2007年7月11日
紅花種子特有のポリフェノール成分に“血管年齢”改善効果を発見
−第39回日本動脈硬化学会にて発表−
 味の素株式会社(社長:山口範雄 本社:東京都中央区)は、紅花種子特有のポリフェノール成分が血管年齢改善効果を有する可能性のあることを明らかにしました。

 植物は厳しい外部環境と戦っていくための生体防御成分を種子に多く蓄えています。当社では様々な種子の解析を通じて、紅花種子に含まれる抗酸化成分、クマロイルセロトニン(N-(p-Coumaroyl)serotonin)、フェルロイルセロトニン(N-Feruloylserotonin)が他の植物種子にはほとんど含まれない極めてユニークなポリフェノール(紅花種子ポリフェノール(1))であることを発見し、その生理機能について研究を進めてきました。

 その結果、紅花種子ポリフェノールが血管年齢の指標でもあるPWV(脈波伝播速度(2))の改善作用を有することを動物モデルにて確認しました。さらに研究を重ねて、作用メカニズムの一端を明らかとするとともに、これらをヒトが摂取しても、期待した作用が安全に発揮される可能性のあることを示すことができました。これらの研究成果は、2007年7月13−14日に開催される、第39回日本動脈硬化学会で発表する予定です。

 血管は、加齢とともに硬くなっていきますが、生活習慣の乱れや喫煙、様々なストレスによっても傷つけられ、血管の硬化はさらに促進され、健康な生活の妨げにつながっていくことが明らかとなっています。このような血管の状態を長い間放置しておくと、心筋梗塞、狭心症、脳卒中といった動脈硬化性の疾患の発症の原因となります。

 最近、血管の健康状態を知ることの重要性が背景となって、“血管年齢”という考えが注目されるようになってきました。“血管年齢”は特に動脈の硬化度を表し、年齢と相関して硬化度が高まっていくことから、平均的な硬化度の進展を“年齢”で表現したものです。すなわち、実年齢より“血管年齢”が低いことは、血管が健康な状態である一つの目安と考えられます。
“血管年齢”は私たちの健康を維持する上でこれから益々重要な指標になると考えられます。

(1)紅花種子ポリフェノールとは?
  紅花種子は主に油脂の原料として世界中で栽培、利用されていますが、韓国、エチオピア、および日本などにおいては食品としても摂取されています。クマロイルセロトニン(N-(p-Coumaroyl)serotonin)、フェルロイルセロトニン(N-Feruloylserotonin) は紅花種子中に特徴的に含まれるポリフェノールで、極めて強い抗酸化活性をもつことが知られています。

抗酸化成分である紅花種子ポリフェノール(クマロイルセロトニン(N-(p-Coumaroyl)serotonin)、フェルロイルセロトニン(N-Feruloylserotonin))」は、1kgの紅花種子に約3g含まれる成分です。


【研究内容の詳細】

 福島県立医科大学との共同研究により、高コレステロール血症と動脈硬化を自然発症するKHC(Kurosawa-Kusanagi Hypercholesterolemic)ウサギに紅花種子抽出物または紅花種子ポリフェノールを高コレステロール食とともに8週間摂取させたところ、PWVの有意な改善が認められることを明らかにしました(図1)。

《ウサギに対する作用》
図1の説明:

KHCウサギに紅花種子抽出物または紅花種子ポリフェノールを高コレステロール食とともに8週間摂取。

摂取後、高コレステロール食のみの群(コントロール)と比べて有意なPWVの改善を示した。
**危険率1%で有意差あり。
図1.動脈硬化自然発症モデルKHCウサギに対する紅花種子抽出物、関与成分紅花種子ポリフェノールの効果

 メカニズム研究として、動脈の硬化は血管の最も内側を覆っている血管内皮上で生じる炎症反応が発生の一因とされていますが、このポリフェノールは血管内皮細胞(3)を用いた実験で、炎症反応に重要な蛋白(VCAM-1, MCP-1(4))の発現を抑えることが京都府立医科大学の研究により確認されました。
 当社の研究では、紅花種子ポリフェノールは摂取によって体内に吸収されること、悪玉コレステロールであるLDLコレステロールの酸化を抑制することで、“超悪玉”である酸化LDL(5)の産生を抑えることを明らかにしました。また、紅花種子ポリフェノールは血管を弛緩させ、血管の伸展性を改善すること、血管平滑筋細胞(6)の増殖を抑えることで血管の組織的変化による硬化を抑制する可能性のあることも明らかにしました。

 さらに、ヒトに対する作用研究では、紅花種子ポリフェノールを高含有する紅花種子抽出物を調製し、男性(30〜55歳、平均37歳)を対象に4週間摂取させたところ、上腕−足首脈波伝播速度(baPWV)が高めの対象者においては低下が認められました。(図2)

《ヒトに対する作用》
図2の説明:

紅花種子ポリフェノール高含有紅花種子抽出物を4週間摂取。

上腕−足首脈波伝播速度(baPWV)が高めの対象者において、摂取前から摂取後に有意な低下が認められた。
*危険率5%で有意差あり。
図2. baPWV高め(≧1300 cm/sec:14名)の対象者に対する
紅花種子ポリフェノール高含有紅花種子抽出物の効果

 また全被験者を対象とした解析で、酸化LDL指標である、抗酸化LDL自己抗体価(5)、ならびに炎症の指標である可溶性VCAM-1(4)などが摂取終了時に有意に低下し、基礎研究で明らかとなった作用メカニズムを通じて、効果を発揮する可能性の高いことが示されました(図3)。

  図3の説明:

紅花種子ポリフェノール高含有紅花種子抽出物を4週間摂取。上記の指標は、いずれも対象者20名中 16名で摂取後に低下を示した。これらの低下は統計学的にも有意なものであった。摂取終了4週間後  (8weeks)の解析では摂取前のレベルに戻る傾向を示したことから、これらの作用は紅花種子抽出物摂取による可能性の高いことが示された。
*危険率5%、**危険率1%で有意差あり。
 
図3. 酸化LDL指標(血中抗酸化LDL自己抗体価)、炎症指標(可溶性VCAM-1)に対する紅花種子ポリフェノール高含有紅花種子抽出物の効果


 味の素株式会社では、今後も紅花種子ポリフェノールについての研究を継続していきます。将来的には紅花種子ポリフェノールの機能を活用し、血管年齢を改善することで生活者の健康維持に大きく貢献していきたいと考えています。


−用語説明−

(1)紅花種子ポリフェノール
 紅花種子は主に油脂の原料として世界中で栽培、利用されていますが、韓国、エチオピア、および日本などにおいては食品としても摂取されています。クマロイルセロトニン(N-(p-Coumaroyl)serotonin)、フェルロイルセロトニン(N-Feruloylserotonin) は紅花種子中に特徴的に含まれるポリフェノールで、強い抗酸化活性をもつことが知られています。

(2)脈波伝播速度(Pulse Wave Velocity; PWV)
 動脈の硬化度は脈波(心臓から出された血液が血管を圧すことで生じる波)を利用して計測されます。脈波伝播速度は脈波が血管内を伝わる速度のことで、血管が硬くなればなるほど速くなることが知られています。脈波伝播速度は、例えば上腕と足首にある動脈の脈波を記録し、2点間の距離を、脈波が伝わるのに要した時間で割ることから求めることができます。近年、血管の硬さを負担なく簡便に測定する方法として、多くの医療機関で採用されるようになってきました。また加速度脈波、脈波増大係数(Augmentation Index; AI)といった、脈波の波形を利用して動脈の硬化度を計測する方法も開発されています。

(3)血管内皮細胞
 血流と直接接する、血管壁の最も内側を覆っている細胞で、血圧の調節ならびに血管を様々な傷害から守る機能を持っています。動脈硬化は内皮細胞の傷害から始まるといわれています。

(4)VCAM-1, MCP-1
 炎症反応に関わる蛋白質です。酸化LDLなどの刺激により、血管内皮細胞からも発現することが知られています。これらの蛋白は、発現した血管部位へ白血球を集め、炎症反応を起こします。血管における炎症反応は、血管の傷害を引き起こし、動脈硬化の原因になることがいわれています。また血管内皮細胞上に発現したVCAM-1の一部は血中へと移行し、可溶性VCAM-1として炎症ならびに血管傷害に関する指標の一つとして捉えられています。

(5)酸化LDL、抗酸化LDL自己抗体価
 悪玉コレステロールであるLDLコレステロールは、生体の様々な酸化ストレスによって酸化され、酸化LDLへと変わります。酸化LDLは血管に対し強い傷害作用をもつことから、動脈硬化の主要な原因物質として考えられています。また、生体は酸化LDLを異物と認識して、それに対する抗体をつくるので、抗酸化LDL自己抗体価は生体の酸化LDL量を表す指標の一つであると考えられています。

(6)血管平滑筋細胞
 血管壁を主に構成する細胞で、血管内皮細胞の外側を厚く取り囲むようにして存在しており、血管の収縮、弛緩といった反応に関わっています。この細胞の増殖、性質の変化は動脈の硬化に関わっていることが知られています。

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