2003年3月20日

高温適応型アミノ酸生産菌のゲノム解析
−耐熱性の菌株はどのように進化してきたのか−


 味の素株式会社(社長:江頭邦雄 本社:東京都中央区)では、ミレニアムプロジェクト微生物ゲノム解析の一環として行われたコリネ菌エフィシエンス株(Corynebacterium efficiens :C. efficiens)ゲノム解析プロジェクトに1999年−2002年の期間参画し、独立行政法人製品評価技術基盤機構、国立遺伝学研究所、大阪大学、東京薬科大学とともに共同研究を行いました。その結果の一部について2003年度の日本農芸化学会大会にて発表を行います。
 C. efficiensは1987年に当社の研究者によってC. thermoaminogenesとして発見されました。既知のグルタミン酸生産菌であるC. glutamicumに最も近い種の一つであるとともに、これに比較して生育至適温度が高い(高温適応型である)ことが知られています。本共同研究では、40℃以上の高温でグルタミン酸が生産できるというこの菌の特徴に注目し、その耐熱性機構の解明、遺伝子の系統解析を目的として比較ゲノム解析を行いました。
 発酵法によるアミノ酸の生産では、培養中に発酵熱が発生するため、一般的に発酵槽には冷却設備が整えられています。通常、C. glutamicumによるアミノ酸の発酵至適温度は30℃程度で、その温度を超えると冷却が必要となります。しかし、C. efficiensのような高温域での培養が可能な生産菌を利用することができれば、冷却の必要が無くなる、あるいは冷却設備能力を小さくすることができます。また、冷却に使うフロンなどの冷媒も削減できますので、コストの削減とともに環境への配慮も可能となります。このため、C. efficiensは次世代のアミノ酸生産菌株の親株として有望視されています。
 当社では、今回の研究結果を今後のアミノ酸生産そしてゲノム研究への応用に役立てていくことを考えています。

農芸化学会発表内容の概要
 今回解読された耐熱性を持つC. efficiensゲノム配列と既に公表されていたC. glutamicumのものとの比較ゲノム解析の結果、この菌株は共通の祖先となる菌から耐熱性を受け継いだわけではなく、進化の過程で遺伝子のGC含量(遺伝子に含まれる塩基の組成)が変化すること等により耐熱性を持つようになったと考えられることが判明しました。そこで、これらの菌に存在するオーソロガス遺伝子(お互いのゲノムにおいて一対一に対応する遺伝子のペア)の内、アミノ酸配列の相同性が60-95%であるタンパク質遺伝子について各タンパク質のアミノ酸配列がどのように変化を起こしているのかを網羅的に解析しました。この結果、リジン→アルギニン、セリン→アラニン、セリン→スレオニンへの変化が多いことが判明しました。さらに、この3種類のアミノ酸置換は、実際に測定された酵素熱安定性データとも相関関係を示すことを見出しました(特許出願中)。また、両菌株の詳細な比較ゲノム解析により、C. glutamicum、C. efficiensのアミノ酸の代謝経路には、それぞれに特異的な遺伝子が存在していることがわかりました。これらの遺伝子の中には、進化の過程で水平移行(異なる生物種間での遺伝子の移動)により獲得されたと推定される遺伝子も存在していました。


以 上