味の素株式会社(社長:江頭邦雄 本社:東京都中央区)は、2002年ノーベル化学賞の受賞対象となったエレクトロスプレーイオン化法(ESI)を改良し、多検体を高感度で自動測定できるナノESI(μMetalTip)を共同開発、2003年4月に特許出願しました。当社では、この技術を質量分析計(MS)内でたんぱく質を切断し同定する手法(トップダウン・プロテオミクス)へと応用、高感度化・ハイスループット化が期待される次世代のプロテオミクス技術に取り組んでいます。 プロテオミクスとは、生体内に存在する多種多様かつ微量のたんぱく質の構造と機能を解明する研究であり、ポストゲノム研究として最も注目されています。MSを用いた微量たんぱく質の同定は、ESIによるイオン化とMSを組み合わせて行われます(図1)。当社ではESIに改良を加え、高感度・多検体の自動測定に耐えうるナノESI(μMetalTip)を金属加工メーカー栄商金属株式会社(本社:東京都大田区)と共同で開発しました。μMetalTipは、金属製であるため著しく耐久性が高く、貴重なサンプルの分析や多検体の自動分析を安心して行うことができます。当社では、この技術を最新鋭のフーリエ変換イオンサイクロトロン型質量分析計(FTICR-MS)に組み込み、MS内でたんぱく質を切断し同定する手法(トップダウン・プロテオミクス)に応用して分析の高感度化・ハイスループット化に活用したり、当社既存技術である『FTICR-MSを用いた当社独自のたんぱく質相互作用部位解析法』へ応用するなど、次世代のプロテオミクス技術に取り組んでいます。 当社では、このような独自のプロテオミクス技術をアミノ酸の新機能の発見、医薬品開発、生活習慣病の早期発見、新たな健康素材の開発、アミノ酸生産法開発と幅広い分野の研究へ展開していくことを考えています。 ![]() 今回我々が開発したナノESIは、先端にテーパー加工を施した内径30μm以下のステンレス製極細管からなり、従来のガラス製ナノESIと比べて飛躍的に耐久性が向上しています。2週間以上の連続測定を行っても、感度の劣化は全く起らず、1年以上の使用が可能です。また、内径が細いため、流速が毎分10ナノリットル〜3マイクロリットル(1ナノリットルは、1リットルの10億分の1)と極低流量で測定することができます。これにより、測定に必要なサンプル量の低減が可能となり、10フェムトモル(1フェムトモルは、1モルの1000兆分の1)以下でたんぱく質を同定することができるようになりました。また、生体内に存在する多種のたんぱく質を2次元電気泳動で分離・検出し、そのスポットを分析することにより、微量なたんぱく質を同定することができました。これにより、生体内の微量たんぱく質の変動をとらえ、その正体を明らかにすることが可能です。また、たんぱく質だけではなく、代謝物、ペプチドホルモンなどの微量生体成分の分析へ応用が期待されます。 尚、科学技術の進歩に少しでもお役に立つことを考え、共同開発先の栄商金属株式会社では、 μMetalTipの販売を2003年5月より開始いたしました。 以 上
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