Mitsushima13, Minoru Yamakado14, and Naoyuki Okamoto1
1. Kanagawa Cancer Center, 2. Osaka Medical Center for Cancer and Cardiovascular Diseases, 3. Okayama University Hospital, 4. Yokohama City University Medical Center, 5. Gunma Prefectural Cancer Center, 6. Shizuoka Prefectural Cancer Center, 7. Chiba Prefectural Cancer Center, 8. Yokohama Municipal Citizen's Hospital, 9. Yokohama Minami Kyosai Hospital, 10. Institute for Innovation, Ajinomoto, Co., Inc., 11. National Institute of Advanced Industrial Science and Technology, 12. Kanagawa Health Service Association, 13. Kameda Medical Center Makuhari, 14. Mitsui Memorial Hospital

※1 杤久保修・安東敏彦 「アミノ酸と生活習慣病 最新アミノグラムで探る『いのち』の科学」
女子栄養大学出版部 (2010) を参照。
当社でこれまでに発表した「アミノインデックス技術」に関する論文;
1. Noguchi, et al. (2006) Am J Clin Nutr 83: 513S-519S.
2. Zhang, et al. (2006) Hepatol Res 34: 170-177.
3. Kimura, et al. (2009) Curr Opin Clin Nutr Metab Care 12: 49-53.

これまでに発表された「アミノインデックス技術」を用いたがんの診断に関する論文;
1. Okamoto, et al. (2009) Int J Med Med Sci 1 1-8
2. Maeda, et al. (2010) BMC Cancer 10.690
3. 三浦ら(2011) 人間ドック 26.51-55 
     
※2 ROC曲線下面積
ROC(受信者動作特性)曲線は、ある検査によって正しく診断される確率をあらわす指標で、その曲線下面積は、0.5〜1の値を取り、理想的な検査では値が1になります。一般に0.7以上の場合には有効な検査、0.8以上の場合には優れた検査とみなされます。
     
※3 コホート研究
疫学的研究法の一つで、ある集団を将来にわたって追跡調査を行い、後から発生する疾病を確認する
研究手法です。例えば血中アミノ酸濃度バランスの解析結果から疾患リスクが高いと判別された被験者群と、疾患リスクが低いと判別された被験者群というように分類し、将来の疾患発生率の比較を行い、
血中アミノ酸濃度バランスとの間にある因果関係を調べるような研究を指します。

報道関係の方向けお問い合わせ先:pr_info@ajinomoto.com
 
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